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結局記念祭当日の今日まで、帰りはいつもこんな調子だった。
こりゃあ、今日思いっきり遊ばない訳にはいかない。
朝食のパンを食べていると、予想以上に早く、ミラが迎えに来た。
外から嬉しそうな声で名前を呼んでくるが、約束の時間を無視して早く来てせかすなよ…。
とは思いつつ、俺だって早く行きたいのに変わりはない。
遅刻よりマシだと思い直してパンを頬張り、牛乳で流し込んですぐ服を着替えた。
玄関のドアを開けると目の前にミラがいた。
「おはよ~。早く行こっ!」
「おう。母さん、行ってきま~す。」
母さんに形だけ挨拶をして急いでドアを閉めた。
「この地区の会場はこっちだよ。さっきからにぎやかなんだ。」
ミラが言いながら先を走る。
今日は驚くほど快晴だった。
広大な緑と、覆いかぶさる青が、風のさわやかさを倍増させる。
…あとは遠くにそびえているのが丸見えの隔壁さえなければ良かったんだがな。
「ほら、声が聞こえてくるでしょ?」
ミラに促されて耳を澄ますと、確かに市場のような活気ある声がたくさん重なって聞こえてきた。
どうやら今走っている丘を越えると着くようだ。
少し坂がキツいが、毎日学校帰りにも農作業を欠かさない若者をナメてはいけない。
「うわ~、アレだ、アレだ!」
先に登り切ったミラが喚声を上げ、はしゃいでいる。
幾ばくもしないうちに俺も追いついて見下ろした。
広い平地の所に簡単な柵で会場が設けられ、その中は出店の屋台がきれいに並んで建っている。
その活気は、市場のそれとはまた違うものを擁していた。
たまらなくなって2人して丘を駆け下りた。
走って会場の近くまで来ると、ますますその賑わいが目の前に迫ってきた。
見る人見る人みんな笑顔に溢れている。
こんなにワクワクした事は多分、今まで無かったな。
会場を歩いて、2人でカトラスを探した。
「色んなお店があるね、ホントに。」
「そうだな。カトラスはどこだろ?」
さすがに店も人も多くて、カトラスを探すには骨が折れる。
と、屋根のところに「焼きとうもろこし」と書かれた店を発見した。
「あ、あれじゃない?」
ミラも見つけて指を差す。
見た感じではなかなか繁盛しているようだ。
「はい、2本ね! まいど~!」
カトラスの声も聞こえてきた。間違いない。
「並ぶか。」
「うん。」
俺とミラは、人が多すぎてどこが始点なのか分からない列にとりあえず並んだ。
一応、周りの人に文句は言われなかったから、横抜かしはしてなかったと信じたい。
「はい、3本! 300円ね、まいど~!」
もう人と人との間にカトラスを視認できたが、向こうは忙しくてこちらに気付いていないようだ。
やっと俺らの番になった。
「焼きとうもろこし2本ね。」
「はい、2本…って、クイル!? に、ミラ! いつの間に!!」
「やっほ~♪ 美味しいの焼いてよ!」
「任せとけ。このために学校早く帰ってたんだからよ。」
カトラスはますます気合いを入れて調理にかかったが、俺たちに回ってきたのはさっき普通の気合い(?)で焼いていた分だった。
まぁどっちにしたって味は変わらないだろうけど。
「親父、クイルたちが来たからもう抜けていいか?」
「おう、ありがとな。あとは俺と母さんでやるから、しっかり遊んで来い!」
「サンキュー。あとでなんか買ってきてやるよ。」
カトラスとその父親がやり取りをして、エプロンと三角巾を外して合流するまで、俺たちは店の前で待った。
ミラはもう我慢できないという表情だったが、何故か我慢していたから、俺も我慢した。
「お待たせ!」
カトラスが店のとうもろこしを1本もらってやっと来た。
「遅いよ!」
「悪い悪い、エプロンだのバンダナだの、つけんの慣れてなくてな。」
「とうもろこし焼けるのに…。」
「うっさいわ!www」
やっととうもろこしにありつきながら、3人で移動を始めた。
ホントに色んな店がある。
朝飯食ってきたばっかだけどもう腹減ってきたな。何食おうかな。