金髪の後輩
放課後、秋人は部活に行くも主な活動内容であるチェスをする気持ちにはならなかった。茜との約束があったが、茜が部活に来ていないのでそれをはたすことはできない。秋人は窓を覗き込み景色を見る。運動部が部活動に励んでいる姿が見えた。
秋人にはそれとは関係ないことを考えながらこの景色を見ていた。
魔法戦争のこと、冬夜を説得する方法、自分の未熟さ、そして、近いうちに来るかもしれない死への不安....
窓にうっすら見える秋人の顔も今の彼の心情を正確に表現していた。
「はぁ....」
そんな自分の顔を見て秋人は思わずため息をついてしまう。
「どうしたんっすか、先輩。ため息なんかついて。ため息なんかついてると幸せが逃げるっすよ」
「あぁ、あずか」
声につられて後ろを振り向くと、制服を着崩したセミロングの金髪の女子がいた。
彼女の名前は桐原梓。1年生でチェス部所属。ようは秋人や茜の後輩である。部活には時々来る程度などなので来ているときが珍しかったりする。
「あずか....ってなんか失礼っすね、せっかく可愛い後輩が来たっていうのに」
梓が若干しかめっ面気味にそう言う。
「特に悪気はない、ただ、あずが来てるなんて珍しいなと思っただけだ」
秋人は特に梓を宥めることはせず、そんなことを言った。梓はこの秋人の反応に首をかしげる。
「先輩、今日おかしいっすね。いつもより態度が冷たいっていうかなんていうか暗いっすよ」
「・・・・」
梓の言葉に対し、自覚のあった秋人は何も言うことができなかった。
「んー、これは私がなんとかしないと」
「えっ・・・・ちょっ・・・」
いきなり梓は秋人の手を引っ張りいきなりどこかへ連れて行こうとする。
「ではでは、部長これで失礼するっす」
梓は部長に早退の報告をして帰るつもりらしい。
「おいおい、俺はまだ帰らないぞ。この手を離してくれ」
ほんとは力では圧倒的に優っている秋人は梓の手を振りほどくことなどたやすいのだが無理矢理手を振りほどくことをためらい、あえてそうしなかった。
「んー、そういうわけにはいかないっす。このまま暗いままの先輩は嫌なんで。ということで私が先輩を元の先輩に戻してあげます、ってことで付いてきてください、先輩」
「えっ、おいっ・・・・」
梓が秋人の手を掴みながら走り出す。
「藤堂、桐原、くれぐれも間違えを犯すなよ」
後ろから聞こえる部長の声。ホントはそれにツッコミをを入れたい秋人だったが、梓に手を掴まれているのでそれができなかった。
そして....
「なんでここに・・・・?」
秋人が梓に連れてこられたのはとある喫茶店だった。テーブルの上にはそれぞれ注文したもの(秋人はホットコーヒーとチーズケーキ、梓はいちごパフェ)がおかれている。
「それはさっきも言ったとおり、暗い先輩をどうにかするためっすよ。で、先輩が暗い理由ってなんなんすか?」
と、単刀直入に秋人に尋ねる梓。それに戸惑いつつも秋人は返答をする。
「それは言えない。言っちゃいけないんだ。ほっておいてくれないか」
敢えて梓を突き放すように秋人はいう。
(どうせ、魔法戦争のことなんて言っても信じてもらえない。それにあずに余計な心配をかけるわけにはいかない)
そして、秋人は立ち上がり、これ以上何も言うことはないかのように二人分のお金をおいて帰ろうとする。
しかし....
「まだ話はおわってないっすよ、先輩。そう結論を急がないで欲しいっす」
そう言って秋人の手を掴む梓。
「まあ、とりあえずもう一度座って欲しいっす」
これ以上梓との関係を悪くしたくもなかった秋人はこの指示に渋々従った。
「で、話の続きなんすけど、実は先輩が暗いことについては心当たりがあるっすよ」
そして、秋人の手元に視線をむける。
「えっ....」
秋人は梓の視線の方向とその言葉に驚く。
「原因はその痣っすね」
「っ・・・・」
梓に正解を言われてギクリとする秋人。普段はきちんと痣は隠していたつもりなのだが、梓にいきなり手を引かれてここにきてからすっかり警戒を怠ってしまっていたのだ。
「この痣は昨日転んでできたんだ、心配しなくていいぞ」
「嘘っすね」
秋人はとっさに痣のできた経緯について嘘をついてごまかそうとするが一瞬で見破られてしまう。
「ごまかしても無駄っすよ、先輩、この痣については知ってるんすよ」
「・・・・」
梓の言葉を聞いたとき、秋人の脳裏に最悪の事態が思い浮かぶ。
梓が魔法使いかもしれないこと
梓が魔法戦争の参加者かもしれないこと
梓と戦わなければならないかもしれないこと
それらの考えが秋人に重くのしかかり、苦しめる。
さらに追い討ちをかけるかのように梓が口を開く。