8.そして今日という日は終わらない
ふらふらしているエトを支える。
「……」
あの教えを直接教え込む光を浴びてから全く喋らなくなった。
「……」
……それにしても、男の人って重いなあ。
「あのー」
「……」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。なんてね。……まさか、本当に屍になってないよね?
『生きてはおるぞ。呼吸も聞こえるじゃろう』
ああ、それなら安心……か?
そのまま2.3分たった頃だろうか。
「……ぅ」
エトが小さなうめき声を上げた。
「あ、気がつきましたか?」
「……ミソラ……ちゃん?」
エトはキョロキョロと辺りを見渡していた。顔色が悪い。
「……大丈夫ですか?」
「ちょっと大丈夫じゃない……よ。ミソラちゃん……今の……何? う……。頭の中に色々入ってきた……」
「えーと。神様が正しい教えを頭の中に直接入れた、みたいですよ」
というかこれ、シオンも変なことを言い出すようになってたし、やっぱりヤバいやつなんじゃ……。
『……』
「へえ、それはまた…………。今のが正しい教えなの? 確かに教会の言っていることと違ったけど」
「……多分そうです」
「なんで君が疑問型なの」
……だってよく考えたら私、教会の教えも正しい教えも知らないんだもん。
『知りたいなら、直接教えてやるぞ?』
……遠慮しておきます。私はまだ、シオンみたいにはなりたくない。
「……じゃあ、そろそろ僕は教会に戻るね。やらないといけない事があるから」
「え、でも教会は……」
「またね。ミソラちゃん」
「え、え?」
そういうと、エトはちょっとふらつきながら、私を残して、どこかへ、教会へと行ってしまった。
神様ー! 神様ー!
『なんじゃ』
あれをしたら、教会に行かなくなるんじゃないの? エト、行っちゃったんだけど!?
『行ってしまったのう。この町には大きな教会が建っていたし、そこに行ったんじゃろうな。じゃが、教会にいると危険だ、ということは伝わったはずじゃ』
どうやって? ……というか、あの光るのってどういう仕組みなの?
『……仕組みは、対象にワシの持っている知識や経験を植え付けるだけじゃよ』
だけ、なんですか。じゃあ、シオンには正しい教えの知識を植え付けただけなんですね。
『そうじゃ、別に人格を変える様な技ではないぞい』
本当ですかー?
『結果として、性格に何らかの影響がでてしまう事もあるがの。……シオンの様に』
結果としてでも変わることがあるんじゃないですか。
『そうじゃのう』
「ミソラさーん!」
噂をすればシオンの声がした。
ぱたぱたぱた、と駆け寄って来る。
「光ったからまさか、と思いましたけど、こんなところにいたんですか? 探しましたよ」
光ったから、て……。
「ごめんね、シオン」
「あ、ミソラさんが謝るほどじゃないですよ! あれだけ人がいれば迷子にもなりますって」
「……迷子になってごめんね」
「いえいえこちらこそ、はぐれたりしてすみません」
『いつまで続くんじゃ。そのやり取りは』
確かに、ずっとこんなこと言っていても仕方ないか。
「シオン。暗くなってたし、そろそろ帰ろっか」
「え、あ、はい。そうですね。帰りましょう」
シオンの家に着いた。
中に入ると黒い霧を纏った色々なアクセサリーが飾ってあった。ああ、あれを売っているんだっけ?
……売れたのかな?
「今日は売れませんでしたよ。というか、客が来ませんでしたね」
シオンの父親がそう言った。
なにそれ悲しい……、だけど安心した。この店のせいで魔物になっちゃうかもしれない人は、まだいないって事だね。
うーん、光って浄化しておこうかな……。
『そうじゃな。やっておいた方が良いな』
神様もこう言ってるし、やろうか。
「ミソラさん? うちの商品に一体何を……?」
『祝福じゃな』
「……祝福です」
光が部屋を満たした。
……なんか、光るの慣れてきたな。
光が収まったあと、アクセサリーを覆っていた黒い霧はなくなっていた。……代わりに、何だかちょっと光ってるけど。なんで?
『今の光で、ワシの力が少し移ったみたいじゃな』
ふーん。何かに使えるの?
『あれじゃ。魔法みたいな力を使えるようになるぞい。普通のやつには魔法と区別できんがの』
へー。
バダンッ
その時、店のドアが開いて、
「ミソラちゃん! ちょっといいかな!」
エトが入ってきて、
「え?」
私の手をつかんで、
「ちょっと来て」
夜の、町の中へ、走り出した。
「な、何を……」
「早く逃げないと、あいつに殺される!」
え、どういうこと!?