第1回路 未来への手がかり
【とある火山】
(やれやれ、流石にMP使いすぎたか)
火龍を目の前に流石に苦戦を強いられている
向かってくる火の玉をすんでのところで交わしながら
左腕に目をやる
オレンジ色に浮かぶ紋様が少しずつ赤に変わった
(まずいな、使うしかないか)
腰袋に忍ばせていた青いMPパックに左手を伸ばした。
「MPパック装着、魔力充填!」
赤い紋様はグラデーションを成して黄色に
「まだ足りねぇか。じゃぁ、もう一丁!MPパック装着!」
黄色から今度は緑に変わっていく
(コレだけあれば十分か)
矢継ぎ早に飛んでくる火の玉を避け
相手の隙を伺う
右手を空中にかざし、置いていくように3つオレンジ色の魔法陣を発動させた
宙に浮いた魔法円陣の上を階段のように登り
最上段で体勢を整えた
相手に向かって両足を肩幅に開き
左脇から取り出したインパクトドライバーに似た魔導工具を両手で構えた。
相手に照準を定め、そしてそのトリガーを引く。
「いくぜ、天からいただきし音と光の波動、閃光の衝撃、ライトニングサンダーインパクト!」
3重に描かれた青色に輝く魔法陣から
雷に似た閃光が相手を間違いなく捉えた瞬間
規則通り例外なく並べられたウロコで覆われた四肢は
断末魔の叫びと共にまるで水面の泡沫のように消えてゆく
「デンリュウ!」「デンク」
仲間の声が響く
仲間たちの方に目をやり右手の親指を立てた
「ご安全に!」
【2種電気工事士筆記試験会場】
光の刺す窓の向こうにココの学生だろうか5人組の若者が
校舎の隙間を楽しそうに歩いてゆく
少し遠くで電車が走ってゆく音が響いているがどちらに向かっているかまでは認識できない
心地よい風が吹き抜けていく
「解答用紙に受験番号と氏名を記入して下さい」
いかにもやっつけというような声色で担当官が言った
漆原 伝流ウルシバラ デンリュウ
なんか慣れない
散々書いてきたこの名前に違和感を覚える
最近鉛筆で字を書くことなんてないからか
「それでは始めてください」
開始の号令と共に一斉に問題用紙を開く
紙同士の擦過音が響く
鉛筆の走る音、鼻息、椅子の軋む音
その刹那、全くの無音
いや講堂の教壇から秒針の音だけが
申し訳なさそうに音を立てる
ふとそちらに目をやる
残り15分
過去5年分の過去問を3回
オームの法則を使いこなして
十分すぎる準備はしてきた
ココで終わるわけにいかない
上司のイビリ、同期の嫌味にも耐え
大学卒業後5年はよく頑張った方だと。
絶対通って来年の春には電気工事士として
第2の人生を…
試験終了
おぉやってるな
「30AだとVVFは2.6mmの2芯でいいんだよね?」
「そうだよ、だから答えはロ」
「よしっ!見えた!」
なにが見えたんだかよくわからないけど
みんな不安で気になったところをアレコレ
友達同士答え合わせをしてる
あぁなんか受験生の頃を思い出すなぁ
今更右往左往しても結果は変わらない
子供のころ空を飛びたいと思った時も
あの子と相思相愛にと思ったときも
受験のときも宝くじを買った時も
神様は何もしてくれない
(オールシカトぶっこきやがって
結局キセキ待ってても来ないんだ
自分で起こすしか…)
「デンク、どうだった?」
アニメ声とは似ても似付かぬ女の子にしては
低めの、そのせいで説得力はあるが少し冷淡さが否めない声で。
彼女の名前は薦岡 瑞稀コモオカ ミズキ
小中同じ学舎に通った同級生だ
「あぁ、まぁ大丈夫かな」
「ふーん、そう」
蒼みを帯びたその黒い瞳で僕を覗き込んだあと
肩甲骨まで伸びた青い長髪が視界を塞いだ
「おぃっ!お前はどうなんだよ!」
1秒?間があったあと彼女は答えた。
「普通かなぁ…」
普通。
「お前はほんと普通だよな、良くも悪くも」
あぁそうだ
普通って言葉に敏感に反応して
俺は普通じゃない!
そもそも普通ってなんだ!
って抗っていたっけ。
水泳、持久走は得意
とは言っても学年で10位以内に入ることはない
不良でもガリ勉でもない
偏差値で言うと55くらいか
うーん
普通だ
デブでもガリでもなく
腕相撲だって強くはない
喧嘩は負ける方が多かったか
ド普通
俯瞰するとつくづくそう感じる
考え込んだのを悟って気を使ったのか彼女はクルリと振り返って
「なんか食べて帰ろっか」
と発した後、口角を上げた
(そうだな、あとは神のみぞ知る
ジタバタしてもしょうがないし)
「まぁ合否はさておき、軽く打ち上げと行きますか!」
駅まで歩く途中でイタリアンのお店を見つけた。
細く長くってなんかよくわからないゲンを担いで
僕らはパスタをほおばった
くだらない日常会話と時折耳にする聞いた覚えのある曲
ドリンクバーの3回目のおかわりをするときに時計に目をやる
お尻の形がまだ戻り切らない合皮の席に戻り
「そろそろ速報出てるかな」
と独り言
「そうだね、そろそろだね」
2人して携帯の画面を見つめ、解答速報を検索
あったあった
「出てる、結構ドキドキしてきた」
カバンの中から問題用紙を出し、そこに書かれた印と携帯の画面に写った解答を交互に目をやりチェックしていく
「よしっ78点!」
合格ライン超えた!瑞稀を見ると
「私は94点」
と笑顔で答えた
「実技試験の準備始めなきゃね」
新しい世界への階段を1つ登った
そんな気がしていた
R7.8.20 加筆