0.日常は突然変わる
神なんていない。
そう思っていた時期が私にもありました。
神様はいました。
いや、頭がおかしくなった訳じゃないです。本当なんです。私、声を聞いたんですよ。って、余計ヤバイ人になったように聞こえるな、これ。
嘘じゃないんだよ!
っ、すみません。取り乱しました。
まあ、訳を説明します。
あの日、あれが全ての始まりでした。
まさか、あの日々が二度と戻って来ないとは、思ってもみなかったなぁ。
***
いつもの通り、朝の支度を終え、電話をかける。
トゥルルルルルル、ガチャ、
「もしもーし春樹。起きた?」
『うー……。おはよ………美空』
電話の相手は緑川春樹。同じクラスの男子で一応、幼馴染みという関係だ。
三年前、マンガかアニメか、なんの影響を受けたのかしらないがこの男「毎朝、幼馴染みの女の子に起こしに来てもらう」とかいうシチュエーションに憧れたとかで、こともあろうか、私にそれをするように頼んできたのだ。私は「面倒くさいから絶対に嫌だ」と言ったのだが、春樹も「起こして欲しい!」と、譲らず、結局、「学校のある日は毎朝モーニングコールをする」ということに決まったのだ。
「起きたんなら切るよ。じゃ、また七時にあんたん家の前でね」
『あ、うん』
通話を切って、一仕事終えた解放感に身を委ねていると、頭にピリッとした痛みが走って、その声は聞こえた。
その、子供の様にも老人の様にも聞こえる声はこう言った。
『聞こえておるか? ワシは神じゃ』
…………。
妙にはっきりと聞こえたけど、きっと、空耳だろう。だって、神って(笑)。はははっ。私、疲れているのねぇ。
その後、しばらく声は聞こえなかった。
春樹の家の前で待ち合わせ、他愛もない話をしながら学校へ向かう。
『娘よ、聞こえておるよな。返事くらいせい』
変な声は聞こえなかったことにする。
で、学校。
「おはよ、片山。ついでに緑川も」
「おはよう阿部くん」
「おはよう……って僕はついでなの!?」
「ああ、緑川はついでだな」
「ええっ」
阿部くんと春樹が朝からじゃれあっている。うん、いつもの風景だ。
私は自分の席に座る。んー、昨日買った小説でも読もうかな? そう思い至ったので鞄に手を伸ばす、と。また、あの声が
『そんなことよりも、話があるのじゃが』
「美空。話があるから、放課後に屋上に来てくれないかな?」
「え?」
と同時に春樹も話しかけてきた。
『よければ、なるべく空に近いところに来てほしいんじゃ』
「だから、放課後に屋上に来いよ!」
「屋上って立ち入り禁止じゃなかった?」
なんだか春樹の様子がおかしい。まるで、毎朝起こしに来て欲しいと頼んできた時の様だ。
「別にどうでもいいだろ! 絶対に来いよ!」
「あ、うん。わかった」
『ワシを助けておくれ』
で、私は放課後に屋上に行くことになった。が、この時、ちゃんと声の方の話も聞いていれば、ああはならなかったに違いない。
放課後。
屋上に続く階段を上る。
なぜかさっきから頭痛がしているが、多分疲れているだけだろう。
扉を開けると、夕日色に染まった空が目に入った。
春樹が駆け寄ってくる。
「美空ー!」
「あ、春樹。綺麗な空だね」
「あ、うん。そうだね」
しかし、何の用だろう。あ、まさか、やっぱり朝は電話じゃなくて直接起こしに来てほしい、とか?
「美空、実は僕………………美空? それ……」
「うん?」
なんだ? まるでツチノコでも見た様な顔して。
「どうしたの、春樹?」
「ひ、光ってるよっ」
「え?」
言われて、自分の体を見てみると、
「な、何これ!?」
光っていた。淡く発光している私の足や腕からは、光の粒がふわふわ~っと空に向かって飛んで行っている。
そして、その光が飛んで行くにしたがって、私の体が薄く、透明になっていった。
……もう一度言おう。
「何これ!?」
何かに触れて、安心したかったのかも知れない。手を伸ばして春樹に触れようとしたが、
「え?」
その手はスカッと春樹をすり抜けて、完全に光の粒子となり、消えた。
「あっ」
そして、その勢いで私はバランスを崩し、前のめりに倒れて、
「美空……?」
私の体は完全に光の粒となり、空へ上っていった。
読んでくれて、ありがとうございます。
これから、頑張ります。