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平和な日常

青い空・・・小鳥のさえずり・・・・暖かな日差し・・・・・今日も昨日に引き続き清々しい朝だ。冬も近づき始めた今日。最近は寒さが続く中、昨日、今日と寒すぎない朝が続いていた。

「今日もいい朝だ」

藤堂秋人とうどうあきひとはカーテンを開けて外の景色を確かめる。

コンコン・・・・

部屋の扉をノックする音が聞こえる。

「春香、開いてるぞ」

秋人がそうに声をかけると扉を開けて秋人の部屋に入ってくる少女が一人。

彼女の名前は春香。秋人の妹だ。

「起きてたんですね、兄さん。朝ごはんできてますから早く着替えてきてください」

「ああ、わかったよ」

秋人の返事を聞いた春香は秋人の部屋から出て行った。

秋人は寝巻きから制服へ着替え、寝癖を直せる程度に直し、部屋を出て、洗面所へ行き、顔を洗って部屋で直しきれなかった寝癖を寝癖直しを使って髪型を整えて、朝食の用意されているリビングへと向かった。

「早かったですね、兄さん」

「そうか?まあ、男は女と違って準備にそんなに時間がかからないからな」

「羨ましいですね・・・」

春香はまるで重い現実を受け止めてがっかりするようにため息をついた。

それから秋人と春香は朝食を一緒にとった。

秋人は現在、妹の春香と二人暮らし。母親は病気で5年前に亡くなり、父親は海外で仕事をしている。だが、二人は両親が不在の中でも何一つ不自由なく暮らしていた。

「行ってきます」

「いってらしゃい、兄さん。そして、行ってきます」

「いってらっしゃい、春香」

二人は朝食を食べ終え、片づけをして学校へ向かう。そして、二人のあいだではお互いに「行ってきます」、「いってらっしゃい」を言い合うのが習慣になっていた。いつからそんな習慣があったのかは二人共覚えていない。

「じゃあな、春香」

「はい、兄さん」

学園についた二人は校門前で別れ、それぞれの教室へ向かった。

秋人たちが通う学園の名を月島学園という。この学園は小等部から高等部まであるエスカレーター式の学園だ。二人は小等部のころからこの学園に通っている。しかし、当然ながら小等部から高等部まで校舎から制服まで様々な違いがある。また、メンバーも小等部から高等部までに半数の生徒が入れ替わる。これらのことから同じ学園に通っているという自覚があるという生徒は少ないらしい。

「・・・・・・今日も良き朝だな、秋人よ」

秋人が自分の教室・・・・2-Aの教室に入ると窓際で編み物をしながら秋人に声をかけた男が一人。

彼の名前は山吹冬夜やまぶきとうや。秋人の友人?で学年主席。そして、かなりの変人。

「冬夜、どうして編み物なんてしてるんだ?」

「ああ、今日の占いでラッキーアイテムは毛糸だと書いてあったからだ」

秋人の質問に冬夜は誇らしげに答える。

「ラッキーアイテムか・・・」

秋人は冬夜の言葉に呆れながら、冬夜の隣においてある雑誌に注目する。

その雑誌とは「月刊占いアライブ」だ。この雑誌には一ヶ月の運勢が一日ごとに星座別に書かれており、冬夜は毎朝これを読み、ラッキーアイテムを確認してそれをどこへでも持ち歩いている。

「冬夜よ、知りたいか?俺がどうして編み物をしているかのもう一つの理由を」

「まあ・・興味がないこともないな。確かにラッキーアイテムが毛糸だからって編み物をする必要は全くないからな」

「ふっふっふっふ・・・・」

冬夜は突然笑い出してから言葉を続けた。

「それはだな、この毛糸を使ってマフラーを編み、宮野茜みやのあかねにプレゼントするためだ」

「なるほどな。お前がどうして編み物をしているのかはわかった。でも、プレゼントを渡すよりも前にまずは茜と話すことから始めないといけないんじゃないか?」

「・・・そう・・だな」

冬夜は忘れていた事実を思いだし深くうなだれてしまった。

冬夜は秋人の幼馴染にあたる少女、宮野茜に好意を抱いている。しかし、冬夜は奥手すぎて茜と話をしたことすらない始末である。

「おっ、噂をすれば」

秋人が教室のドアの方を見ると赤髪のツインテールと黒いリボンが特徴の宮野茜が教室に入ってくるのが見えた。

「あれは・・・宮野茜」

秋人の言葉に食いついてくる冬夜。しかし、反応とは裏腹に茜のところへは行こうとしない。

「どうした、冬夜。今は茜と話すチャンスなんじゃないか?」

「しかし・・・どうやって話しかけたらいいかわからない」

秋人は冬夜を後押しするも肝心の冬夜は何やら考え込んでしまっている。

「・・・・やれやれ」

秋人はあまりの冬夜の奥手っぷりに呆れてしまうのだった。

まもなくしてチャイムが鳴り、ホームルームが始まった。


午前の授業が終わり昼休みになる。

「冬夜、飯食いに行かないか」

秋人は冬夜を昼飯に誘う。

「すまない・・それはできない。財布を忘れてしまったからな。弁当も同じく・・・」

冬夜はうつむいてしまっている。

「それならおごるから安心しろ。別に1食分ぐらい問題ないぞ」

「大丈夫だ、秋人。学校から俺の家まで徒歩3分。時間的にも財布を取りにいっても問題ないはずだ。では、さらばだ」

冬夜は言うだけ言って教室を出て行った。

「・・・・・流石に一人で飯を食うのもなあ・・・」

秋人は昼飯を一緒に食べる相手を探すために教室を見回す。

「あれは・・・・茜・・なにしているんだろう」

秋人は自分のカバンの中を必死に探る茜の姿をみつけた。

「茜、どうした?」

秋人は茜に声をかけた。

「・・・・・・財布を忘れた」

「・・・・・・」

お前もか・・・・と秋人は思ったがあえて言うのをやめて言葉を続けた。

「もし、よかったら飯おごってやろうか」

「えっ、いい・・・・」

茜は言葉を濁し少し考えてから言葉を続けた。

「遠慮するわ。後で奢られた分の倍額請求されそうだし」

「そんなことしないさ。飯を一緒に食べる相手になってもらえればそれで充分だ」

「でもいい。授業が終わるまで我慢できるから。それにアンタに飯を奢られるなんて屈辱でしかないわ」

茜はそう言って秋人から離れていった。しかし、その瞬間・・・・

ぐうううううううううー

どこかからものすごい音がした。秋人があたりを見回し、すぐ近くで葵が顔を赤くしているのを見つけた。秋人はさっきの音が茜の腹の音であることに気づく。

「もしかして、腹減ってるのか、茜」

「う、うるさいわね。別にアキには関係ない」

「もう一度言うが、もしよかったら飯をおごってやろうか?」

「・・・・・」

茜は秋人の誘いを聞き考え込んでから口を開く。

「いいわ。あなたの誘いにのってあげる。それと勘違いしないでね。けして、お腹がすいてるからアキに奢ってほしいからとかじゃないから。あくまでもアキと一緒に食べてあげるだけだからね!」

「はいはい」

秋人は茜の言葉を軽く流し、茜と共に学園内の食堂へ向かった。


「「いただきます」」

秋人と茜は手を合わせてから昼食を食べる。

「アキ・・・なにその赤いやつ」

茜は秋人が食べている通常よりもかなり赤みのました麻婆豆腐を見て質問した。

「超激辛麻婆豆腐だけど。辛くてこれがなかなかうまい」

「へえ・・・」

茜は秋人の麻婆豆腐を見つめてから言葉を続ける。

「少しもらっていいかしら」

「ああ、構わないぞ。ただ、辛いから気をつけろ」

「別に気をつける必要はないわよ。辛いのは好きだし」

茜はそう言ってレンゲで秋人の麻婆豆腐をすくって口に運ぶ。

「なかなか美味しいじゃ・・・か、辛い、水水水」

最初は余裕そうな表情の茜だったが顔はどんどん険しくなっていった。あとからくる麻婆豆腐の辛さに耐えられなかったのだろう。

「はい、水」

「ありがとう」

バシッ

秋人が水を差し出すと葵は光のごとくそれを受け取り口に流し込んだ。

「あははっ、そんなに辛かったか?」

「ち、違うわよ。ただ麻婆豆腐が少し熱かったから水を飲んだだけ。け、けして辛かったから水を飲んだわけじゃないんからね」

「強がる必要はないぞ。俺はお前が確かに辛いって言ったの聞いたからな」

秋人がそんなことを言うと葵が少し悔しそうな表情を浮かべる。

「・・・・・なんか気にいらないわ。どうしてアキはあんな辛すぎるものを平気な顔をして食べれるのよ」

「親父が辛いものが好きでな、それで俺もよく食わされてた。そのうちに大抵の辛いものは苦労せずに食べれるようになった。いや、好きになっていっただけだ」

「ふうん・・・・」

秋人の言葉に茜は納得する。

「そういえば、茜、一つお願いがあるんだが」

「お願い?まあいいわ、聞いてあげる。昼食を奢ってもらったし」

「サンキュー」

それから秋人は少し間をおいてから再び口を開いた。

「冬夜・・・山吹冬夜に話しかけてやってくれないか?」

「はい?なんで山吹に話しかけてやらなきゃならないわけ?」

茜は当然といえば当然の質問を秋人にする。

「それはだな・・・冬夜がお前と話したいらしいんだ」

「はい?」

茜はワケがわからんというように首をかしげる。

「あの・・つまり・・そのだな」

「何?いいたいことがあるならはっきり言いなさいよ」

「・・・・・・」

茜に言われるも秋人は言葉を詰まらせてしまう。

それには理由があった。秋人は今、茜に冬夜が何故茜と話したがっているのかをはなさなければならない。しかし、その理由は冬夜が茜に好意を持っているからだというもの。これを秋人が茜に言ってしまうのは勝手に秋人が冬夜の気持ちを勝手に茜に伝えてしまうことと同じことになる。理由ははなさなければならないが冬夜のことを考えるとそれはできないということが秋人の言葉を詰まらせる理由だった。

(よし・・・ごまかすのはよくないな)

秋人は意を決して口を開く。

「茜、冬夜はお前に好意を持ってるんだ」

「えっ?話したこともないのに?」

「どうしてあいつが茜に好意を持ったかはわからない。でもあいつがお前に好意を持ってるのはホントだ」

「ふーん・・・」

茜はイマイチわからないという顔をして言葉を続ける。

「どちらにせよ、わたしから山吹に話しかけることはないわね。自分から話しかけない奴に構っている暇はないから」

「厳しいな・・・」

秋人は茜の言葉に対して感想を述べ、それ以上は頼みこむことはしなかった。


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