命をかけた戦い
「っ・・・・・・」
突然、雫が落ちるような音が聞こえる。
「なっ・・・・・・」
その音が聞こえなくなるといつの間にか秋人は全くの別世界にいた。
「ヴァ、ヴァルハラなのか、ここは」
あたりは一面星空が広がっていた。そう、まるで夢でオーディンという仮面の男に出会った空間と全く同じにみえる景色が広がっていたのだ。この瞬間、秋人は分かってしまった。オーディンの言
う魔法戦争は本当に起こってしまうのだと。
「・・・・まさか、秋人、お前と戦うことになるとはな」
秋人が後ろを振り向くと冬夜が腕を組んで秋人の方を向いていたのだ。
「と、冬夜・・・・お前がどうしてここにいるんだよ」
秋人は冬夜がその場にいることに動揺を隠すことができなかった。
「俺がここにいるのはラグナロクの参加者だからだ。お前だってそうなんだろう、秋人」
「ああ・・・」
冬夜の問いかけになんとか答える秋人。一方の冬夜には動揺している様子は見られない。もう覚悟ができているような目をしていた。
「話はこれくらいでいいな。では、秋人よ、お前には消えてもらう。俺が明日も生きるために」
冬夜の目つきが一変する。そう、あれは獲物を狙っているような目にほかならなかった。
「冬夜、お前、本当にこんなふざけた戦いをするっていうのかよ。どうして俺たちが戦わなくちゃいけないんだよ。こんなの理屈にあってないだろ」
秋人は冬夜に必死の訴えをする。しかし・・・
「確かに理屈にあっていないのも、ふざけた戦いだとも思っている。でも俺たちは戦わなくてはいけない。生き残るためにな」
冬夜に秋人の訴えは意味がなかった。しかし、秋人は粘る。
「俺たちが戦わなくったって生き残る方法はあるはずだ。時間は限られているらしいけどまだ時間はある。一緒にその方法を考えよう、冬夜」
「・・・いや、それは無理な相談だな、秋人よ。確かにそんな方法があればいいとは俺も思う。しかし、何の宛もないまま探しても何も見つからない。それにお前が後で俺を裏切る可能性だって充分ありえる。この戦いで誰かと手を組むのは危険すぎるんだ。だから、俺は一人で戦い続ける。生き残るためにな」
「そうかよ」
冬夜の言葉を聞き、秋人は口で何を言っても無駄だと悟る。もう、戦いの中で冬夜に分かってもらうほかない、それが秋人の結論だった。
「魔法召喚」
冬夜は能力を発動するための言葉を唱える。
「これは・・・・」
秋人は冬夜の周りに現れた浮いている8本のナイフに驚く。同時にこれがオーディンの言う能力者の能力だということをりかいする。
「さあ、お前も自分の力を発動させてみろ」
冬夜からの挑発。しかし、秋人は自分の能力を発動させることはできない。
「残念ながら俺には冬夜のような能力は使えないみたいだ」
秋人ははっきりと事実を述べる。
「・・・・哀れだ。まさか、そんな状態でこの戦いに参加することになろうとはな。でも、安心しろ。すぐにあの世に送ってやる」
冬夜は秋人に向かってナイフを1本飛ばす。
「あっ・・・・がはっ・・・」
秋人の足にナイフが飛んできて足を切りつけて秋人の足元に刺さる。
「痛いか、秋人よ。安心しろ、秋人、次は心臓目掛けてナイフを飛ばしてやる」
「うっ・・・・あっ・・・・・」
秋人はナイフが心臓に刺さるのを避けることができたが腕にナイフがかすり腕からは血が流れる。
「あれを避けたか・・・・1本ずつ飛ばしてしても拉致があかないな」
今度は8本のナイフが秋人に向かって同時に飛んでくる。
「・・・・あっ・・・・・うっ・・がはっ・・」
かろうじて心臓にナイフが刺さるのを回避できた秋人だったが腹部や頬、足や手に複数のナイフが刺さってそれぞれの場所からは大量の血が出ていた。
「しぶとい奴だ。まだ生きているのか。俺はこれ以上お前が苦しんでいる姿を見るのが辛い。早く死んでくれないか」
「お断りだ。俺はこの戦いで生き残ってみせる。俺は茜と約束してるんだ。明日またチェスをするってな」
秋人は刺さったナイフを抜きながら冬夜の言葉に異を唱える。
「宮野茜とチェスか・・・・・羨ましいかぎりだ」
秋人の言葉に反応した秋人がそんなことを言う。
「・・・・その前にまず、冬夜は茜と話すことから始めろよ」
「・・・・・そうだな」
秋人がいつもどおりの言葉を返すと冬夜もいつもどおりの反応をみせる。ただこのやり取りを教室でやるのと今やるのとでは違う空気を二人は感じていた。
「話はここまでだ。秋人。そろそろ覚悟はいいか?」
冬夜はさらにナイフを召喚する。その数はさっきの8倍、64本だ。
「・・・・・・・・っ!」
秋人はナイフの数に圧倒されてしまう。しかし、それとは関係なくナイフは秋人のもとへ飛んでくる。
「く、くそ・・・・このままじゃ・・・」
打つ手もない秋人。ここで死んでしまうという恐怖が秋人の心を覆った。結果・・・・
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
恐怖に蝕まれた秋人は冬夜に向かって闇雲に走り出した。そこに意味はない。攻撃をよけられるわけでもない。恐怖によって冷静な思考判断ができなくなった秋人はただ冬夜を止めることだけで頭がいっぱいになっていた。
「うおおおおおおおおおおおおお、とうやあああああああああああああ!」
秋人はただ走り続けた。飛んでくるナイフも無視して。ナイフが体中に刺さる痛みも無視しながらただ冬夜に近づいていった。既に秋人は恐怖によって痛みを感じることすらできなくなっていた。
「なっ、なに!?」
秋人が接近したことに驚く冬夜。
「うおおおおおおおおおおお!」
秋人は冬夜に対処する暇も与えず腹を殴る。
「・・・・・・っ!」
秋人が冬夜を殴る瞬間不思議な力が拳にみなぎるのを感じた。秋人はその力に身を任せて冬夜を吹き飛ばした。冬夜は遥か遠くへ吹き飛ぶ。
「これは・・・・一体・・・・」
秋人は今、自分の拳が人並みの力ではないことを感じていた。
バタッ
冬夜を殴ることで恐怖から解放された秋人は痛みと体力の限界で倒れる。意識はあるが立ち上がれない状態だ。
「うっ・・・・・やるじゃないか、秋人よ」
秋人の目に腹を抱えながらさっきの倍のナイフを召喚している冬夜の姿が映った。
「これで終わりだ・・・・冬夜・・・・」
冬夜は秋人にナイフを飛ばす。
「く、くそ・・・・・・」
避けることもできない秋人。まさに絶体絶命の状況だった。しかし、そんな秋人に救いの手が差し伸べられる。