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「マジかアイツら、祭りまで邪魔しに来やがった。」
カトラスが怒って言った。
だが、それで何とかなるはずはない。
敵は数十人で、ほとんどが大人だ。
レジスタンスというのは、このソフホーズという無理矢理な政策に未だ抵抗している団体である。
少数とはいえ、その活動は割と悪質なものが多い。
定期市の時にはまず間違いなく妨害にやってくるし、毎日のように隔壁の辺りで喚き散らしたり、隔壁を壊そうとしている。
もちろんろくな道具がないから隔壁はビクともしないが、彼らは抵抗の意をただただ露にしているのだ。
ソフホーズによる利益を記念する祭りに、ヤツらが来る事を考えに入れていなかったのは迂闊だった。
どうにもできずに成り行きを見守っていると、ヤツらは会場入り口の所で立ち止まった。
そして、拡声器や、手で口元を囲んで、一気に叫び始めたのである。
「ソフホーズ反対!!!」
「国の横暴を許すな!!!」
「我々の自由を返せ!!!」
祭りに参加していた人たちが黙って見過ごすはずがない。
この日のために色々準備し、初めての祭りを大いに楽しもうとしているのに。
近くで出店を出していた大人たちを皮切りに、取っ組み合いの喧嘩が始まってしまった。
見ていられなかった。
さっきまで優しい顔でサービスしてくれたおじさん達が、血相を変えて殴りかかっている。
レジスタンスにはまだ20代くらいにも見える若い男女の姿もあった。
だが、それは問題ではなかった。
「…行こう。楽しむ雰囲気じゃなくなっちゃったよ。」
ミラが言った。
「そうだな。」
カトラスが返事をするのと同時に、俺も頷いた。
暴動に発展しそうなその後ろを、俺たちはそそくさと通り過ぎて立ち去った。
――――――
「あ~あ、ヤんなっちゃうよ、ホント!」
会場に声が聞こえない程度の距離まで来たところで、ミラが声を荒げた。
「意味分かんねぇよな、こんな時にまでさ!」
カトラスも声を大にして言った。
「こんな時だからだろ」と思ったが、口に出さないでおいた。これ以上気分を害してもらいたくはなかった。
しばらく2人は愚痴を言いまくっていたが、俺はそれに加わる気にならなかった。
ここで、思考回路は最初の疑問へと戻った訳だ。
"本当にこのソフホーズ政策の目的は食糧供給安定化だったのだろうか?"
確かに母さんから聞いた話では、ソフホーズ政策施行前に大きな戦争があって食糧難に苦しめられたらしい。
その流れで行けば納得は行く。
だが、必要のないシステムが多い気がする。
隔壁は、どう考えても必要ない。出入りなどで不便が増える上に、無駄な経費がかかるだけ。
税金免除、ライフライン無料をはじめ、様々な特権を与えるのも、どうなんだろうか。
隔壁を普通の柵にして、この地域に住む人々は農業を推奨してもらえる、という風にすれば良かったのでは?
そんな人々の不満を押さえ込むための特権も必要ない。
――――――違和感が消え去らない。
「クイル、どうした?」
カトラスが呼びかけてきて、ハッとして返事をした。
「何?」
「さては、また考え事してたんでしょ? "レジスタンスがあんなに言うなんて、やっぱり何かあるんじゃ?"とか。」
「あ…いや……」
「まぁ気持ちは分かるけどさ、大丈夫だって。今までだって何にも無かったろ?」
カトラスが俺の背中を叩きながら励ましてきた。
「クイルは心配性だなァ。そんな心配ばっかりしてると体に悪いよ?」
ミラもいつもの笑顔で俺に忠告した。
それでも不安は俺の中に居座り続けたまま、いつもの分かれ道に来た。
「じゃあまた来週な。」
「うん、じゃあバイバイ!」
「おう。」
いつも通り、ここで分かれて帰宅。
いつも通り……か。
いつも通りが、いつか無くなってしまうことへの恐れ…。
多分、俺は正しい結論を出せたと思う。
そうしていつも通りに時は過ぎていく。