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完全課税国家

作者: はまゆう
掲載日:2026/02/19

短い物語ほど、世界は極端になります。

この話に出てくる制度はすべて架空ですが、もしかしたら現実と少しだけ似ているかもしれません。


深く考えずに読むのも、深く考えて読むのも自由です。

――ただし、この国では思考に税金がかかります。

その国では、すべてに税がかかった。


 最初はささやかなものだった。酒税や煙草税のように、嗜好品だけだった。それがいつの間にか拡大し、水道税、歩行税、発声税、瞬き税と増えていった。政府は言った。


「税とは文明の証です」


 誰も反論できなかった。反論税があったからだ。


 私が生まれたときには、すでに泣き声課税が存在していた。産声を上げた瞬間、父の口座から金が引かれたらしい。父は笑っていたが、あとで明細を見て青ざめたという。


 学校では税教育が徹底されていた。算数は税率計算、国語は納税誓約文、体育は効率的な動作による節税運動だった。先生は黒板に大きく書いた。


「無駄な動きは国家の損失です」


 生徒はみな、最小限の呼吸で生きる訓練をした。息を浅くすれば呼吸税が減る。瞬きを減らせば視覚使用税が下がる。やがて教室は、ろう人形の集会のように静まり返った。


 だが政府は満足しなかった。


 ある日、新税が発表された。


思考税。


 国民はざわめいたが、ざわめき税が即座に課されたので沈黙した。政府は続けた。


「思考は高度な国家資源を使用します。よって課税対象とします」


 測定方法は簡単だった。国民全員の首に思考計が装着された。脳波を読み取り、考えた分だけ請求される。


 最初に破産したのは学者だった。次に作家、哲学者、恋人たちが続いた。恋人たちは互いを思うだけで料金が跳ね上がったからだ。やがて人々は考えるのをやめた。


 街は静まり返った。誰も悩まない。誰も疑問を持たない。誰も夢を見ない。完璧な秩序だった。


 私はというと、平均的な納税者だった。考えないよう努力し、感じないよう訓練し、できるだけ存在感を薄くして生きていた。だがある日、どうしても疑問が浮かんだ。


――政府は、なぜここまで税を増やすのか。


 その瞬間、首の装置が赤く光った。高額請求の警告だった。私は慌てて思考を止めようとしたが、「止めなければ」という思考が発生し、さらに加算された。額はみるみる増えていった。


 翌日、徴税官が来た。


「未納があります」


「払えません」


「では差し押さえです」


 部屋の家具、衣服、食料が持っていかれた。最後に徴税官は私を見た。


「まだ資産がありますね」


「え?」


「あなた自身です」


 私は国有財産として登録された。以来、私は国営思考労働者になった。政府の代わりに考える仕事だ。政策、法律、標語、税制度の改良案――あらゆる思考を強制的に行わされ、そのたびに思考税が発生した。


「待ってください。働いているのに税を取られるんですか」


「当然です。あなたは思考している」


「でもこれは国の命令です」


「命令であっても思考は思考です」


 理不尽だったが、私は必死で考えた。考えなければ罰金、考えれば課税。どちらにしても借金は増える。帳簿の数字は雪崩のように膨らんだ。


 やがて私は気づいた。


 どうせ払えない。


 そう思った瞬間、胸が妙に軽くなった。どうせ破産するなら、思いきり考えてやろう。私は好きなだけ想像した。海、星空、遠い国、まだ存在しない機械、子供のころの記憶。思考計は狂ったように回転した。


 徴税官が飛び込んできた。


「やめろ! 国家予算を超過する!」


「知るか」


 私は笑った。笑い税が加算された。


 そのとき、警報が鳴り響いた。役人たちが青ざめて走り回る。


「どうした」


「計算不能です! 思考税総額が国家資産を上回りました!」


「何だと?」


 私は理解した。


 この国の通貨価値は、「国民が将来支払う税額の総和」を担保にしている。つまり税が増えるほど国家は豊かになる――はずだった。


 だが私は考えすぎた。


 私一人の未納額が、国家の総資産を超えたのだ。


 その瞬間、通貨は紙くずになった。市場は崩壊し、銀行は閉鎖され、政府は担保を失った。


 徴税官が震える声で言った。


「……君は国家を破産させた」


「そうらしい」


「責任を取れ」


「いいですよ」


 私は静かに目を閉じた。思考を止めた。


 計器が沈黙する。


 役人が叫んだ。


「だめだ、考えろ! 少しでいい、税を発生させろ! 国家を維持するには納税が必要なんだ!」


 私は何も考えなかった。


 すると政府は非常事態宣言を出した。


「全国民に思考を命ずる」


 だが長年の節税教育の成果で、誰一人考えられなかった。


 こうしてこの国は滅びた。


 最後に残った公式記録には、こう書かれている。


国家崩壊の原因:

国民が優秀すぎたため。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


この作品は

「合理性を突き詰めると、人間は幸せになるのか?」

という思いつきから生まれました。


もし少しでも笑ったり、ぞっとしたり、考えてしまったなら――

あなたはすでに、この国の納税者かもしれません。

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