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退屈な授業はあれよあれよという間に終わった。
「じゃあ俺また手伝いがあるから先に帰るわ。じゃ。」
そう言ってカトラスはそそくさと荷物をまとめて教室を出て行った。
「大変だね。」
ミラが言った。
その表情がいやに寂しげに見えた。
いつも3人で帰っているからだろうか。
もちろん俺だって寂しくない訳ではないけど。
「その分週末にいっぱい遊びゃいいさ。俺たちも帰ろうぜ。」
「うん、そだね。」
2人で教室を出た。
そういえば、ミラはいつも明るく振る舞っているくせに、あるいは、だからこそ、別れを異様に寂しがる。
もしかしたら、俺たち3人はそれが普通であるべきなのかもしれない。
1ヶ月ほど前まで、俺たち仲良しグループは4人だったのだから。
このソフホーズとやら、人口の調整のために、月に1回、抽選で選ばれた内外の人間およそ数百人を入れ替えている。
そんなことするくらいなら隔壁を取っぱらってしまったほうがよっぽど早いし、金もかからないのに、わざわざ。
で、その入れ替えでもう1人の友達、ハルメイが外に連れ出されたのだ。
引っ込み思案であまり喋らない静かな女の子だったが、何故か普段うるさいくらい元気なミラとは特に、大の仲良しだった。
入れ替えで連れ出されてしまったあと、ミラはずっと泣いていた。
1週間くらい、立ち直れてなかった。
俺やカトラスも寂しかったが、むしろミラへの心配の方が大きかった。
明るさだけが取り柄のミラが真っ暗になってしまったら、誰だって心配する。そう思わせるくらいいつも明るかったから。
で、立ち直った後は見ての通り、ずっと元気だ。
ただ、さっきみたいに、時折寂しさの片鱗を見せる時がある。
多分、夜布団に入ってから声を殺して大泣きするタイプだろうなと思った。
「楽しみだね、記念祭。」
ミラがいつも通りの笑顔で言う。
「そうだな。」
「どんな出店があるんだろう?」
「カトラスは焼きとうもろこしって言ってたな。」
「私とうもろこし好きだからそこ1番に行こう!」
「どっちにしたって最初はカトラスのトコ行かなきゃ。そこで合流するんだし。」
「あ、そっか。」
そう言って、危なげに笑う。
…いつも通りの会話を交わしてるはずなのに、変な感じがする。
ミラにいつもの元気がないからだろう。
表面は取り繕ってても、夕焼けも手伝って心境の青さが隠せていない。
友達が1人足りないだけで、あの時がフラッシュバックしているに違いない。
現にあの時、友達が1人足りなくなっただけ。
その時の恐怖がずっとミラを苦しめ続けているのがハッキリ分かる。
途中で分かれて1人になってから、ますますその後味の悪さがにじんできた。
もしかしたら俺も、縛られ続けているのか。
だから世界が今にも泣きそうに見えるのか。