2.異世界の森にて
「ガルルルル………」
私を見ているのは、でっかい熊のような何か。そして、
「あの……。あなたは…………?」
見知らぬ少女も、私を見つめている。この熊っぽいのに襲われていたのだろうか。全身傷だらけだった。
いや、そんな、助けを求めるような目をされても、私には何の力もないよ。どうにもできないよ。きっと、私たち、ここで、あれに、やられちゃうんだ。
『美空、聞こえておるか?』
「うぇ?」
突然、神さんの声が聞こえた。
一体なんですか! どうやって話しかけているんですか! ていうか、あなたのせいで私、死にかけているんですけど!
『美空よ、落ち着け。その熊は魔物じゃ』
「魔物?」
『そうじゃ』
魔物って、さっき世界中に沸いたって言ってたやつ? 破壊の化身だとかなんとか。
よく熊の辺りを見てみると、ここは森の中なのだろうか、地面にはたくさんのクレーターがあり、また、たくさんの木がなぎ倒された跡があった。
なるほど、あれが魔物……。勝てる気がしない。
『いや、勝てる。お主は今、ワシの力の一部を使えるようになっておるはずじゃ。それを使えば魔物を浄化することができる』
「浄化? それ、どうやって使うんですか!」
『なんか、こう、力を放出する感じじゃ』
わかりづらい!
『やるしかないじゃろ。さもないと死ぬぞ!』
ああっ、もう、わかりましたよ!
力を放出する……こんな感じか!
「ひゃっ」
体が光った、と思った次の瞬間。私を中心として光が飛び散った。
「グル……ガル……」
熊っぽいやつは光をあびて、その体を黒い粒子に変化させ、消滅した。
やっ……た?
『成功じゃな。よくやった美空! ワシはもうダメかと思ったぞい』
……ああ、よかった。死なずにすんで。後ろにいたはずの少女を向き直る。彼女は自分の腕とか足とかを何度も確認していた。えっと……。
「……何してるの?」
「あ、えっと、その」
「うん?」
「き、傷が……その、無くなってて」
「え?」
確かにこの人、さっきまで全身傷だらけだった気もする。
しかし、今見ると、傷なんて全くない。
どういうこと?
「あなたが、治してくれたんですか?」
「え? いや……」
これは、さっきの光の効果なのだろうか?
『そうじゃよ。あの光、神光には魔を祓い、全ての生き物を癒す力がある。死んだ者を甦らすことはできんがな』
ふーん。つまり、怪我が治ったのはあの光のお陰ってことか。
「あの、あ、ありがとうございます! わ、私、シオンっていいます。その、すみません。あの、こっちに、ついてきてください」
「え?」
シオンと名乗った少女は私の手を取って歩き出した。
えっと……、これ、ついていって大丈夫かな? 一体どこに連れていかれるんだろう?
シオンに導かれるままに歩いていくと、舗装をされていない道にでた。
道には馬車だと思われる馬ではない何かが繋がれた車があった。
そして、その馬車は、
「お父さん! 強い人見つけてきたよ!」
「グルルルッ!」
さっきの熊っぽい魔物に囲まれていた。
「すみません。私たちを助けてくれませんか……?」
これをどうにかして欲しいから、私を連れてきたのかー。なんて話だ……。こういうのって、先に説明してから連れていくものじゃないのか?
『まあ、良いではないか。教えを広めるためにも、人助けはしておくべきじゃ』
「あの、もしかして、ダメ……なんですか?」
シオンが泣きそうな顔でこちらを見る。
もう、そんな顔されたら
「別に、いいよ。私に出来ることなら」
断れないよ。
『さすが美空、ワシが見込んだ女じゃ』
神さん、うるさいです。
えーと、さっきの感じでやればいいんだよね?
そして、私は光った。