第三話 異端指定
結論から言うと、静観は三日も続かなかった。
模擬戦。
再測定拒否。
その二つだけで、十分だったらしい。
呼び出しは、今度は学園内ではなかった。
聖堂。
白い石造りの建物。
治癒と秩序を司る、もっとも“正しい”場所。
私は一人で通された。
正面に座るのは、聖職者が三人。
年齢も立場も違う。
共通しているのは、私を見ている目が「人」ではなく「事例」を見ていることだった。
「あなたは、治癒魔法を無効化したそうですね」
「正確には、成立しない構造を成立しないままにしました」
間違いではない。
中央の聖職者が、静かに首を振る。
「それは破壊です」
「いいえ」
私は即答した。
「壊したのは、もともと世界のほうです」
一瞬、空気が張り詰める。
「我々の治癒は、神の理に基づいています」
「延命ですね」
言葉が、はっきりと止まった。
「根本原因を残したまま、結果だけを繋いでいる」
「循環が歪むのは、当然です」
反論は来なかった。
否定ではなく、評価に切り替わったのが分かる。
「……あなたは危険だ」
中央の聖職者が、結論を出す。
「秩序を乱す」
「信仰を侵す」
「管理できない」
三つ並べて、最後に付け加えられた。
「異端です」
私は、少し考える。
異端。
定義としては、分かりやすい。
「質問があります」
「許可しません、と言ったら?」
「それでも聞きます」
間があった。
「どうぞ」
「私が何もしなければ、この世界は正常ですか」
答えは、来なかった。
沈黙が、肯定になる。
「……分かりました」
私は立ち上がる。
「私は、あなたたちを変えるつもりはありません」
「ただ、壊れているものを、そのままにしないだけです」
その日、聖堂は正式に私を記録した。
【異端】
【要観測】
【排除は慎重に】
最後の一文だけ、少しだけ人間的だった。
学園に戻る途中、私は気づく。
もう、ここに居場所はない。
静かに。
でも確実に。
世界が、私を拒み始めていた。




