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3.商人の娘は純粋に

 お気に入り登録して下さった方へ。

 ありがとうございます。嬉しいです。

「本当にありがとうございます!」

 シオンとその父親らしき人が言うことには。


 なんでも、二人は町に行って店を出すために、この道を通っていたらしい。そしたら、魔物に襲われた。二人には魔物と戦う術などなかったので、父親が魔物を引き付けて、その間にシオンが魔物をどうにかできそうな人を探して連れてくる、ということになった。

 それで、森の中に入ったシオンは、魔物の一匹に見つかって、逃げ回っていた。

 走り回って、もうダメだと思ったその時、奇跡が起きた。

 シオンと魔物の間に光る球の様が出現し、そこから私が現れたのだ。

 そして、私はなんか凄い力を使って魔物を倒し、シオンの怪我も一瞬で治した。

 そして、この人ならあの魔物達もどうにかできる、と思い至って私を連れてきた。


 と、いうことだった。

「ミソラさん。何か、お礼をしたいので、よろしければ町まで我々と来ていただけませんか?」

 シオンの父親がそう言った。

「また、魔物が出ないとも限りませんし、一緒にきていただければ心強いのですが」

 うーん。こういう場合ってどうすればいいんだろう。

『特にいくあても無い訳じゃし、行ってもいいと思うがの。二人は悪い人間には見えんし』

 うーん、まあそうだよね。

「ミソラさん?」

「あ、はい。特に行くあても無いのでいいですよ」

「そうですか。それは良かった。では、狭いところで悪いですが、馬車に乗って下さい」


 ガタン、ガタン、ガタッ


 馬車に揺られながら、遠ざかる景色を眺める。

 舗装されていない道の側に生える青い花をつけた植物、ときどき道を横切る大きな赤いカエル(森ガエルというらしい 毒があるんだそう)。とにかく見たこともない様なものがたくさん、目に写っては通りすぎていく。

 はぁ、この景色、日本じゃあ絶対に見れないんだろうな。

 見られないなら別に、一生見られなくてもいいと思うけど。

 気がつくと、隣にシオンがいた。

 シオンはもごもごと、何かを言いたげにしている。なんだろう?

「どうしたの、シオン?」

「あ、あう。その、ミソラさん、さっきは何も説明せずに連れてきてしまってすみません」

 ああ、そのことか。

「いいよ、もう過ぎたことだし」

「……優しいんですね」

 ゴトッと馬車がゆれた。

「あの、その、ミソラさんって、その、何なんですか?」

「え?」

「あ、その、別に変な意味じゃなくてですね。あの、光ったりしてたから、何なのかなーって思って」

 えっと……。あれ? 私、ここでは一体どういう者なんだろう。女子高生、は多分通じないし……じやあ異世界人か?

『ワシに頼まれて来てるのじゃから、神の使いじゃよ』

「……神の使い?」

「え?」

 シオンの表情が固まった。……やば、変な人って思われたか。

「いや、その……」

 シオンの方を見ると、やたらキラキラした目でこちらを見つめていた。

「ミソラさんって、神の使いなんですか」

「う、うん。そうなる、よ?」

「それでそんな変な服装なんですね!」

「う、うん」

 変って……。そう言えば、私、今制服か。この世界には無いファッションか。

「でも、なんで、あんなところにいたんですか?」

「え、えっと……それは」

 どうしよう、何て答えればいい?

『この世界に蔓延る間違った教えを葬り去り、正しい教えを広めるためじゃ』

「……この世界に蔓延る間違った教えを葬り去り、正しい教えを広めるため、だよ」

 よく考えたらそれ、答えになってなくないか?

 そう思ったが、シオンはそんなことを気にしていなかった。

「間違った教えが広まっているんですか?」

「あ、うん。魔物が世界中にいっぱいいるのもそれが原因なんだって」

「そうなんですか!?」

「う、うん」

 ……この子、私の言葉を全く疑う気配がないけど大丈夫かしら。

『信じてもらえるのだからいいじゃろう』

 そういうもんか?

「あの、私に何かお手伝い出来ることはありますか?」

「えっ……と」

 シオンは私を射ぬかんとする様な真剣な眼差しを私に向けた。

 えっと、どうしよう。私、まだそういうのよくわからないし、助けて神様ー。

『ワシ的には、正しい教えを信じ続けてもらえれば、それで充分じゃ』

「正しい教えを信じ続けてくれれば、それで充分だよ。ありがとうね、シオン」

「そう、ですか……」


 ガタン、ゴトン、ガタッ


 しばらく、無言の時間が続いたが、やがて、シオンが口を開いた。

「その教えって、たくさんの人が信じれば信じるほどいいんですよね」

「うん、そうみたいだよ」

「だ、だったら」

 シオンの瞳に決意の色が宿った。

 この子、よく表情が変わるな。

「私、私がたくさんの人にその教えを広められたら、ミソラさんの役にたてるんですよね? 私、頑張ってたくさんの人に正しい教えを話して、信じてもらいます!」

「う、うん」

「私、絶対に恩返ししますから」

「あ、ありが……と?」

「はいっ! ところで、正しい教えってどんなのですか?」

「あ、えーと、それは……」

 そういえば、正しい教えって言うけど、内容を全く知らないや。

 神様ー。正しい教えって何?

『口で説明するの面倒じゃから、直接頭の中に流し込んでもいいかのう?』

 え? そんなことできんの?

『出来るぞい。疲れるから今まではやらんかったがな。シオンはたくさんの人に話してくれるのじゃろ。なら、使った力のぶん、元は取れるはずじゃ』

 ふーん? それで、私はどうすればいい?

『それっぽくシオンの額に手でもかざしておいてくれ』

「ミソラさん?」

 シオンがじーっと私が話すのを待っている。私は、そんなシオンの額のところに手をかざし、

「待たしちゃってごめんね。口で言うのは大変だから、頭に直接入れるって」

「え? それはどういう……きゃあ!?」

 突然、シオンが光に包まれた。光は一瞬で消え、そこにはいまいち焦点の定まらない目をしたシオンが残った。

 ……これ、大丈夫だろうか?

「シオン? 大丈夫?」

 ほっぺたをふにふにしてみても無反応。とても、柔らかかった。いや、そんなことはどうでもいい。

「何事ですか」

 シオンの父親が馬車を止めて、こちらの様子を見に来た。

 ……これは、どう言い訳をすべきか。彼から見たら、どう考えても私って娘に手を出した不審者だよね。あれ、手をかけた、かな? いや、それよりも!

「シオンは……いったい何があったんですか? ミソラさん?」

「いや……えーと…………その、これは」

 どうしよう。このままだとヤバい! なんか、ヤバい!!

 神さん、あんた、何てことしてくれたんだい!

 どうしたもんか、とアセアセしていたら、

 むくっ、とシオンが動いた。そして、ニコッと笑って言った。

「大丈夫だよ。お父さん」

「シオン……か?」

 父親がそう言ったのも、仕方ないと思う。

「そうだよ。何いってるの?」

 先程までのシオンの様子とはうってかわって全くおどおどしたところが無くなっている。それどころか、なんか真っ直ぐな信念的なものまで感じる。

 いったいシオンに何が……って、やっぱりさっきのアレが原因ですよね。

「お父さん。私ね、わかったの」 

「な、何を……」

「私は、魔物なんていない平和な世界を作るために、ミソラさんに出会う為に、この世界に生まれてきたんだよ。お父さん」

 なにをいってるの、このこ。

 ああ、あの純粋だったシオンがなんかヤバい人に……

「は? これは、どういうことです? ミソラさん」

「すみません。私にも何がなんだか……」

「もう、ミソラさん。あなたが私を目覚めさせてくれたんじゃないですか」

 目覚めさせたって、目覚めさせたって……。

 私は何もしていないよぉ。

 どうしよう、これ。どうしてこんなことに……。おい神!

『なんじゃ』

 なんじゃ、じゃないでしょう。シオンが! シオンに何したの!

『教えを直接頭に入れただけじゃよ』

 それ、そんなに危険な行為だったの!?

『そんなはずはないんじゃが……。ただ、シオンはちょっと純粋過ぎたみたいじゃな』

 純粋過ぎたって……。

「ミソラさん! 私、これから頑張りますね! 正しい世界のために!!」

 シオンは何の迷いも含まない真っ直ぐな瞳で、己の父と私を見ながら、高らかに宣言した。

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