お風呂入れたった
どうしてこうなった!
唐突ですが、我が葛城家は両親、姉、俺、妹の5人家族です。姉は家を出て一人暮らしをやってますが、突然遊びに帰ってきたりします。
そしてまだ小さな妹と俺を除き、みんな背が高い。父親は185センチ、母親と姉は170センチそこそこ。これで妹も同じくらいになったら俺泣いて良いよね?
どうやら俺は祖父の血を受け継いだらしい。祖父は160無いくらいだと言っていたから。
つまり何が言いたいかと言いますとですね。
父親が背が高くて良かった、ということ。だって王子背高いんだもん。
俺のだったら合わないだろうし。
「王子、着替えよう!」
『……は?』
いきなり何をと言う顔をされる。当然だよな、解ってた。多分何を言ってるか解らないんだろうけど解ってもそう言うだろうね。うん。
そうだ、せっかくだし風呂にでも入れるか。良く見ると王子の顔が少し汚れてる気がするから。まぁ地面に倒れてたし。
決して犬をお風呂に入れようとしてる気分では無い。
しかしその前に服だな。親父、一式借りるぜ☆
ということで親父の部屋に王子を連れて行く。
身体に合いそうなものを適当に見繕い、今度は風呂場に連れていく。
王子は始終何がなんだか解らない顔をしていたけど。
ってか風呂沸かしてねえええええ!!!仕方ない、シャワー浴びて貰おう。使い方教えないとじゃん。
「王子、風呂だ!」
『は?』
あ、また疑問形。
「ぶっちゃけ風呂沸いてないからシャワーな」
と王子の意思を無視して言う。
いや、数年前に死んだ我が家の可愛いお犬様を思い出してるわけじゃないですよ、多分。
当然の如く、シャワーを使ってみせると王子は酷く驚いた。出て来るお湯にも驚いたようだ。
王子のいた場所の文明はここまで無かったのかな?と伺わせるには充分な反応。
何とかシャワーを浴びさせ、着替えを手伝ってやるとうわぁ、王子だぁ!
いやー、洗ったら髪も綺麗だし肌も割とつるっとしてるしあぁもう王子だわ。着てる服をわざとスーツにしたから余計にね。モナコの王子とタメはれるんじゃないの、これ。いやそれ以上かもしれん。
あれ、俺何したいんだっけ。あぁそうだ、スーツ着せて遊んでる場合じゃないよね、うん。
髪をドライヤーで乾かしてやる。このサラサラブロンドにドライヤーかけるの躊躇うわぁ。
そしてちょっとしたトリマー気分を味わっている。あぁ、弥太郎(犬)洗って乾かしてたのが懐かしいなぁ。
ごめん、俺王子のこと拾った犬みたいに思ってるっぽい……。
王子の身支度を終えて再び地球儀の前に。
王子は地球儀に興味津々のようだ。自分で地図を見ながらゆっくりと回している。
いやぁ、まるで小学校の先生かビジネスマンみたいだよ。俺が場違いみたいだよ。
「王子、読める?」
地球儀にある文字を指す。日本語と英語で書いてあるのでせめてどちらか分かればっ。
『……これは文字、か?』
文字を触りながら呟いた。
『みたこと、あるような…?』
渋い顔をする。
だけど、それは何かを思い出せそうで思い出せないような表情だった。
王子の指差した場所を読む。
「アメリカ」
『……?』
王子は首を少し傾げた。
もう一度、一文字ずつ指す。英語じゃなくて日本語ね。
「ア、メ、リ、カ」
王子はあぁ、と言う顔をして同じように指を指して繰り返す。
こうなったら文字と意味を教えるしかない。
見た目外国人だけど致し方あるまい。俺は義務教育で受けた英語なぞテストを解くくらいしか出来ないからね!日本語万歳!
さてどっからか、と考えていると自分の腹から「くきゅう」と音がたつ。
何がくきゅうだ。お前は某声優のファンかとセルフ突っ込みをしそうになったが、王子の手前やめておk…なんか王子が笑ってらっしゃる。
くすくすと、口を拳で隠してる。く、くそう……笑った顔もイケメン過ぎて泣きたい。
「飯、作るかぁ」
そういや朝何も食べてない。まぁ11時だしブランチといくか。
と言うわけでキッチンに王子を連れていく。
ダイニングの椅子に座らせて、待ってて貰う。
ダイニングはカウンターで仕切られてるだけだから、やってることが見たいらしく座った王子は近寄ってきた。
な、何か見られると緊張するな……。
いつも一人ならカップか袋のラーメンなのだが、せっかくだしたまには力いれて作るよ。
何を隠そう母親はキャリアウーマンの弊害か料理はど下手くそ、姉が美味い料理を作ってくれていた。が、結婚するにあたって何故か俺に花嫁修業を施して彼女は嫁いでいった。おかげで料理・洗濯・掃除は実家暮らしだけど一通りできます。
料理は得にアレンジ無限大だから楽しいので、今家の中の当番は自分だ。
アボカドあるし、エビも冷凍されてるからクリームパスタ作ろう。たまには洒落乙なカフェメニューを作りたいしね。
王子も食べられるんじゃないかなぁ。
と言う訳で小鍋にコショウ3粒、ローリエ一枚を入れ、水を入れて火にかける。
隣のコンロにも大きな鍋にたっぷりと水を入れて火にかけた。
用意したアボカドの側面に包丁をいれてくるりと回す。2つにわけて緑の果肉をスプーンで掻き出してボウルに入れた。フォークでマッシュすると荒いながらもペーストになり、そこにマヨネーズと醤油を混ぜて味をみる。美味い。パンにのせて焼いて食べたいっ。そんな衝動を押さえつつ、少しだけ牛乳を入れて延ばす。
小鍋のお湯が沸騰してきたので、冷凍庫から殻むきして小分けにしたエビを取り出して茹でる。
しばらくすると赤く丸まったものが浮いてきそうなので火から降ろし蓋をする。
麺用の鍋も沸騰してきた。塩を多めに入れて麺を入れる。
エビを取り出して荒熱とったらアボカドペーストに混ぜて。
麺はアルデンテより少し柔らかめにゆでたのを三分の一笊にあげて、水気を切ったらペーストに加えて良く混ぜる。
混ざったら残りも入れて良く混ぜてっと。
味見をする。美味いけどアクセントないなー。あ、ちょこっとだけ柚子胡椒いれちゃおう。山葵も美味いが辛みが熱で消えちゃうからね。
ほんの少し入れて混ぜる。うん、よし。最高。
スープは面倒だったのでインスタントのわかめスープで。手抜き万歳。
王子に見られていることも忘れて俺は料理を楽しんでしまった