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Ep,9 ガイ子華麗に分裂

 タリア王国。

 大陸有数の大国の内の一国だ。元々が歴史ある強国だったが、大戦の際に軍事力的な意味で人類側の勝利に大きく貢献した事と英雄の一人ランディオスを輩出した事でその権威はより高まったって話だ。

 聖職者でもあり軍隊でもある強力な聖騎士団を擁している。


 そのタリアの王都ベルナロンドに今俺たちは来ていた。


「おーおー、賑わってんな。流石は超大国」


 大通りは人で溢れてらっしゃる。国外からの観光客らしき連中も多いな。

 その賑わいからは、とてもじゃないが国内で最も有名な英雄がでけー罪を犯して逃走中だとは思えねえ。


 ただ……。

 注意して周囲をよく見回すと一般人の恰好(ナリ)はしてるものの独特の鋭い雰囲気を持った奴が人ごみに交じっている。

 おそらくは聖騎士団所属の調査員。

 お仕事内容は消えた団長の手がかり探し……ってとこか。


「美味ぇニャ! もう三本追加ニャ!!」

「へい毎度~」


 ガイ子が露店の串焼きを買って貪り食ってやがる。

 ……何しに来たんだコイツ。今さっき焼きそば食ったばっかだろうが。

 つか真横で美味そうな匂いさせるんじゃねえ、ハラ減るわ。


 移動はエンデの転移魔術で一瞬だった。

 やってきたのは俺とエンデとガイ子と三バカ。

 そのままの見た目でいけるエンデとガイ子と違って正体見られると大騒ぎになりそうな三バカは今は人間の姿に化けている。


「それはいいんだがよ……」


 イヤそうな顔で人間姿の三人を見る俺。

 何だか妙にムチムチしてて体毛が濃い肥満気味の三人の中年男が並んでる。

 ……なんなんこの暑苦しい三銃士。

 どいつが誰だってさっき名乗られたんだがもう誰が誰だかわからん。


「何でそう紛らわしい化け方したんだよ。やりにくいだろうが」


 魔族の時の見た目はあんだけ極端に違うくせに。


「いやいや、こればっかりはしょうがないんです。好きに見た目を選べるわけじゃないので。人間に化けるってなると勝手にこの見た目になっちゃうんですよ。なあ? ゴルダ」

「いや俺ビラク」


 ……既に三人の中ですらも互いに誰かを認識できてねえ。


「前も言ったけど私は当分戦闘は無理だから。何があったら全力で私を守りなさいよ」


 見たところはまったく普段通りのエンデだが、転移の魔術を使ったことで大量の魔力を消費してしまってる状態だ。

 復調するまでには何日かかかるらしい。


「わかってる。ホントに助かったぜ」


 素直に感謝して大げさにガバッと頭を下げる。

 なんせ今回の一件は完全に俺の個人的事情だからな。

 付き合ってくれてるエンデたちには頭が上がらねえ。


 ────────────────────


 ひとまずは作戦会議ってんで俺たちは大通りに面した大きなレストランに入った。

 食事時にはややズレてるんだが、それでも店内はほぼ満席って盛況ぶりだ。

 談笑してるグループも多くて店内は賑やかだ。

 これならそう声を殺してやり取りしなくてもよさそうだな。


「……それで、どうするわけ?」


 軽く食事を済ませた後でエンデが口を開く。


「それなんだが……実はな、何も考えてねえ」


「あんたね」


 正直にぶっちゃけた俺を半眼で見るエンデ。


 そうなのだ。とりあえず駆けつけては来たものの、じゃあこれからどうすんだと言われると哀しいほどにノープランである。

 逃亡中であるランディオスのやつを見つけるってのが最終的な目的になるわけだが、この国に来るのも初めての俺らがちょっと探して見つかるくらいならもうとっくに他の誰かが見つけ出してるだろう。


 そして、大体が見つけようとは思ってても見つけてからどうしようかってそこも考えてない事に今更ながらに気付く俺だ。


「そもそもそいつ、この都にいるの? もう脱出しちゃってる可能性だってあるんじゃないの?」


 ……まあ、確かにそうだ。

 逃げる者が追手の本拠地に留まり続けている可能性は低いかもしれん。

 だがしかし、俺はなんとなくあいつがまだこの都にいるような気がしている。


「上手く言えねーが、なんか俺はランディオスが都を出てない気がするんだよな」


 俺の知ってる聖騎士ランディオスは……。

 礼儀正しくて誠実で美形で、ほんで強いっていう出鱈目でムカつく男である。

 そのあいつが濡れ衣を着せられて追われる身になったとして……どうする?

 堂々と名乗り出て自分の潔白を証言する気がする。

 それがあいつっぽいやり方だ。


 しかし今んとこそういった動きはねえ。

 どういう事なんだろうな?


 やっぱまずは真実だな。

 あいつの身に何が降りかかったのか、ほんとのとこを知りてえ。

 その上であいつが困ってんなら、そん時は昔のよしみで手を貸してやるさ。


「ふしししし……」


 ……なんかガイ子が不気味に笑ってる。


「どうやらワタシがカッコ良く大活躍する時が来たようニャンね?」


 ちなみにヤツの目の前には空になったパフェの容器が三つも並んでいてあんまりカッコ良くはない。

 とりあえず役に立つって自分で言うから連れては来たが……。


「ワタシがどんだけお役立ちニャンコか思い知るがいいニャンよ!! 裂壊星サイキック忍法『ポコポコ分裂の術』!!」


 やおら怪しげなオーラを立ち昇らせながら両手を組んで印を結んだガイ子。

 するとポコンと軽い音がしてやつが二匹に分裂した。


「!?」


 びびって絶句する俺。

 オーバーリアクションなのは俺だけでエンデや三バカは「ふーん」って感じで見ている。


 ポコンポコンポコン。


 二体は四体になり四体は八体になり……最終的にガイ子が十六体まで増殖しやがった。


「どうニャ。美少女まみれニャよ。存分に愛でて至福の時を味わうがいいニャ」


「どうってお前……気色悪ぃよ!!!!」


 同じ奴が十六人もいたら恐怖以外のなにもんでもない。

 つか営業妨害だろこれ。

 混雑時の飲食店内で突然奇行に走るもんだから俺らのテーブル周辺の一角がパニックになってる。

 悲鳴を上げて逃げていく客とかいるし……。


「おい妖術使い……騒ぎを起こすんじゃねえ」


 ドン引きしているスタッフや他のお客さん方に必死に頭を下げる俺。

 連れが急に分裂して申し訳ありませんとか謝罪せにゃあかん日が来るとはな……人生何が起こるかわかったもんじゃない。


「ちょっと、悪目立ちしちゃってるわよ。一匹残して退去させて」

「扱いが雑いニャ。せっかく美少女てんこもりなのに……」


 イヤそうな顔でエンデが命じると十五人のガイ子はぶつくさ文句を言いながらゾロゾロと店から出ていった。

 普段の十六倍迷惑だなこれ。


「なんなんだよ今のは……お前が本体なのか?」

「本体とかないニャン。自分を分割する秘術ニャンよ。本来の自分の能力が等しく分割されていくからちゃんとお仕事させようと思ったらあのくらいの数が限界ニャン」


 つまり……。

 本来のガイ子のパワーとかスピードが分かれた人数分に等しく分配されたような感じになってんのか。


「え? 知能もか?」

「知能は据え置きニャ」


 ああよかった。

 コイツの知能が十六分の一になったらパッパラパー過ぎて使いもんにならんだろ。デフォルトで既にヤベーんだから。


 聞けば最後の一体になるまでは倒されても問題ないそうだ。

 一匹減れば残り十五匹の能力値はオリジナルの十五分の一になるらしい。


 ……どういう生命体だよこいつ。


「とゆーわけでこの優秀なワタシが各所に潜入して情報を収集するニャ」


 ……コイツの潜入を許す部署があるんなら、そこはかなりセキュリティに致命的な問題を抱えてそうなもんだが。

 まあ折角やる気になって協力してくれてるんだし余計なことは言わんでおこう。


 意気揚々と旅立っていく十六体のガイ子を何とも言えない気分と表情で見送る俺たちであった。

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