第五話 歪みの町
最初の町に到着したとき、空気が違った。
魔力循環が乱れている。
水路は澱み、畑は半ば枯れ、家々の結界は薄い。
治癒魔法は働いているが、根本は放置されたままだった。
人々は混乱している。
目の前で、魔法が暴走し、建物の壁がひび割れている。
叫ぶ声。逃げ惑う子供たち。
私は、ただ立って観察した。
(余計な力は使わない。ただ、変える)
手をかざす。
魔力の流れが目に見える。
矛盾と歪み、無駄な循環、壊れた構造。
冷静に判断して、一つずつ“正常化”する。
壁の結界の噛み合わない部分を外す。
水路の魔力循環を再構築する。
攻撃魔法の暴走を最小限に変換する。
一拍置いて、人々は気づく。
破壊されたはずの魔法が、何事もなかったかのように消えた。
悲鳴は静まり、町は一瞬だけ息をついた。
だが、背後に気配を感じる。
黒衣の男。
聖堂追跡者だ。
ゆっくり近づく。
観測者としてではなく、介入者として。
目は冷たく、殺意も恐怖もない。
ただ、私を消す可能性を持つ存在。
「……ここまでか」
声は出さず、思うだけ。
反応を見て、男は微かに動く。
私は手を動かす。
相手の魔力を読む。
構造の隙間を見つける。
だが、殺さない。
理由は倫理ではない。効率だ。
男が仕掛ける魔法を、一瞬で無効化する。
ただ、変換するだけ。
破壊ではない。
相手の攻撃は、彼自身の構造に戻る。
町は救われる。
だが、恐れが生まれる。
私は、救世主ではない。
ただ、歪みを変えただけだ。
聖堂追跡者は、一度目の接触で撤退する。
背中を見せながら、何かを記録している。
その日、町は静かに生き返り、
私は次の町へ向かう。
目的は一つ。
壊れたものを、変えること。




