第2話 やはり家族はあてに出来ないらしい
翌朝、俺はすぐに両親に会うため、屋敷の奥にある応接室へ向かった。俺がこの領地を救うためには、まず資金が必要だ。何をするにしても金がなければ始まらない。
扉をノックすると、中から「入りなさい」という父の低い声がした。ゆっくりと扉を開けると、そこには優雅な姿勢で椅子に座る父と、傍らでお茶を飲む母の姿があった。
「何の用だ?」
父、ギルバート・フォン・アーデルハイトは、四十代後半の男だ。貴族らしく貫禄のある雰囲気を持ってはいるが、目の輝きは鈍く、覇気がない。領主としての気概を持ち合わせているとは到底思えない。
「父上、領地の財政状況についてお話を伺いたく存じます。正直に申し上げて、このままでは我々は破滅します。何らかの対策を取るべきかと……」
俺はできるだけ冷静に言葉を選びながら切り出した。しかし、父は面倒そうにため息をつき、母は軽く微笑みながら紅茶を口に運んだ。
「財政? そんなものは家宰に任せておけばいい。貴族たるもの、領地経営などに頭を悩ませる必要はないのだ」
信じられなかった。そんな考えだから、この領地は破滅の一途をたどっているんじゃないのか。
「ですが、現状は深刻です! 領民たちは困窮し、税収も減っています。このままでは我々も共倒れになりかねません!」
「だからと言って、私に何ができるというのだ?」
父は気怠げに言い放った。その姿勢からは、領主としての責任感は微塵も感じられなかった。俺は言葉を失い、母の方へ視線を向ける。
「母上、何か考えはお持ちでは?」
母、エリザベートはにっこりと微笑んだ。
「まあ、あなたったら真面目ね。でも心配しなくてもいいのよ。この家にはまだ大切なお方がいるじゃない?」
母の言葉に、嫌な予感がした。
「……まさか、兄上のことですか?」
「ええ、ラナートは優秀なのよ。あの子は王都で立派な貴族の交友関係を築いているわ。私たちは彼に全てを託しているの」
「そのために、家の金をすべて兄上に?」
母は紅茶を優雅にすすりながら頷いた。
「そうよ。ラナートが貴族社会で成功すれば、この家は安泰だわ」
「……兄上が、王都でどんな暮らしをしているのか、ご存じですか?」
俺の問いに、母は不思議そうに首を傾げた。
「まあ、貴族らしく振る舞っているのでしょう?」
違う。兄はただ王都で豪遊しているだけだ。貴族の宴会に明け暮れ、賭博に手を出し、酒と女に溺れる生活を送っている。俺はゲームの知識として、それを知っていた。だが、目の前の両親はそんな事実を知ろうともしていない。
「それでは、俺が領地のために資金を借りることはできませんか?」
「無理ね。お金はすでにすべてラナートのために使ってしまったもの」
母は悪びれもせずにそう言った。
俺は拳を握り締める。
「……わかりました。失礼します」
深く頭を下げ、俺は応接室を後にした。
これでは、両親に頼るのは無意味だ。ならば、自分の力で金を稼ぐしかない。
だが、どうやって?
商売? いや、元手がない。
労働? 領主の息子が日雇い労働をするわけにはいかないし、そんな時間もない。
ならば、もっと短期間でまとまった金を手に入れる方法を考えなければならない。
そして、俺はすぐに一つの答えに辿り着いた。
「……ダンジョンだ」
この世界には、ダンジョンと呼ばれる場所が点在している。魔物が住み着き、貴重な素材や財宝が眠る危険地帯。俺の知る限り、領地のすぐ近くにも一つダンジョンがあったはずだ。
ゲームではこのダンジョンは攻略必須ではなかったが、隠し要素として大量の財宝が眠っていた。レアアイテムも多く、運が良ければ一攫千金も夢ではない。
無論、危険はある。しかし、俺にはこのクソゲーの知識がある。
「……決まりだな」
俺はすぐに屋敷の自室へ戻り、装備を整えた。クローゼットを漁ると、比較的マシな革鎧と、一振りの剣が出てきた。剣は飾り物のようなものだったが、ないよりはマシだ。
「リリア!」
俺はメイドのリリアを呼び出した。
「どうなさいました、お坊ちゃま?」
「すまない、少し出かける。数日は戻れないかもしれないが、心配するな」
リリアは驚いた表情を見せたが、すぐに真剣な目で俺を見つめた。
「……どこへ行かれるのですか?」
「金を稼ぎに行く」
俺はそれだけを告げると、屋敷を出ようとした所で、リリアが覚悟を決めた顔で声をかけて来た。
「私もついていってもいいでしょうか? ……せめてレオン様が危ない時の盾にしていただければと」
俺の身を案じそんな事を言ってくるリリアに、俺は短く告げた。
「そうか、なら一緒に来い」
目指すは、近くのダンジョン。
この領地を救うために、俺は運命を変えるために、動き出すのだった。
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