7. 深淵の門
通路には古びたカビの臭いが漂い、後方に続く曲がりくねった通路の奥へと光は徐々に消えていく。寒風の手元にある携帯式ランプだけが微弱な光を放ち、狭い空間に二人の足音が反響していた。その音は、未知なる秘密への距離が次第に近づいていることを彼らに知らせているかのようだった。
「ここはずいぶん長い間、放置されているようだな。」林凡は低い声で言いながら、壁に張り巡らされたパイプに目を走らせた。それらの鉄製パイプはすでに錆びつき、一部は裂けて内部の繊維層が露出している。「だが完全に廃棄されたようにも見えない。」
寒風は前方から目を離さず、低く冷静な声で答えた。「こういう場所ほど危険だ。これらのひび割れは、本来の用途を隠すためのカモフラージュかもしれない。」
林凡は背筋が凍る思いをし、すぐに警戒心を高めた。バッグから携帯式探知機を取り出し、周囲の気場や温度変化を慎重にスキャンした。
「熱反応が残っている。」林凡は小声で言った。「どうやら、俺たちが初めてここに足を踏み入れたわけじゃないらしい。」
寒風は探知機を一瞥し、軽くうなずいた。「先を急ぐぞ。ただし、距離を保ちながらだ。もし何かが俺たちを待ち構えているなら、簡単に近づけるつもりはないだろう。」
通路の突き当たりに、分厚い金属製の扉が現れた。扉には奇妙な符号や記号が刻まれており、乱雑な数式のようでもあり、暗号化された言語のようでもあった。
林凡は一歩前に進み、そっと扉の表面に触れた。冷たい金属の感触が彼の心を震わせた。扉の隣には手動操作盤があり、その表面は埃で覆われていたが、下部のディスプレイには一行の指示が表示されていた。
「身分コードを入力してください」
「どうやら、ここに入れるのは選ばれた人間だけのようだな。」林凡は眉をひそめながら、操作盤の構造をじっくりと観察し始めた。
「解除できるのか?」寒風は扉を注視しながら尋ねた。その眼差しは、まるで扉の向こう側にある秘密を見通そうとしているかのようだった。
「試してみる。」林凡は答え、工具を取り出した。「ただ、時間がかかるかもしれない。」
寒風は無言でうなずき、通路の入り口に向き直ると武器を構え、警戒を続けた。「急げ。ここに監視がないとは思えない。」
林凡はすばやく作業を開始し、データケーブルをディスプレイに接続してセキュリティ層を突破しようと試みた。その集中を破るように、背後から微かな足音が聞こえてきた。
寒風は即座に動き、武器を構えながら林凡を庇った。鋭い目で暗闇を睨みつけ、低い声で言った。「誰だ?」
暗闇からは何の返事もなく、ただ足音だけが徐々に近づいてくる。
やがて通路の奥から、一人の人影がゆっくりと現れた。高身長の男で、戦術装備を身にまとい、特殊なデザインの銃を手にしている。その顔は半透明のマスクで覆われ、表情はうかがえなかったが、その冷ややかな動きから圧倒的な威圧感が伝わってきた。
「お前たちは、ここに来るべきではなかった。」男の声は低く重々しく、まるで反論を許さない命令のようだった。
林凡は思わず立ち上がり、手にした工具を握り締めたが、寒風は手を上げて冷静を保つように促した。
「我々は敵ではない。」寒風の声は落ち着いていたが、その目に宿る冷たい光は否応なく存在感を放っていた。「ただ偶然、この場所に迷い込んだだけだ。」
「迷い込んだ?」男は冷笑し、銃口をわずかに上げた。「ここは軍の立ち入り禁止区域だ。その話を信じると思うのか?」
寒風は答えず、ただじっと男を見据えた。その眼差しは挑発的ですらある冷静さを帯びていた。彼はゆっくりと男に近づき、低い声で言った。「選択肢は二つだ。第一に、俺たちを撃ち殺すことだが、そうすればお前は俺たちから何も得られない。第二に、武器を下ろし、話し合うことだ。そして、お前もこの扉の向こうに何があるのか知りたいだろう。」
男は一瞬ためらい、寒風の気迫に圧倒されたのか、最終的に銃を下ろした。ただし、警戒の目は怠らなかった。
「いいだろう。何が目的か言え。」
寒風はわずかに微笑みを浮かべ、冷静な口調で言った。「真実を解き明かす。それだけだ。そしてお前も、この扉の奥にあるものを知りたがっているはずだ。」
林凡はシステムの解除作業を続け、男は傍らで彼らを観察していた。彼の視線は寒風に注がれており、どこか不安げで、この謎めいた男の冷静さに苛立ちを感じているようだった。
「俺の名はロス。このエリアの巡回者だ。」男はようやく口を開き、自己紹介した。「お前たちは一体何者だ?」
「背景はどうでもいい。」寒風は淡々と答えた。「重要なのは目的だ。」
ロスは鼻で笑い、不満げに眉をひそめた。「お前のような奴は、いつも何かを隠している。」
ついに、操作盤から短い電子音が鳴り、ディスプレイに文字が浮かび上がった。
「身分確認完了。扉を解除します。」
林凡はほっとしたように息をつき、額の汗を拭った。「よし、扉が開いた。」
重々しい金属音と共に扉が両側にゆっくりとスライドし、その先にはさらに深い通路が現れた。淡い青白い光が通路を照らし、未知の深淵へと彼らを誘っているようだった。
ロスは銃を構えたまま低く言った。「お前たちを信じたわけじゃない。ただ、何をしようとしているのか見届ける。」
寒風は何も答えず、最初に通路へ足を踏み入れた。林凡もその後に続き、心臓が高鳴るのを感じた。この奥に、彼らが追い求める巨大な秘密が隠されているに違いない。
背後でロスの冷たい視線が彼らを追っていた。それはまるで、彼らの行動一つ一つを計りにかけているかのようだった。
通路の突き当たりに、一枚巨大な透明な障壁が姿を現した。その障壁の向こうには、複雑で巨大な施設が広がっていた。無数の機械アームが半空で稼働し、きらめくデータ流が壁や天井を覆うように走っている。
林凡は息を呑み、その光景に驚きを隠せず呟いた。「これは……一体何なんだ?」
しかし、寒風は何の驚きも見せず、施設全体を鋭い視線で素早く見渡した。そして最終的に、赤い光を放つコア装置に目を留めた。その瞬間、彼の唇がわずかに動き、不気味な笑みが浮かんだ。
「ここだ。ついに辿り着いた。」寒風は低い声でそう言った。その声には、何とも言えない底知れない意図が滲んでいた。