川原の落としもの
春うらら。こんな日に学校なんぞ行ってられっか。
友人に「今日はサボる」とメールを送ると、ホームルーム中のはずなのに「今日もだろタコ」と帰ってくる。
相変わらず、メールでは口が悪い友人だ。話すと丁寧なのに残念なヤツだ。
制服に着替えずに外へ出る。補導されたら厄介だからね。
4月の少し冷気を帯びた空気から5月の陽気に変わると、そこはかとなく緩慢さが広がる気がする。
チャリをこぐおばちゃんも、犬を散歩するお祖父さんも何となく穏やかだ。
こんな日は河原の土手にでも行くか。
家の近くに流れる、比較的大きな川には小さな頃から良く来ている。
土手の整備が割とされてるから近所の人達も遊びに来たり、たまに釣りをしてる人もいる。
今は平日の昼間なので人はいない。
風は少しあるものの、陽光で温まり過ぎなくて良い感じだ。
さて、しばらくぼーっとするかと思い適当に座った時、近くの草むらからどさりと音がする。
何だ?誰か何か投げたのか?と思い辺りを見回すが、何も不自然な様子はない。
何かを投げ捨てたあとも無いし、捨てて逃げた人間も居る気配がない。
何か、気持ち悪いな。
音のした方向に行ってみる。まさか野生動物じゃないよなと思いつつ。
草むらと言っても背丈があるわけではなく、たまに膝丈の植物があるくらいだ。
何もないならいいなーと見渡してみると、見事に何かが落ち……いや、人が倒れていた。
嘘だろー、この人どこからきたのー?さっきまでいなかったじゃん……。
何か嫌な予感を覚えつつ、倒れた人に近寄る。
髪の毛は……金髪。ヤンキーか?と思うが服はヤンキーと言うより…何だ、コスプレ?RPGの旅人みたいな服装だな。
しかしでかいいや長い。伸びてるだけかもしれないが、身長は高いだろう。とりあえず声をかけてみよう。
「あのー、大丈夫ですか?」
気絶してるのかなー。
肩を揺すってみよう。
「もしもーし、大丈夫ですか?生きてますかー?」
ゆさゆさと揺すると、倒れた人はぴくっと肩を動かしたあと、がばりと起きる。
うっわ、なんだこの絵に描いたモチならぬ絵に描いた王子は。
びっくりしたような顔はかなり調っていて、ヘタすると女かと思ってしまう。睫毛は長いし瞳は青い。クッソイケメン。殴りたくなるくらいイケメン。
そんなイケメン王子は自分をじっと見たあと、キョロキョロと周りを見回すと口を開いた。
『ここはどこだ?』
あの、何をおっしゃったの?
『君は誰だ?』
はっはっはっ、何語だっ?!
義務教育で習う英語でも、たまに聞くフランス語やドイツ語でもない。
何?何なの?スウィッツランドなの?あれドイツ語だっけ?オランダ?イタリアン?でもどれでも無い気がするんだけど!まさか金髪碧眼でンジャメナとかアフリカ系とか?アルゼンチンとかメキシコじゃないですよね!あれ南アメリカだけど!エスパニョールな感じじゃないしね!いや、スペイン人的な意味ではエスパニョールかもしれないけど!えぇい訳が解らなくなってきたぜぃ。
『……言葉が通じないのか』
苦々しい顔をしてイケメン王子は何か呟いた。
うーん、どうしたものか。何か、訳アリ?な気がする。言葉が通じないから職質されたらやばいんじゃないかな。
うーん……。
うーん…………。
『……』
イケメン王子も何かを考えている顔をする。
ふ、と。
まさか、まさかそんな。小説じゃあるまいし、異世界から来たとかじゃないよな……?わぉ、我ながらファンタジック!確かにラノベは好きだけど。思わず遠い目になる。
『……何てことだ』
イケメン王子が弱りきった顔で何か呟く。
イケメン王子、イケメン過ぎて腹立つけど、その顔見たら肉食女子が群がりそうだよ……ってか不覚にもキュンと来ちゃったよ俺男だけど。
仕方ない、こうしてても埒があかないな。
「王子!ついてこい!」
俺はなにを言ってるんだと思いつつ手を差し延べる。イケメン王子は困ったような顔をする。
迷うのも無理ないよな。知らない土地で言葉通じないヤツに手をのばされても、その手をとろうとは思えない。
それでも、イケメン王子は迷いながらも俺の手をとってくれた。
手を引いて立たせると……やっぱ長ぇ!
細身なのは解ってたけど、細身で身長何センチだよ!190センチくらいあんだろ!長いよ!
因みに自分は160センチ行くか行かないかだ。低い方だよ悪いか!
とにもかくにも、何も考えずに……いや、せめて目立たないようにと俺はイケメン王子の手を引いて家に帰ることにした。