第7話 ギルドマスターとの対面
ギルドの奥から、重々しい足音が響いてきた。
姿を現したのは、大柄で筋骨隆々とした男だった。年の頃は四十前後だろうか。鍛え抜かれた体躯に、鋭い眼光。体から滲み出る威圧感は、並の冒険者とは一線を画している。
──なるほど、こいつがギルドマスターか。
視界の端に浮かぶステータスを確認した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【ギルドマスター:ガルザ】
Lv.16
元Bクラス冒険者
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ふむ、レベル16か。この世界では確かに強者の部類に入るが、かつての俺からすれば、ようやく序盤を抜けた程度のレベルにすぎない。恐れるほどの相手ではなかった。
しかし、周囲の冒険者たちの反応は違った。
「ギ、ギルドマスターが出てくるなんて……!」
「まじかよ。よほどの大事件じゃねえか」
「くそっ、俺たちが何年もかけて昇格してもまともに話す機会すらねえのに……」
「一体何者なんだ、あのガキ……?」
低いざわめきが広がっていく。
リリアも隣で俺の袖を引っ張りながら、小声で囁いた。
「レオン様……! あの方が、このギルドのマスター……!」
「まあ、そうだろうな」
「ギルドマスターが直々に対応するなんて、普通はあり得ません……!」
リリアの言葉は最もだ。だが、俺は特に驚くこともなく、カウンターに視線を戻した。
ギルドマスター──ガルザは俺を一瞥し、次にカウンターの上のゴールデンスライムの素材を見た。そして、受付の女性に視線を向ける。
「……なるほどな。そりゃあ、大騒ぎになるわけだ」
「ギルドマスター、これは……」
「ああ、本物だろうよ。ゴールデンスライムの素材なんざ、まず市場に出回らねえ。仮に偽物を作るとしても、こんな純度の高い金属は滅多に手に入らねえからな」
そう言いながら、ガルザは俺をじっと見据えた。
「お前さん、どうやってこんなもんを手に入れた?」
試すような視線。
俺は特に動じることもなく、あえて淡々と答えた。
「狩っただけだ」
周囲が再びざわめく。
「やっぱり、こいつ本当にゴールデンスライムを……?」
「そんなバカな……!」
「正規の方法なら、まず出会えもしねぇのに……」
「いや、それ以前に、ゴールデンスライムを狩れるレベルなんてあり得ねえだろ……!」
冒険者たちの驚きや疑念の声が聞こえてくるが、俺は気にしなかった。リリアも困惑したように俺を見上げている。
「お、レオン様……本当に狩ったのですよね? まさか、運よく拾ったとかでは……?」
「もちろん狩ったさ」
「……やっぱりレオン様は規格外ですね……」
呆れとも感心ともつかない表情のリリアに、俺は軽く肩をすくめた。
一方、ガルザは俺の態度を観察していたが、やがてニヤリと笑った。
「……ふん。まぁいい」
肩をすくめると、ガルザは受付の女性に向かって言った。
「正規品と判断して問題ねぇ。買取の手続きを進めろ」
「ですが、ギルドマスター……!」
受付の女性が困ったような顔をする。
「どうした?」
「これほどの素材を買い取るには、現在のギルドの資金では足りません……。すぐに支払うのは難しいかと……」
「……チッ、しょうがねぇな」
ガルザは舌打ちし、俺を見た。
「すまねぇが、後日受け取りに来てくれねぇか? ギルドとしても、できるだけ早く資金を用意する」
まあ、予想していた展開だ。
「いいだろう。いつ頃になりそうだ?」
「三日もあれば用意できるはずだ」
「わかった。三日後にまた来る」
俺が頷くと、リリアがすかさず口を挟んだ。
「レオン様、本当にそれでよろしいのですか? こんな大金、いつの間にかごまかされるかもしれませんよ……?」
「問題ない。向こうもギルドの信用がある以上、裏切るわけにはいかないはずだ」
「むぅ……」
リリアは納得しきれない様子だったが、俺の判断を尊重して黙った。
一方、ガルザは満足げに腕を組んだ。
「気に入ったぜ、小僧。久々に面白ぇ奴がギルドに入ったな」
そう言いながら、彼は笑った。
周囲の冒険者たちは、俺とガルザのやり取りに唖然としていた。
「……え、あのギルドマスターが、こんな若造を気に入った……?」
「本当に何者なんだ、あいつ……」
ざわざわとした声を背に、俺はリリアと共に立ち上がった。その時、受付の女性が俺たちに小さなカードを差し出した。
「冒険者登録が完了しましたので、こちらがギルド証になります」
手に取ると、薄い金属のプレートには俺の名前と「F級」と刻まれていた。隣を見ると、リリアも同じものを受け取っている。
「ふふ、レオン様とお揃いですね!」
「まあ、最初は皆ここからだからな」
「ですが……レオン様の実力からすれば、すぐに昇格できるのでは?」
「さて、どうだろうな」
俺はギルド証をポケットにしまい、ギルドの出口へと向かった。
次の行動へ移るために。
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思った方は、
☆☆☆☆☆を面白かったら★5つ、つまらなかったら★1つにして頂けると、とても嬉しく思います!
また、『ブックマークに追加』からブックマークもして頂けると本当に嬉しいです。
皆様の評価とブックマークはモチベーションと今後の更新のはげみになりますので、なにとぞ、よろしくお願いいたします!