第1話:クソゲーの世界に転生したら、没落貴族の息子だった
「――ん?」
閉じていたまぶたを開くと――これ……俺がプレイしていた、伝説のクソゲー『エターナル・オデッセイ』の序盤の景色じゃないか!
いや、まさかな。そんな馬鹿な話があるのか!?
慌てて腕を見下ろす。そこにあったのは、白い肌に包まれた細い腕。手を握ったり開いたりしてみるが、違和感はない。
鏡だ! 鏡を見ないと!!
部屋の隅に置かれた姿見に駆け寄り、映る自分を確認する。金髪碧眼の少年。服は上等な布地でできているが、どこか野暮ったさがある。
「……マジかよ」
まぎれもなく、クソゲーのストーリー序盤で滅亡が確定している没落貴族の息子、レオン・フォン・アーデルハイトだった。
「嘘だろ……?」
あり得ない。こんなことは、ゲームの中の話だったはずだ。
だが、決定的な証拠はすぐに見つかった。
机の上に置かれていた、一冊の分厚い本。
『アーデルハイト領の現状と財務報告』
そのタイトルを見た瞬間、頭の中でスパークが起こる。
この本は、原作ゲームのイベントで登場するものだ。最序盤でレオンが読んでいるにもかかわらず、内容は一切ゲーム内で説明されなかった。
クソゲーである『エターナル・オデッセイ』は、そういう細かい部分を異常に作り込んでいるくせに、肝心のストーリーが破綻していた。
「はは……マジでここ、『エターナル・オデッセイ』の世界なのかよ……」
俺の知る限り、この領地は二ヶ月後に魔王軍の襲撃を受け、住民は皆殺しにされる。レオンも例外ではなく、名もなき村人Aのように扱われ、最序盤で退場する運命だった。
恐怖が背筋を駆け上がる。心臓が早鐘を打ち、手がわずかに震えた。
だが、俺はこのゲームの全ルートをクリアした唯一のプレイヤーだ。
「知識があるなら……回避できる!」
このゲームはクソみたいな難易度と理不尽なイベントでプレイヤーを苦しめたが、逆に言えばそれを知っていれば対策ができる。
俺は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。混乱している暇はない。
「まずは戦力の確保だな……」
胸の鼓動を抑えながら、急いで部屋を飛び出し、屋敷の資料室へ向かう。
「お坊ちゃま、そんなに急いでどこへ?」
廊下に響く革靴の音が止まる。淡い香りの漂う空間に、澄んだ声が降ってきた。
目の前に立っていたのは、一人のメイド姿の少女。
「リリア!」
彼女の名前はリリア・エヴァンス。アーデルハイト家に仕えるメイドで、原作では二ヶ月後の魔王軍襲撃で死亡するモブキャラだった。
彼女の紅茶色の髪が揺れ、心配そうに俺を見つめている。その表情は優しく、だがどこか影がある。この屋敷に仕える者たちは、皆どこか諦めたような目をしているのだ。
「レオン様? どうなさいました?」
「リリア、お前に宣言しておきたいことがある!」
「は、はい?」
可愛らしく首を傾げるリリアに対して――今は何も分からないだろう彼女に宣言しておく。
この領地を救うには、原作では登場しないイベントを発生させるしかない。幸い、俺はクソゲーのすべてを知っている。
──だったら、やるしかないだろ。
「俺たちは……絶対に生き残るぞ!」
俺は歯を食いしばり、決意を胸に抱いた。
クソゲーの知識を総動員し、運命を変えるために動き出す。
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