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釧路

作者: 伊渕和人

北海道の東側に位置する「釧路」。

その地は私の出身地であり生まれ故郷である。

俗に、夕日の街だとか、まりもの街だとか、大湿原だとか呼ばれている。

そんな大層な名で呼ばれるほどよい街には感じないのだが。

しかしながらかつては炭鉱業や水産業、製紙業で栄えていた道東地区の都会であったらしい。

私は都会のような一面を生まれてから一度も見たことがないため、そのような景色を市民の武勇伝程度にしか思っていない。今となっては栄えていた頃の工業がなくなり、寂しさに包まれたそんな過疎地に変化している。子供の遊び場所は外から家の中に移り変わり、元気というものは殆ど感じない。挙句の果てに大量の太陽光発電といくつかの土地が中国の企業に買収されている。世も末であると思ってしまった。

そう、かの有名な太平洋炭鉱や日本製紙釧路工場は廃止(かろうじて王子製紙が生きている)となり、水産業は排他的経済水域の設定や地球の温暖期に差し当たった関係上、年々漁獲量を減らしていたのである。

その点をカバーするために釧路市の産業は観光業中心にシフトすることを考えているらしい。

だが如何せん道東の看板ブランドお菓子の街「帯広」や、日高山脈を超えた後にある釧路の上位互換とも言える港町の「苫小牧」、道南の絶景「函館」、中心都市「札幌」、ガラス細工と運河の街「小樽」など、挙げだしたらキリのないほど北海道の地では向いていない産業だ。

夕日が綺麗だから人は釧路に来るだろうか。

まりもがあるから人は釧路に来るだろうか。

湿原があるから人は釧路に来るだろうか。

本当に行きたいような場所ではないのだから答えは「来ない」である。

逆に考えれば簡単なことである。

きれいな夕日を見るために釧路に行きますか。

まりもを見たりするために釧路に行きますか。

国指定の湿原を見るために釧路に行きますか。

全部に「わざわざ」をつければ簡単なことであろう。

これでもまだ観光業を推進するのなら、上が白痴なのだと納得せざるを得ない。

それにランドマーク1つない土地で観光業をしようとしていること自体が間違いなのである。

札幌には中心都市としての歴史や文化、近代を象徴するテレビ塔や歴史を伝える時計台がある

小樽にはニシン漁や貿易拠点として栄えた。その関係上運河が残った。観光資源にもなった。

函館には江戸幕府時代最後の戦「戊辰戦争」の最期の地である五稜郭がある。そして五稜郭はタワーから一望できるようになっている。また函館山から見た街は星空かのごとく輝いていて絶景である。

苫小牧や帯広は観光業に特化していないため今回の話題には適さない。悲しくも除外である。

ならば釧路市は何をすべきなのだろうか。

結論としては「何もしない」が何より良いことだろうか。停滞が最適解というなんとも皮肉な話だ。

そんなことに市民の税金を捨てるのなら、まずいち早く駅前をもっと活気づけることが大切だろうと私個人そう思っている。


そういえばこの地域は一時期氷都と呼ばれ、アイスホッケーで盛り上がっていた気がする。

元日本製紙の十条製紙のチームがきっかけであっただろうか。

北海道の地の二大遊戯(スキー、スケート)の延長線上にある競技なのだから盛り上がる理由など一目瞭然であろう。

氷の上を猛スピードで走ることはとてつもなく快感と記憶している。

私のアイスホッケーの経験は20歳になるまでの半分以上を占めている。

スケートに至っては四分の三である。

身近な冬季競技として栄えたアイスホッケーは釧路を宣伝するうえでこれ以上ないものであったと主観であるがそう感じた。そして十条製紙から日本製紙に時代と世代とチームが移り変わっても釧路市民のアイスホッケー人気の火は消えることがなく、更に火は勢いを増しているかのように思えた。

しかしながら火のついたろうそくは溶けてなくなってしまうようだ。

日本製紙の経営悪化による事業構造転換の末にチームは廃部。

急上昇した波は滝のようになり下落したのだ。

今となっては子どもも学生もアイスホッケーにふれる機会が減り、その地域の選手だけでチームをつくることが困難な現状だけが残った。

流れる涙もないような空っぽな悲しさを身にしみて覚えた。


田舎でも無ければ都会でもない。裕福でもなければ貧しくもない。

過去はあっても未来はないに近い。若者離れと高齢化の街。

無茶な計画を押し通さなければならないような苦しい街。


これが淋しくも寂しい錆びついた街「釧路」なのである

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