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新春 猫にゃんにゃん 其の六

「……待ち合わせの場所……といえば、やっぱり渋谷のハチ公前だろう?」


 受け狙いで圭吾は言ったが、どうやら……いやいやどう考えたって、言う相手を間違えている。


「えっ?もしかして相手を間違えた?」

 気がついた時には、もう遅かった。

「ほおー?今の世は、待ち合わせ場所に定番とやらがあるのか?家守り……」

「お恥ずかしゅうござりまするが、私め存知おきませず申し訳ござりませぬ。そのような場所が存在いたしますとは……」

「ふむふむ。ならば犬わんは賢いゆえ、其処におるやもしれぬな……」

「さようにござりまするな……」

「いやいや、いえもりさま……」

 間抜けな圭吾が訂正をしようとしても、二人は話を聞いてくれない。

「……では、その場に案内致せよ若主人」

「いや……猫にゃん様……」

「ささ若参りましょう」

「参りましょう……ったっていえもりさま……」

「……よもや知らぬ訳ではあるまいな?」

 猫にゃん様は、今迄垂れ下げていた耳を〝ピン〟と立てて、目をまん丸にして言った。

「やや若!知らぬ……では済まされませぬぞ。先ほどももうしましたように、猫にゃんさまは気難しいお方なのでござりまする」

 勿論の事ながら、いえもりさまは大層慌てて、追い打ちをかけた。

「う……うー」

 圭吾は、自分の浅はかさを反省したが、今となっては後の祭りだ。

「い……今の待ち合わせ場所の定番はある……」

「おっ!あるのか?」

 猫にゃん様が、今度は猫目になって、垂れ下げていた尻尾を〝ピン〟と上げて言った。

「あるのでござりまするな?よかった……」

 いえもりさまが安堵の声を上げた。

「……あるにはあるが、犬わん様が其処に居るかは……うう……まじやべー」

「……全く何を四の五申しておる。さっさと参ろうぞ、犬わんは首を長〜くして待っておるであろう」

「さようでござりまする……ささ若〝よろ〟でござりまする」

「家守りよ。なんじゃその〝よろ〟とは?面白いの」

「宜しく頼む……を今風にもうしたものにござりまする」

「ほほ……〝よろ〟か?若主人〝よろ〟であるぞ。ほほ……面白いの」

 猫にゃん様は上機嫌だ。

「いや……だから……」

「ほほ……〝よろ〟じゃ〝よろ〟」



 圭吾は、いえもりさまをコートのポケットに入れ……

 ……さて、猫にゃん様は如何したものかと考えていると……


「何をしておる若主人」


 そう言うと、猫にゃん様はスタスタと圭吾の前をにゃんこウォークで、颯爽と歩き始めた。


「ええ?猫にゃん様それはマズイっしょ?」

「何がじゃ?」

「何がって……これから街中を歩いて駅に行き、電車に乗るのに……」

「何をチキッた事を申しておる」

「いや……流石に猫がそのまま電車に乗るのは……」

「若……猫にゃんさまは、大概のものにはお姿は見えませぬ」

「え?」

「そうじゃ、見える者には見えるが、そう見えるものではないのじゃ」

「霊験あらたかなお方ゆえ、お姿を見えるという事は、それはそれはありがたく幸せな事なのでござりまする」

「はいはいそうですか」

 圭吾は面倒臭くなってそう言った。


 確かに圭吾の前を颯爽と歩いている猫にゃん様に、気がついている者は殆どいないようだ。

 かといって、全くいない訳ではないらしく、気がついた者はその颯爽とした、愛らしい猫にゃん様の姿の虜になってしまっているように見えた。

 つまり、かなり可愛いメタボ猫が歩いている……というように、見えているのやもしれない。


「なるほど、見える者には見えるのね……幽霊みたいなもんか……」


 圭吾なりの納得の仕方だが、決して同じではないし、そう解釈していると知られれば、かなり恐ろしい〝ばち〟が当たるような気がしないでもない。


 なんとも過激だが、姿だけは愛らしい猫にゃん様を連れて、圭吾は人混みでごった返す渋谷のハチ公前に辿り着いた。


「おお……」

 猫にゃん様は何やら大声を上げて、銅像の前に走り寄った。

「何やら知っておる気がいたすぞ」

 猫にゃん様は、銅像の前をしげしげと歩きまわって、再び深〜く考える素振りを見せた。

「ちょっと前の戦の折に、確か像は溶かされてしまったのじゃった……そうじゃそうじゃ、誠に人間とは愚か者よと思うたものであったのじゃった……」

 そう言うと、猫にゃん様はしげしげと〝忠犬ハチ公〟像を眺め見ている。

「おお!猫にゃんではないか?」

「おお!やはり犬わんおったのじゃな」


 ……マジいたし。笑える……


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