第九話 再びの影
夜の町は静かだった。
ミリアは小さな寝息を立て、私の隣で眠っている。
町全体の魔力循環は整い、異常は見当たらない。
だが、背後に違和感があった。
屋根の上。
黒衣の追跡者だ。
前回よりも人数が増えている。
監視だけでなく、行動制限の意思を持つ集団。
彼らは、直接攻撃を仕掛けるより、まず観察する。
私の一挙手一投足を確認し、異常があれば即座に報告する。
(面倒だが、仕方ない)
私は手をかざす。
魔力の流れが視える。
攻撃魔法、結界、歪み。
彼らの魔法の構造も、私の中では“修正可能な歪み”として扱われる。
追跡者が仕掛ける小規模な魔法も、瞬時に無効化される。
爆発せず、消えるわけでもない。
“巻き戻され、成立条件を変えられる”だけだ。
戦闘ではなく、制御。
驚きの視線が、幾つもこちらに向く。
攻撃を与えず、混乱させず、ただ“成立させない”――
それだけで、彼らは無力になる。
私はミリアにそっと触れ、微笑む。
彼女はまだ、状況を理解できない。
だが、この静かな無双こそ、私の力の本質だ。
追跡者たちは、撤退の判断を下す。
直接攻撃は無意味、報告だけで済ませるしかない。
次に何をするかは、彼らの自由だ。
夜の町は再び静寂を取り戻す。
私は考える。
――壊れたものを変える。
敵を倒すのではなく、状況そのものを変える。
これが、私のやり方だ。
夜風に吹かれ、私は次の町へと歩き出す。
ミリアを抱え、世界の歪みを変えながら。
静かに、確実に.




