新春 猫にゃん にゃん 其の終
尊い猫神様の猫にゃん様と、犬神様の犬わん様が去った後、圭吾といえもりさまが〝忠犬ハチ公〟の銅像の前に佇んでいる。
人々は圭吾だけではなく、異質ないえもりさまの存在すら知らずに、スクランブル交差点を行き交っている。
「猫にゃん様は、かなり身勝手だな……」
「それは、猫を代表とされるお方でござりますれば」
「なるほど……」
「それに反して犬わんさまは、ご忠義に厚く律儀なお方なのでござりまする……」
「なるほど……」
「……が、しかしながら温厚で思慮深く慈愛に満ちたお方でござりまするが、厳しさは猫にゃんさまの比ではござりませぬ」
「厳しさ?とても厳しいとは思えんな……。猫にゃん様の〝ちょっとうたた寝〟は、絶対ちょっとじゃないと、俺は見た。それをじっと待ってて、会えたってあの程度だぜ」
「いやいやほんの10年ほどにござりまする。犬わんさまには大したお時間ではござりませぬ」
「10年?10年っていやぁかなりのもんだぜ。おぎゃーて生まれた赤ちゃんが小4だぜ。犬わん様かなり優しいわ」
「お優しいお方でござりまするが、かなりの残酷な面もお持ちにござりまする。猫にゃんさま達が悪行とされたものは、寿命を10年取り上げられましょう。つまり、今若がもうされたように、人間にとってはかなりの年月を取り上げられるのでござりまする……神無月に神々様方がお集まりになりました折、他の神々様も同調なされれば、全ての人間の寿命が縮みましょう……つまりのところ、最近神にでもなった心持ちの人間共が、全ての者が迎えられると信じておる、〝100歳〟を迎えられる者は、おらなくなるという事にござりまする」
「ああ……そっか100歳の寿命の人間が90歳で死ぬって事か……ええっ?マジやべーじゃん……っても、犬や猫を殺したからって他の神様が同調するわけねぇじゃん」
「いやいや若主さま……人間の悪行はそれのみにとどまってはおりませぬ。全ての神々様が猫にゃんさまと同じ思いをお持ちになりましょう……つまりは、全ての悪行の報いを受ける事となりまする」
「……ちょい、その悪行って殺生の事じゃねえの?」
「もろもろの悪行にござりまする……」
「もろもろ……ったって……」
「若……古来よりこの国には、神々様方はいっぱいいっぱいおいでになるのでござりまする。地の神山の神……水の神海の神……風の神火の神……。若達がもうしまする、地球上の自然の全てのものに霊が存在し、全てのものに神が存在するのでござりまする。その神々様方が、この世を形成いたしまする自然界の調和を計り守り、地球さまを守っておるのでござりまする。その調和を今や人間共が壊し、神々様を恐れ憚らず、我が物顔で悪行を積み重ねておりまする。……処分……するなど、言語道断でござりまする。そのような事を許されるは、全てのものの主である地球さまがお許しになられた、神々様だけなのでござりまする。しかるに今の世は、全てが人間の物の如く扱わられ、振舞われておりまする。真の所有者として許されし〝神〟は、人間の都合で形を変え役目を変え、都合よく崇められておりまするが、地球さまがお与になられたお役目は、太古の昔よりただ一つにござりまする。変わる事などあり得ないのでござりまする。故に今や罪が無い〝者〟など、この世に存在いたしましょうか?」
「……そう言われるとな……確かに殺しちゃいかんと思うが……」
「若……殺生だけの問題だけではござりませぬ。天も地も海も山も……全ての問題にござりまする。神々様方がただ、人間共の横暴を黙ってご覧とお思いでござりまするか?最早各神々様の裁断は下されつつあるのでござりまする」
「俺ら人間をどうするかって事か?」
「それがこの先、神々様方の御方針としてひとつとなって示されれば、直ぐに天罰は下されまする」
「人間全滅か?」
「さようにこざりまする。寿命を10年短くするか、天地をひっくり返し人間共をこの世から排除するか……」
「まじか……」
「神々様方を決して甘く見てはなりませぬ。尊び敬う心を忘れれば、神々様方は罰を下されまする。そうせねば、真の主さまをお護りいたせませぬゆえ……この世は全て真の主さまからのお借りものでござりまする……天も地も……誰の物にもならぬのでござりまする。ましてたかが人間如きが……」
……話はかなり怖くて大きな事に繋がっている……天地がひっくり返って、人間が排除される事と比べれば、寿命を10年短くする事なんか可愛い処分に思えてくる……
……以外と猫にゃんさまはいい奴か?いやいや単に単純なだけなのかも……
「そうだよなぁ……俺らが処分すりゃ、俺らも処分食らっても文句言えねぇか……」
「それが道理にござりまする」
「道理か……」
……よくいえもりさまはこの言葉を使うが、圭吾にはこの言葉の本当の意味がわからない。学校でも社会でも、今は使わないから聞きなれない言葉だし、意味も不明だ。だがこの言葉の本当の意味を理解しないと、神様のみならず、いえもりさま達不思議なもの達とも、上手くやって行けないのかもしれない……
圭吾は珍しく真面目にそう思った。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
今年は病気がちで、新春のお話が今頃になってしまいました。
体調が優れない今年ですが、ほんの少しづつでも書いていきたいと思っています。
どうかよろしくお願いいたします。