第八話 監視の影
次の町に着いたのは、夕暮れ前だった。
ここも、魔力循環が歪んでいる。
街灯の結界は弱く、井戸の水は淀んでいる。
治癒魔法は機能しているが、やはり根本は放置されたままだ。
私は、ミリアを肩に抱きながら町を観察する。
前回の町と同じ。
目立たず、静かに、しかし確実に変える。
住民たちは遠巻きに見ている。
恐怖と困惑。
だが、混乱は最小限で抑えられる。
手をかざすと、魔力の流れが視える。
循環の歪み、噛み合わない結界、無駄な干渉。
瞬時に構造を変える。
攻撃ではなく、介入。
静かな無双。
ふと、背後の気配に気づく。
聖堂の影。
遠く、屋根の上から。
追跡者ではなく、複数の監視者だ。
端末や魔法陣で、私の行動を記録している。
(これが、世界の本気か)
無言のまま、行動を続ける。
町の水路を再構築し、畑の循環を調整し、民家の結界を微調整する。
誰も殺さない。誰も傷つけない。
ただ、歪みを変えるだけ。
夕陽が町を染めるころ、変化は完了した。
町は息を取り戻す。
住民たちは静かに、しかし確実に生活を再開する。
監視の影は、まだ消えていない。
聖堂は、次にどう動くか。
私は、考えない。
必要なのは、目の前の歪みを変えることだけ。
ミリアが小さく笑う。
初めての安心の笑顔。
それだけで、十分だった。




