表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/299

黄泉国 お迎えタクシー 其の五

「しかしながら小さき家護りは、お家を護るがお役目の筈」


「さようにござりまするば、主人たる母君さまが厄介事……殊に黄泉の国に関わりでもお持ちになれば、我が家の一大事にござりまする」


「ふーむ……小さき家護りもなかなか気苦労であるなぁ」


「心中お測りくだされまして、真にありがとうござりまする」


 〝お迎えタクシー〟は、音も無く静寂とした今の世の中に在るのに、不気味な程暗闇と化した深夜の街を走り始めた。


「世の移り変わりは毎度の事だが、昨今の移り変わりは、我等の目を持っても凄まじいものがある」


「実に嘆かわしき事にござりまする。この辺りも大きく変わり果て、ぬしさまが彼方に行かれてしまわれましてござりまする」


「それは此処の者達にとって、大きな痛手であろうに……」


「さようにござりまする。ゆえにこのような事に陥りましても、誰一人として理解いたす者もおらず……。お力を頂けるものもおりませぬ。されど、我が使命は、ここにおられまする若さまと、ご当主であられる母君さまをお護りいたすこと……。この身に変えましても、お護りいたさねばなりませぬ」


「それは、そのように小さきものの家護りには、難儀な事であるなぁ……」


「それは……それは難儀な事にござりまする……」


 いえもりさまは、大そう思い詰めた苦渋の表情を浮かべて言った。



 ……こんな表情を浮かべる程苦労しているとは、とても思えないのだが……。こういう奴らには、圭吾の気づく事ができない気苦労があるのだろう……

 ……いやいや、あのおかんじゃ、解らなくも無い気もする……



「確かに、あの辺りには大そうな〝ぬし〟がおったからな。開発が進んだものの、大事が無くいられたのも、あのものの力があっての事……それを彼方へと追いやる事となろうとは、近き将来あそこも今までのようには立ちいかなくなろう」


「それにござりまする……。ぬしさまはそれを心より案じられ、従者のがま殿を、若の兄貴分さまに託されて行かれましてござりまする」


「ほう……。おお!あの大がまか……。あれも長きに渡りぬしの側に仕えておったもの故、多少の力は持っておろう……そのものを託されるとは、兄貴分とやらはただ者ではないな」


「それは、ぬしさまがいたくお気に召されるだけの事はあり、とてもとてもご立派な若者にござりまする」


「ふん、ならばそのもの達に、今回の事も託せばよかったであろうに……」


「おっ?考えが及ばなかったが、まじそうだし」


 圭吾が間髪入れずに話しの間に入って言った。


「まじ考えがなかったわ……がま殿と友ちゃんの方が、俺らよか適任……適任だったじゃん?愚かだわー俺ら」


「それが……そうも参らず……にござりまする」


「はあ?なんで?」


「第一に、母君さまが関わっておるやもしれぬ事でござりますれば……」


「はあ……そうだった……」


「第二に、今兄貴分さまはそれどころではござりませぬ」


「……それどころじゃないって、なんか友ちゃんにあんのか?」


「はい……」


「ええ?友ちゃん大丈夫なのか?まじ心配だわー」


「いえ……若がご心配いたされる事では……」


「えっ?心配する程じゃねぇの?いやー驚かすなよ……って、いったいなんだ?やっぱ気になるわ」


「さようにござりましょう……」


 いえもりさまが真顔で言うから、余計に心配になったりする。


「もー兄貴分さまのご心配など無用にござります」


真顔を向ける圭吾に、いえもりさまは軽く言う。


「だから、友ちゃんに何があったってえの?」


「何もござりませぬ。ただちとお忙しいだけで……」


「忙しい?就活か?確かに忙しいわな……こんな事に関わっる場合じゃあねぇか……」


「いえ若。兄貴分さまは〝いん〟とやらに参られるらしく、就活はなさらぬとか」


「いん?……大学院か?まじかあ〜、友ちゃん頭いいかんなぁ……」


「……と申すよりも、木霊の件以来環境について、真摯にお考えのご様子……。もっともっと学問をなさり、現世を良きようにして下されようとのお考えのご様子」


「まじかあ〜」


……流石友ちゃんだ……


 友ちゃんは小さい時から、自然や植物昆虫動物が大好きだった。

 それに、圭吾には持ち合わせていない〝何か〟を持っているのだ。


「それで忙しいと?」


「いえいえ……」


「は?」


「それで忙しいのではござりませぬ」


「はあ?……じゃあいったいなんなんだよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ