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盆 盆の送り 其の六

「傘持って来てくれたんじゃないの?」

「こんだけ濡れりゃいらないしょ?」

「まあね。ああ、びしょびしょ。こんなに急に降るなんてね」

「誰?今の人?」

「ああ、道を聞かれたから教えてたのよ」

「道?」

「ーなんか、行きたい所があるっていうから、こんな天気だからおやめなさいーって言ったの。ー?ーなんでそんな事言ったんだろ?私ってそんな事普段言わないー」

 母親はそう言いながらも、余り気にする事なく家の中に入った。


「大事はござりませぬか?」

「大事どころか、全然気がついていなかったし」

「流石母君様!見てはならぬ事をご承知で」

「いやいや。どう考えたって気がついて無いだけだしー。じゃなくて、向こうが気付いていないんだってば」

「ゆえに、母君様があのもの達と目を合わせなかったのでござりましょう。流石母君様」

「いやいや、だったらなんで女の人と話してるわけ?」

「女の人と?ややー!母君様はあのもの達と話しをしたのでござりまするか?」

「いやー、ちょっと違ってた」

「違っていたとは?」

「奴らとは違っていたけど、普通のひとじゃ無い」

「それでは、その者に呼ばれたのでござりましょう」

「その者?」

「若が目にしたもの達は亡者共にござります。盆の送りで帰る仏達は牛に乗って天に登りまするが、あのもの達は彷徨い歩かねばなりませぬ。ゆえにそのもの達とは、決して目を合わせてはならぬのでござりまする。ーさもなくば引かれて行く事となりまする。そのもの達と共にいたのだとすれば、亡者になりかけていたものやも?然るに、まだ迷いがあったのやも知れませぬ。成仏したか生き還ったかー」

「マジか……なんでおかん?」

「母君は見込まれなされたのでござりましょう」

「なんで?」

「母君は特別にござりますゆえ」

 ー特別……って、確かに呆け気味だがー



「圭ちゃん、仏様帰るよ」

 仏壇に線香をあげる。

 迎え火の時同様、仏壇の有る部屋から、玄関迄の部屋のドアや襖を開け放す。

 玄関を開け門を開く。

 玄関で焙烙皿に、新聞紙とおがらに火を付ける。

 おがらに先に火を付けると消えやすいから、新聞紙にしっかり火が回るのを待つと、直ぐにおがらに火が回る。

 白い煙が真っ直ぐに上がるかと思いきや、すーっと風が吹いているようでも無いのに、不思議と煙が家の中に入り込み、直ぐに慌ただしく外に出て空へと登って行く。

「牛に乗って帰るって本当なんだ……」

 圭吾は初めて空へ牛に乗って、ゆったりと帰って行くご先祖様達の姿を見送った。

 お盆にお迎えした、各家の仏様と呼ばれるようになった人達が、白い煙のような姿となって牛に跨って天に昇って行く。

 お墓にのんびりと牛に乗って行くものもいるー。

 圭吾は初めて見る光景に、敬虔な思いを抱いて見送った。

「……」

 門の外を眺めると圭吾は小さく頭を下げた。

 坂の下のおじいさんが何時ものように、にこにこ笑いながら歩いて門の前を通って行ったからだ。

「坂下のおじいさんのお墓って、此の辺じゃ無いでしょ?」

「此の辺にお墓が有るのは、昔からの土地の人よ。私のお祖母さんが生前に買おうとしてた霊園に、お墓が有るみたい」

 ああー。車で30分はかかる、畑が広がる長閑な所だ。

 此の辺に家を買って移り住んだ人達のお墓が、だいたい其処に有るという、大きな霊園だ。

「おじいさんはまだ此処にいるのかー」

「何ぶつぶつ言ってんの?ほら蚊が入るから玄関閉めて!蚊取り線香付けて」

「へいへい」

 焙烙皿に水をかけ、玄関を閉めて家の中に入った。


「ああ、これでお盆も無事済んだ」

 母親は毎年、送り火を済ませると言う。

 ほっとするのだろうー。それ程母親にとっては、大事な行事なのだ。

「圭吾が生まれた頃には、お盆になると仏様の気配がしてね、怖いっていうか、なんかほっとする所あったのよ。帰って来てるんだってー。それが、いつからかしら?お盆になっても、気配がしないのに気がついたの。ばあちゃんが帰って来てくれるかと思ってたんだけど……やっぱり……しないんだよね。なんだか寂しいのよね……」

 母親は仏壇の供え物を片付けながら、ポツリポツリと言った。


 ーああやっぱり、おかんは……持っているんだ……


 圭吾は今迄認めようとしたく無かった事を思い、そして素直に感じた。

 それは圭吾が、認めようとせずに感じなかったものを、目の当たりにした為かもしれない。

 何故初めて仏様達の姿を見れたのだろうー。

 ポケットの中の護符に手をやり圭吾は納得した。

 ああー。金神様の護符の所為かー。

 護符を神棚に置くと圭吾は二拍して頭を下げた。



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