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黄泉国 お迎えタクシー 其の一

長らくお休み頂きました。

書き進めたものが有りましたので、投稿させて頂きます。

まだまだ、間は空くかと思いますが、少しづつ進めて行きたいと思いますので、どうか宜しくお願い致します。

「変なものを見たの……」


 今日の授業は、誰かに代弁してもらえば、行かなくてもいいか……。

 なんて、呑気に遅く起きて来て、居間の所定の座椅子に腰を落とした所で、コーヒーを飲みながらドラマを見ていると思っていた母親が、かなりの真顔を向けて言った。

 人の表情などには、とんと疎めの圭吾ではあるが、流石に〝金神様〟の申し子で、ちょっとした〝もの〟を持ち合わせていると、認めざるおえないと感じ始めている母親のその表情を見ては、とてもとても嫌な感じを受けてしまうのは否めない。


「へ……」


 と言って、圭吾はその先を続けるか否か、ほんの一瞬考えて言葉を続けた。


「変なものって?」


「ほんと変なのよ……。昨日友達と飲みに行ったじゃない?」


「そんな事言ってたな……」


「覚えてなかったんだ?まっ、いいけどね。で、帰りが遅くなっちゃったんだけど、大きい通りの向こうの佐伯さんの所にタクシーが停まってたのよ」


 圭吾の家の周りには、〝通り〟と称される、かつて〝道〟と呼ばれたものと〝道路〟と呼ばれたものがいっぱい入り組んで存在する。

 母親の指差した方向を見て想像するに、母親が少女の頃には〝道路〟と呼ばれていた、うちの門を出て駅に向かう時に突き当たる、家の前の通りの陪の道幅の、圭吾達がいう〝通り〟の事で、その通りを数歩で渡ると、圭吾の家の周りと殆ど変わらない住宅街が駅迄続いている。


 ……それは何時からなのか?……


圭吾には分かりようもないことだが、圭吾がもの心が付いた頃には、最早この街並みはあったわけだが、決して昔々からの事ではない。

 何故なら、母親が語るこの辺りの風景は、決して今圭吾が知っている〝この風景〟ではないからだ。

そんな住宅が続く〝通り〟の向こうに、佐伯さんの家は在る。

それも〝通り〟から少し入った所だ。


「ん……」


 圭吾は、マジで聞いた事を後悔し始めた。


「遅い時間だけど、ご主人とか娘さんとかが、帰りが遅くなってタクシーで帰って来たかと思うでしょ?」


「まあ……何時だかはわからんが」


「あんたじゃあるまいし、遅いったってたかが知れてるわよ」


「まあ……そうだな……ははは……」


 圭吾は次あたりにくるであろう決して決して自らは望まない、話の重要点の存在を振り払うように陽気に笑って見せた。


「そしたら、家の中から小さな子供が出てきて、タクシーに乗ったのよ」


「うわー」


「!!!何よ大声出して」


「いやいや……」


「その後、親が来ないと変でしょ?」


「いやいや……子供だけで乗ってる時点でマジ変だから……」


「でしょ?だってその子やっと歩き出したくらいの子だったのよ……」


「マジか……」


「そうそう……で、そのままタクシーが走って行っちゃったのよ。親が居なかったのは見間違いかな?なんて思ったんだけど、ちょっと気になって、其処の家の前まで行って見たら、もう家中暗くて寝静まってるって感じだったし、タクシーで誰かが出入りした感じがなかったのよ……。変でしょ?」


「う……変だけど、それを確かめに行くのも、かなりなもんよ」


「そう?だってすっごく気になったんだもん」


「それは……まあ、そうだろうけど……確かに……」


「そう言えば、ばあちゃんが生きていた時に、呼んでもいないのにタクシーが来た事があってさ、凄く気味悪かったわ」


「へえ?……で、そのタクシーなんで来たんだ?」


「さあ……?運転手さんは、自分の聞き間違いだろう……って言ってくれたけど……いい人でよかったわよ。私は嫌がらせでもされたのかと思っちゃったわよ」


「身に覚えでもあんのか?」


「あの時にはなかったけど、今となっては無くも無い感じ……」


「いやいや……無い無い。昨夜の事も気の所為気の所為。少しは飲んでたんだろ?」


「うーん。まあ……」


「だったら、ちょっとした勘違いだって」


「そう言われるとそんな気がしてくる……」


「じゃあ、飯」


「あっ?そうね……」


 母親はこういう所は素直なので、直ぐに立ち上がった。


「だけど、その年にばあちゃん亡くなったのよね……。やっぱり、なんか知らせ?みたいななんかあったとか?」


 かなり意味深な言葉を軽く言い残して、台所に食事の仕度に行った。

 こういう所が、母親の侮れない所というか、面倒くさい所というか……。


「はあ……マジか……。絶対なんかあるから……マジ勘弁……」


 圭吾が大きく頭を垂れて項垂れると


「若……」


「やっぱな……」


 圭吾はぐったりとして、奥の部屋の神棚の上を見た。

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