5. 陰影の中の案内人
夜明けが近づき、空がわずかに灰白色に染まり始めた。冷たい風が廃墟の崩れた壁を吹き抜け、言葉にできない圧迫感を運んでくる。リン・ファンとカンフウは廃墟の頂上に立ち、目の前に広がる光景を見下ろしていた。そこには荒野に点在する枯れ果てた建物が、まるで白骨のように広がり、時折、人影が壊れた壁の間を忙しなく動くのが見えた。ここに人がまだ住んでいる気配もあるが、それでもどこか死の静寂に包まれている。
「ここは一体、どんな場所なんだ?」リン・ファンは眉をひそめ、目の前の景色を見渡した。
「忘れ去られた辺境の地だ。」カンフウの声は相変わらず冷静だったが、その目には深い思慮と複雑さが宿っていた。「連盟の地図では、ここは『居住不可』と記されている。しかし、実際には……」
リン・ファンはカンフウを見上げ、「実際にはどういうことだ?」と問いかけた。
カンフウは答えず、遠くに見える比較的整った建物を指さした。「あそこへ向かおう。役立つものがあるかもしれない。」
その建物は外見こそ荒廃していたものの、構造はまだしっかりしていた。リン・ファンが軋む音を立てる金属の扉を押し開けると、中は暗闇が広がり、壁にはほこりとひび割れが目立つ。床には壊れた機械の部品が散乱していた。
「ここは……修理ステーションか?」リン・ファンは壁際に並ぶ工具やロボットアームを見て推測した。
「かつてはそうだった。」カンフウは静かに答え、辺りを見回した後、隅にある比較的無傷な制御台を見つけた。彼は素早くその上のほこりを払い、操作を始めた。
モニターが数回点滅し、やがて光を放った。制御台は低い音を立てながら作動し始め、一連のデータと地図を表示した。
「これがこの地域のデータネットだ。」カンフウは言いながら、画面に表示された情報を素早く確認した。「ここはかつて連盟の工業地帯だったが、10年前に完全に放棄された。その理由は……」
リン・ファンは画面に近づき、目を凝らした。そこにはこう記されていた:「資源の枯渇と管理の失敗による放棄」。
「連盟はここを使い捨ての道具のように見限ったんだ。」カンフウの声には冷たい怒りが滲んでいた。その後、彼は地図を別の画面に切り替えた。「しかし、ここには未だに残存データの流れがあり、それを利用すれば連盟の活動を追跡できる。」
リン・ファンはスクリーンのデータ流を見つめ、頭皮が寒くなるのを感じた。「つまり、こうした廃墟ですら、実際には連盟の役に立っているということか?」
「それが連盟のやり方だ。どんな資源も完全には無駄にしない。このような廃墟であってもな。」カンフウは冷たく言い放った。
カンフウがデータ解析に集中していると、建物の外から妙な物音が聞こえてきた。リン・ファンはすぐに武器を握り、警戒の目で扉の方を見た。
「誰かいる。」彼は低い声でカンフウに合図した。
カンフウはすぐに制御台をシャットダウンし、元の混乱した状態に戻した。二人は素早く建物の影に身を潜め、来訪者の出現を待った。
扉が開き、ボロボロのマントをまとった人影が入ってきた。その足取りは慎重で、手には簡素な武器を持ち、周囲を見回して何かを探しているようだった。
「ここに住む住民か?」リン・ファンは声を潜めてカンフウに尋ねた。
「決めつけるな。」カンフウは警告めいた声で答え、その目は相手の些細な動きも見逃さないよう鋭く観察していた。
その人物は制御台の近くで立ち止まり、数秒間確認した後、振り返ってリン・ファンとカンフウの隠れている方向へ歩き出した。
カンフウは手を軽くリン・ファンの肩に置き、冷静になるよう示した。そして、相手が十分に近づいたところで突然現れ、鋭い声で問いかけた。「お前は誰だ?ここで何をしている?」
その人物は明らかに驚いたが、すぐに冷静を取り戻した。その顔は皺だらけで目には警戒とわずかな敵意が宿っていた。
「その質問は俺がするべきだろう。ここは俺たちの領域だ。お前らはここにいるべきではない。」その声には冷たさがあり、手にした武器をわずかに持ち上げた。
リン・ファンは姿を現し、両手を上げて敵意がないことを示した。「俺たちに悪意はない。ただ、ここを通りがかり、情報を探しているだけだ。」
その人物は嘲笑を浮かべた。「情報だと?こんな場所はとっくに連盟に食い尽くされている。何の情報が残っているというんだ?」
「お前が知らない情報だ。」カンフウは強い口調で答え、その目は相手をまっすぐ見据えていた。「だが、争うつもりはない。協力すれば、お互いに得があるかもしれない。」
その人物はしばらく沈黙し、最終的に武器を下ろした。「得だと?俺たちが欲しいのは生きる希望だ。廃棄された機械や過去のデータではなくな。」
「希望は時に、見過ごしている場所に隠れているものだ。」カンフウは一歩前に出て、鋭い視線を向けた。「お前たちの指導者に会わせろ。俺たちには答えを用意できるかもしれない。」
その人物は少し迷った後、最終的に頷いた。「ついてこい。ただし、妙な真似はするな。」
二人はその人物の後を追い、廃墟の街を抜けて隠された地下の集落にたどり着いた。そこには粗末な衣服をまとった数十人が集まり、重苦しい空気が漂っていた。彼らの顔には計り知れない苦悩が刻まれていた。
指導者は白髪の老人で、目は深く落ちくぼんでいたが、その中には今なお知恵の光が宿っていた。リン・ファンとカンフウの話を聞き終えると、老人は低い声で語り出した。「お前たちが探しているものに関して、いくつかの手掛かりがあるかもしれない。ただし、代償がいる。」
「何をすればいい?」カンフウが尋ねた。
「最近、正体不明の勢力がこの地域に現れた。やつらは俺たちの食料と水を奪い、数人をさらっていった。」老人の声には苦悩がにじんでいた。「我々の力では対抗できない。だが、お前たちが協力
してくれるなら、知っていることをすべて教えよう。」
カンフウとリン・ファンは視線を交わし、カンフウは小さく頷いた。「取引成立だ。」
「お前たちが何をしているか、ちゃんと理解しているといいがな。」老人の声には疑念が混じっていたが、無力さも漂っていた。
リン・ファンは拳を握りしめ、力強い目で答えた。「それが真実を明らかにする代償なら、俺たちはそのリスクを受け入れる。」
カンフウは何も言わず、冷たく笑った。その笑顔に、リン・ファンは薄ら寒さを感じた。カンフウが胸の奥に隠しているものは、表面よりも遥かに深い秘密であることを感じ取ったからだ。
集落の薄暗い灯りの下、重い空気が漂い、まるで世界全体が未知の影に包まれているかのようだった。