名前と地球儀
家が、閑静な住宅街にあって本当に良かった。
お年寄りや子供連れのお母さんたちがうろつかない時間で本当によかった。
玄関について思ったのはそれだった。
考えても見みくれ。男二人、外人のイケメンの手を引いて歩く俺。中々いやかなり誤解されるレベルの姿じゃないですか。誰もいなくてよかった……。
王子(イケメンつけるの面倒になった)は俺が靴を脱ぐと首を傾げながらも同じように脱いだ。
おや、外人さんとはいえ中々理解があるな王子。とか思いつつ廊下を進み、居間に入る。
こういう時家族みんないないのはラッキーだぜへっへっへ。説明が面倒だしな!
ソファーに座れと手振りで示すと解ってくれたようで座ってくれた。
何、王子なんでそんな驚くの?ソファーに何かありましたかね。
向かいに座り、まずは自己紹介としますか。何言えばいいの?アイアムも絶対通じないよね?
でも手振りが通じるならきっとわかる。日本人のジェスチャーは欧米と違うらしいけど手振り通じりゃなんとかなるだろ。
と、いうわけで俺は自分を指差した。
「俺は、葛城悠葵」
長い睫毛をぱしぱしさせる。その身長を俺と取り替えたら女の子に見えそうだなじゃなくて。
『オ……?』
王子は眉根を寄せた。うん、ちょっと早かったかな。
「あー、か・つ・ら・ぎ・ゆ・う・き」
もう一度自分を指しながらいう。
『カツ、ラギ?』
ん?あれ?意外とはっきりした発音。
「悠葵」
『ユーキ、か?』
王子はウを発音せずに名前を呼んだ。俺はよしイケルという謎の自信で更に言う。
「そう!王子は?」
失礼だけどこの際しかない。王子を指差した。
首を傾げたが、何か思い出したような顔をして
『シエラ・エアソール・クロス・ディ・フォルデ』
と言う。長いね、王子はやっぱり王子だったっぽいよ。
「シエラ?」
と聞くとこくりと頷く。
王子、王子アンタゴールデンレトリバーみたいだよ……もふもふした違う!
第一関門は突破した気がしたが、問題は山積みだ。名前だけじゃなー。
そこで居間に飾られた、親父の趣味の地球儀を棚から持ち出す。
親父、何で小学生の学習用みたいなの買っちゃったんだよもっとインテリアとして洒落たの買えよとか思ってごめん。今凄く感謝するわ。
ソファーの合間にあるテーブルの上にどん、と地球儀を置く。
「見たことある?」
地球儀を指差す。
王子はまじまじと地球儀を見ている。
あまりにまじまじと驚きながら見るのでつい、球の部分を静かにしかし勢い良く回してみた。
王子はびくっとなり、あ然としている。やべえ面白い。
もう一度……あ、またびっくりした。やばい、王子可愛いじゃねえか。
じゃなくて。
「見たことない?」
じっと見る王子に言うが、王子は食い入るように見ている。
『これは、何なんだ?地図が書いてあるが』
解んないけどコレのこと聞いてるんだろーなー。答えても解らないだろーなーどうしようかなー。
「地球儀」
『チ、キュウ、ギ?』
鳥か、君は鳥か王子!図体はでかいが小鳥のようだよ!なんか俺キモイ!
「そう、地球儀」
『???』
意味が解らないのだろう。つまり、彼は確実に地球の人間ではない。
よっぽど古い時代からタイムスリップしたか、それこそ異次元からやってきたか。うん、ファンタジィだね。でもそうとしか思えない。
せめてヨーロッパあたりに落ちればまだ良かったかもしれないけど、ここは日本。日本の田舎。王子、これから苦労するんだろうな……。
他人事じゃないよ拾ったのは俺だよ、お・れ。
しがない男子高校生に王子をどうすればいいのか解らないよ。でもひr保護したからには責任を持たねばいけない。
うーん、うーん……とりあえず、語学の壁をなんとかするしかないな。
いやその前に着替えさせよう。いつ誰が来るか解らないし。ぱっと見普通に見える方がいいだろ、外人さんでも。
まぁ190センチ近い長身のお兄さんに着せられる服なんて俺ぁもっちゃいませんからっ!背が高い父親の服でもがめてきますわ!
な、泣いてなんかないんだからねっ。
あっ、王子が不審な顔で俺を見てる。