第2章:世界の崩壊
……あれから数週間。
あの不安は、またいつの間にか消えていた。
毎日が楽しすぎるから、見えなくなっていたといったほうがいいかもしれない。
たまに思い出して色々考えては、「まぁいっか」で締めくくった。
そして今日は、学校は休みだが定期市がある。
定期市とは、各ゲートの付近で外部からの輸入品を買ったり、作物を外に売ったりする、いわゆる市場だ。
ソフホーズが外と繋がるのはここしかない。
で、そこでカトラス、ミラと合流し、また誰かの家に遊びに行く約束をしていた。
朝日がカーテンの隙間から差し込むその眩しさで目が覚めた。
外は快晴。気分も晴れる。
思いっきり伸びをして、あくびをした後、1階のダイニングに降りた。
「母さん、おはよう。」
……?
返事がない。
「おはよう! 母さん!」
朝から怒鳴らせないでほしいと思いながら呼んだが、やはり返事がない。
キッチンはダイニングと繋がっているから、聞こえないはずはないのだが……。
時計を見る。
9時。
時間的にもおかしくない。
というか俺が寝坊した。
母さんが起きてないなんて有り得ない。
もしかしたら外に出ているかもしれない。
時々朝から畑に出て水をやっていることがあるのだ。
いや、でも今日の定期市のために、作物はみんな収穫してあるはず…。
とりあえず玄関の扉を開けた。
血まみれ傷だらけの母さんが、今まで扉によりかかるように座っていたのか、倒れこんできた。
――――――?
「母さん?」
何だコレは? 明らかに目の前にいるのは傷だらけの母さんだ。
「おい、……母さん?」
返事がない。
ていうか、死んでいることは一目瞭然だった。
頭が追いつかなくて気付かなかっただけで、これは確かに……。
「母さん!!!!!」
事態が理解できた瞬間、母さんの体を揺り動かして、呼びかけた。
首筋に大きな傷があり、出血がひどかったのは明白だ。
口も血で赤黒く染まっている。
首以外にも、全身に同じような傷が見られた。
切り傷ではない。打撲でこんな血は出ないし、どんな凶器を使えばこんなことに…?
いや、そんなことより、母さんが死んだ。
本来その事実だけ受け止めておけばよかったのに、凶器だなんだと余計なことばかりに頭が回る。
「母さん!!!」
いつの間にか涙が止まらなくなっていた。
別段悲しいとか、そういうことはなかった。
悲しんでいられる程、落ち着いていなかったらしい。
ただ、とにかく動揺はしていた。
生ゴミのような腐臭が鼻を覆った時、世界の終わりに気付いた。