悪魔、同窓会に乱入する:ジェラシーは地獄の業火より熱く
「同窓会? ……それは、かつて同じ学び舎で魂を競い合った者たちが集まり、現在の虚栄心をぶつけ合う、あの醜悪な儀式のことか?」
鏡の前でドレスを選んでいる恵に、メフィストがソファから冷ややかに問いかけた。
「言い方! 普通に久しぶりにみんなで集まるだけよ。……あ、もしかしたら、教育実習生だった佐々木さんにも会えるかも。私、初恋だったんだよね、その人」
ピキッ。
メフィストが持っていたティーカップに、目に見えない亀裂が入った。
「……ササキ? 初恋? 恵、貴様の低い知能レベルで、誰かを慕うなどという高度な感情が抱けたとは驚きだな。どうせその男も、今や髪が抜け落ち、腹の出た、魂の抜殻のような凡夫だろう」
「失礼ね! 佐々木さんはすごく優しくて、かっこよかったんだから。じゃ、行ってくるわね。夜遅くなるから、夕飯は勝手に食べて」
バタン。
閉まったドアを見つめ、メフィストは静かにティーカップを粉砕した。
「……フン。私の獲物が、別の男の思い出に浸るなど、契約上の不備だ。……監視が必要だな。あくまで、魂の品質管理のために」
一時間後。銀座の高級ホテルの宴会場。
そこには、着飾った男女が集まり、再会を祝してシャンパンを傾けていた。恵も、同級生たちと楽しそうに談笑している。
「あー、恵ちゃん! 変わらないねー! そういえば今日、佐々木先生も来てるよ!」
その声と同時に、会場の空気が一変した。
重厚な扉が音もなく開き、逆光の中から「完璧すぎる男」が歩み入ってきたのだ。
仕立ての良い漆黒のスリーピース、冷徹なまでの美貌、そして周囲を圧倒する王者のオーラ。
「め、メフィスト!? なんでここに……!?」
驚く恵の隣に、メフィストは自然な動作で割り込み、彼女の肩を抱き寄せた。
「……お待たせしました、恵。忘れ物ですよ。貴方の『心』を、家に置いてきたようでしたので、届けに来ました」
「な、何言ってんの!?」
そこに、一人の柔和そうな男性が近づいてきた。かつての教育実習生、佐々木だ。
「やあ、恵さん。お久しぶり。……あちらの方は、お知り合い?」
メフィストは、佐々木を頭のてっぺんからつま先まで、レントゲンでも撮るかのような鋭い視線でスキャンした。
(……チッ、清潔感のある笑顔、安定した公務員職、そして微塵の邪念もない澄んだ魂……。一番タチの悪いタイプだ)
「初めまして、佐々木。私はメフィスト。恵の人生を、公私ともに、そして死後まで『管理』している者だ」
「か、管理!? 恵さん、この人ちょっと……個性的だね」
佐々木が苦笑いして恵の肩に手を置こうとした瞬間、メフィストが放つ殺気が会場のシャンデリアを激しく揺らした。
「……触れるな。その不浄な手で我が契約者に触れることは、地獄の法典において八つ裂きに相当する重罪だ」
「メフィスト! 怖いからやめて!」
恵は慌ててメフィストを会場の隅へ引きずっていった。
「もう! 何しに来たのよ! 佐々木さんとお話ししてただけじゃない!」
「……気に入らん。あのような『善人』という仮面を被った男が、貴様の思い出の中に居座っていることが我慢ならんのだ! 貴様の記憶のすべては、私の恐怖と驚きで塗り潰されるべきなのだ!」
恵は怒っていたが、メフィストの必死すぎる表情を見て、ふと気づいた。
「……ねえ、メフィスト。もしかして、嫉妬してるの?」
「し、ししし嫉妬だと!? この私が、ただの人間に!? 愚かなことを! 私はただ、収穫前の果実に虫がつかないか心配しているだけで……!」
顔を真っ赤にして(悪魔なのに!)弁明する彼を見て、恵はついに吹き出してしまった。
「ふふっ、あははは! 悪魔のくせに、独占欲強すぎ! 分かったわよ、もう帰るから。……二次会も行かないで、あなたと一緒に帰ってあげる」
「……当然だ。貴様の時間は一秒たりとも、あの凡夫に分け与えることは許さん」
帰り道、恵の少し後ろを歩くメフィストは、満足そうに鼻歌(地獄の鎮魂歌)を口ずさんでいた。
同窓会に乱入し、周囲を恐怖のどん底に陥れた自覚は全くない。ただ、恵が「自分を選んで帰ってくれた」という事実が、地獄の支配権を得るよりも彼を幸福にしていた。
「恵。……明日から、あの佐々木という男の顔を忘れるための、特別合宿(ゲーム大会)を始めるぞ」
「はいはい、わかったから。……本当、子供なんだから」
悪魔のプライドは、嫉妬という人間の感情によって、今日もボロボロに崩されていくのであった。




