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Ep,3 お住まいはこちらの廃墟

 五年を過ごした王都を出発し俺はエンデビュートと共に旅路に就いた。

 汽車を乗り継いで徐々に大陸を北上して……とうとう人類領域の外れまでやってきた。

 ここからは徒歩ってわけだ。

 俺とエンデは昼なお暗い鬱蒼とした森へと足を踏み入れていく。


『これよりダークネス森』


 看板が出てる。

 ……気になる。


 引っかかる。「ダークネス森」が。

 ダークフォレストか闇の森のどっちかにできなかったのか?

 俺こういうのすげー気になる性質(たち)なんだよな。

 中途半端だろ……ダークネス森!!!


「ふふ、緊張してるの? 大丈夫よ。私と一緒ならいきなり襲われるような事はないから」


 俺の複雑な表情を誤解したらしいエンデが軽く笑ってフォローしてくれているが……。

 悪いが意識の外だ。

 今俺の頭の中はダークネス森が占拠している。


 ……悩みながら歩くこと数日。

 ついに俺たちの前にその城が姿を現した。


 何重もの城壁を巡らせた巨大な城塞。

 この規模の城は人類圏じゃお目にかかった事がねえ。


「……廃墟じゃねえか」


「あんたたちが廃墟にしたんでしょ」


 素直な感想を口にした俺をエンデが恨みがましい半眼で睨んだ。

 この城は……壊したっけかな。ちと記憶にねえ。

 何か所かの拠点を攻めたがそれにここが含まれてたかどうか。

 あん時はテンションに任せてヒャッハーしてたからなあ。


「どうだっていいわよ。瓦礫さえ気にしなければ暮らすのに不自由はないしね」


 異様なまでに男らしいことをおっしゃいながらズンズン早足で行くエンデの後に続いて俺も城門を潜り……。


 看板が……。


 目に……入っちまった。


『暗黒キャッスル』


 ……ギャーッッッ!!!!

 また出た!!! やっとダークネス森を忘れかけてたのに!!!


 暗黒キャッスルに心を蝕まれつつ……俺とエンデは城の深部、玉座の間へとやってきた。


「……………」


 周囲を見回す。天井は高くおそろしくだだっ広い空間だ。

 魔族ってのは身体がバカでかい奴も多いからな。

 割れた大窓から光が差し込む広間には、やはり倒れた石柱とかでかい瓦礫が転がってる。


 ずしん、と。

 無数の重たい足音がして床から伝わる振動がブーツの裏を震わせた。


 ヌッと姿を現したのは三体の魔族だ。

 どいつもでけえ。3m近くはあるか?

 魔族ってのは面白いもんで、個体によって見た目がまるで違う。

 今俺の前にいる奴らも、どいつも筋肉で膨れ上がった巨体ってとこは共通してるんだが……。

 一体は全身が獣毛に覆われてて頭は立派な二本の角が生えてる牡牛の髑髏みたいな感じ。

 もう一帯は全身がぬめった青緑色の鱗に覆われてて頭は魚。

 最後は青白い肌の顔の下半分を髭で覆った大男だが目が縦に一つの単眼ってな具合だ。


「お帰りなさいませ。獄炎星様」


 どいつが声を出したのかはよくわからんが三体は恭しくエンデに頭を下げてる。

 人間の女性としてみるなら標準的な体躯のエンデの前に大型の魔族三匹がかしずく様は壮観だな、しかし。


「戻ったわ。留守の間に変わりはなかった?」


 悠然と胸を反らして応じるエンデ。

 こうして見るとしっかりボスやってんなぁ……なんて俺が呑気に考えてたら。


「変わりはありませぬ。……して、こちらは……ヌウッ!!!?」


 牡牛ガイコツが急に雷に打たれたように直立した。

 俺を見て(見てるよな? 頭がガイコツなんでイマイチ視線がどこ向いてんだかわかりにくい)慄いてるようだが……。


「人間ッッ!! 人間だと!!!? この我らの反攻の拠点にィィ!!!」


 凄まじい殺気を全身から噴き出しながら牡牛ガイコツは武器を構えた。

 斧だ。……体格に合わせて武器もバカでかい。

 両手持ちの大斧の刃渡りは1,5mくらいありやがる。

 ガイコツに呼応して残り二匹も武器を構える。銛と鉄槌だ。どっちも例外なくバカでけえ。


 各々の巨大な武器を構えて俺に迫る三匹。

 そんな窮地とも言える展開に俺は……。


「…………………」


 柄にも無く、ジーンときちまってた。

 鼻の奥がツーンとして視界が滲んできやがる。


 懐かしいぜ……。


 これだよ。このサツバツとした空気だ。

 ヒリ付く殺気だ。

 ……これが俺の青春だった。

 俺たちの……世界だった……。


「お下がりください獄炎星様ッッ!! この侵入者、我らが討ちまする!!!!」


 チッと舌打ちしてエンデが俺と連中の間に割って入った。


「静まりなさい!! こいつは敵じゃな……」


 その肩を慌てて後ろからガシッと掴む。

 驚いて言葉を止めるエンデ。


 ……何言おうとしてんだこいつは!!! 空気読め!!!


「キミは引っ込んでなさい!!! 皆さんに失礼だろうが!!!!」


 せっかく殺る気になってらっしゃるのに!!!!


「私あんたを庇ったんだけど!!!??」


 ちょっと悲鳴気味に抗議されたがそんな事は意にも介さん。


 ……(パーティー)の時間だ。

 旅の途中で(エンデの金で)用立てた安物の長剣を手に俺は踊るような足取りで連中に向かっていく。


「……わぁッ!? 何か泣き笑いで襲ってきた!! 怖い!!!」


 向かってくる俺を見て魚頭が露骨に怯えていた。


 ────────────────────


「……まあ、その、なんと申しましょうかね。ちょっと青春を取り戻しすぎちゃったと言いますか」


 冷たい石の床に俺は今正座している。

 さっきまでのハッピーモードはもう終了してるんで、今は通常運転だ。


 そんな俺の前に仁王立ちしてるエンデ。

 腕組みした奴はかつてないほど怖い顔をしておられる。


「どうすんのよ、もう!! こいつらだって貴重な戦力なのに!!!」


 ブチ切れるエンデの背後にはさっきの三匹が座っている。

 俺と違って正座させられてるわけではなく、立ち上がれずに座り込んでる。

 俺が輝かしかった頃を思い出しながらベコベコにぶん殴ったせいでどいつもボロボロだ。

 ……正直、自分でもやりすぎたとは思わんでもない。

 なまじ頑丈なせいで心行くまで殴打してしまった。


「まさかあの魔王様を討った男とは……」


 牡牛ガイコツが絞り出すような声で言う。

 ご立派だった片方の角は半分くらいで折れちゃってて顔面はヒビだらけ。

 魚の奴は言葉もなくうなだれてて、単眼の奴はずっと泣いてる。どっちもシルエットが変わるくらいコブだらけだ。

 ……こっちが悪いことしたような気分になるから早いとこ立ち直ってくれんかな。


「そのような男をよく配下にできましたな」


「まあね……」


 そっけなく振舞ってエンデはサッと髪をかき流した。

 流石に「無職で食い詰めてたからね」とは言わない。

 それは温情なんだか、そんなん連れてきたのかと思われたくないのか、どっちかはわからん。


「とにかく」


 パン、と手を打ってちょい強めの調子で仕切りなおすようにエンデが言う。


「あんたたちはこれから同じ魔王軍再建っていう目的のために活動していくんだから仲良くやんなさいよ」


『……………………』


 俺と三匹の視線が絡まる。

 なんか、あいつらは微妙に言いたいことがありそうな雰囲気だぞ。

 だが主人の前だからか、一応は渋々どいつもうなずいた。


 ……かと思ったら牡牛ガイコツが他二匹にボソボソ耳打ちをし始める。


「アイツ、獰猛で関わりたくないから、表面上はすっごい丁寧に接しながら距離取ろうか」


 おーい聞こえてんだよ!!!

 イジメが始まってんだよ!!!

 無視(シカト)よりもっと陰湿なやつだよ!!!


「チクショウ。俺の気持ちが伝わるまで拳で語り掛けるしかねえのか」


「なんか昔の体育教師みたいな事言いだした!! 怖い!!!」


 俺の言葉に魚頭が怯えていた。



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