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新春 猫にゃんにゃん 其の二

「そればかりは、マジでまずうござりまする……」


 案の定、部屋の前までやって来ると、いえもりさまの押し殺したような囁き声が、地獄耳の圭吾に聞こえた。


「……どうにかなされてくだされまし……」

「どうにか……と申しても、如何様にもならん」


 ……またまた、誰と話してんだ?


 ドアの外で地獄耳の圭吾が聞き耳をたてる。


「如何様にもならんとは、これは些かやられ過ぎにござりまするぞ」

「……いや……そうなのか?」

「……いや……そうなのか?……ではござりませぬ。これは真に真にまずうござりまする」

「……そう其方が申してものう……最早如何様にもならん。死んでしもうた者は生き返らんからのう……」


 ……げっ!……


 流石に聞き捨てならなくて、ドアを開けて中に入った。


「またまたなんだ?」

 ドアを開けて立ち尽くす巨体の圭吾を、ベットの上で棒立ちの様になっている、小さないえもりさまが見上げた。

「こ……これは若さま……」

 二足で立ち上がっているいえもりさまの格好は、かなり可愛いが、そんな事を思う余裕も無く、圭吾はその隣で寝そべっている、大きな三毛猫を見た。

「……猫?」

「……誰じゃ?」

「……猫?」

「……誰じゃ?」

 二人……いやいや、一人と一匹が同じ台詞を二回言いながら、いえもりさまを見た。

「……こちらは、我が若主でござりまする」

 いえもりさまは、寝そべったまま見上げている、巨大猫にそれはそれは丁寧に言った。

「ほう……お前の若主人か……?わしを見れるとは……」

「はい……若主の母君さまは、金神様のお申し子様にござりまする」

「ほう……金神の……?あやつも、やる事は惨酷だが、慈悲深い所もあるからの……」

 三毛猫はそう言うと、コロンと寝返りをうちながら、しげしげと圭吾を仰ぎ見た。

「若さま……こちらは、猫にゃんにゃんさまでござりまする」

「はい……?」

 圭吾が聞き返した。

「……鈍臭い奴だの……」

 巨体三毛猫はすかさず言った。

「はあ?」

「……いやいや……若さまは、決して鈍臭いお方ではござりませぬ……確かに物を知らぬ事は多うござりまするが、鈍臭くはござりませぬ」

 どうやらいえもりさまは、いえもりさまなりに庇ってくれているようだが、決してフォローになってない。

「……こちらは、猫の神様の猫にゃんにゃんさまにござりまする」

 圭吾がちょっと納得いかないと思っている事など、知る由も無いいえもりさまは、〝猫にゃんにゃん様〟に頭を下げてから圭吾に言った。

「略して猫にゃんね」

 猫にゃん様は、さっきからずっと寝そべったまま、寝返りをうったり、コロコロ転がったりしたままの体勢で喋っている。

「……猫にゃん……」

「さようにござりまする。本当は霊験あらたかな、それはそれはご立派なお名前をお持ちにござりまするが……」

「なんか……凄く長いし面倒くさいから、簡単に〝猫にゃん〟にしたのよ」

「はあ……」

「猫にゃんさまは、もの忘れが激しいお方なのでござりまする。太古の昔より長く長〜く居られまする内に、その時代時代でそれはそれはご立派な呼び名で呼ばれ、お気がつかれた頃には、とても面倒くさい程の長いお名前になっておられたとか?ご性分が面倒くさがりの事もござりまして、確か先の戦……はて?何時の戦でござりましたか?」

「……はて?何の話しじゃ?」

「猫にゃんさまが猫にゃんさまになられた頃の話にござりまする」

「おお……それはついこの間の戦の後の事……」

 いえもりさまと猫にゃんさまは、圭吾を見た。

「……ついこの間の戦……って言ってもなぁ……いえもりさまの〝ついこの間〟は、ついこの間じゃねぇんだよなぁ……っても、他所の国の戦は関係ないし……」

 圭吾がブツブツと独り言を呟く。

「……やっぱり鈍臭いではないか……」

 せっかちな性分でもあるらしく、〝猫にゃん様〟が茶々を入れる。

「……多分、太平洋戦争……と、俺はみた」

 反対にのんびり屋でマイペースな圭吾は、気にもとめる事もなく言う。

 それを聞いて、気配りのいえもりさまがすかさず

「……の後に、ご自分で命名されたのでござりまする」

 猫にゃん様のご機嫌を伺うように言った。

「……なるほど」


 ……結局、面倒くさがりで、長い長〜い名前は、直ぐに忘れてしまうから、戦後自分で忘れない名前を付けた……という事なわけね……


 圭吾はそう納得したが、このかなりメタボ体質の三毛猫が、猫の神様とは吃驚だ。


 だがしかし、まったりと圭吾のベットの上で、我が物顔で傍若無人に寝そべっている……この余裕はやっぱり、〝神〟だからなのか?

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