第一話 測定不能
魔法学園の教室は、いつも少しうるさい。
魔法陣の展開音、詠唱の練習、誰かの失敗を笑う声。
それらが混ざり合って、独特の騒音になる。
私は窓際の席で、それを聞き流していた。
特別な理由はない。
ただ、興味が持てないだけだ。
黒板に描かれた魔法陣は、整っているようで雑だった。
補助式が重なりすぎている。
安全性を理由にした冗長構造。
結果として、効率も安定性も落としている。
――仕様が古い。
「次は模擬戦だ。前へ」
教官に名前を呼ばれ、教室の空気が一瞬だけ変わる。
視線が集まるのが分かった。
落ちこぼれ。
美少女。
扱いに困る存在。
その全部に、私はもう慣れていた。
向かいに立った相手が、深呼吸して魔法陣を展開する。
攻撃系。
出力は高いが、制御が甘い。
安全装置は三重。
補正処理が互いに干渉している。
……これでは、通らない。
一瞬、相手の視線が私の顔に止まった。
判断が遅れるには、十分な要因だったと思う。
私は詠唱しない。
魔力も集めない。
ただ一歩、前に出た。
放たれた魔法に触れた瞬間、頭の奥で違和感が弾ける。
視界の中で、魔法の構造が“ずれた図面”のように浮かび上がった。
(ああ、そうか)
余分な処理。
矛盾した前提。
成立しない条件分岐。
考えるより先に、手が動いた。
不要な構造を外し、噛み合っていない部分を繋ぎ替える。
ただ、それだけ。
次の瞬間。
相手の魔法は、音も光もなく消えた。
一拍遅れて、結界が軋む。
壁際の観測装置が一斉に沈黙した。
数字が表示されない。
故障ではない。
正常に動作しているにもかかわらず、測定値が存在しなかった。
教室が静まり返る。
教官が、言葉を失ったまま端末を見つめている。
生徒の一人が、息を呑む音だけがやけに大きく聞こえた。
私は首をかしげる。
「……壊してはいません」
「最初から、通してはいけない構造でした」
誰も、すぐには返事ができなかった。
その日、魔法学園は初めて
“測定不能”という記録を残した。
それは結果ではなく、
この世界が初めて直面した、想定外だった。




