3. 真相の暗影
湿った空気が通路に充満し、壁の剥がれた塗装がここが長い間放棄されていたことを物語っていた。林凡は懐中電灯で周囲を照らし、光が影を切り裂いて古びた鉄骨構造と床のシミが浮かび上がる。二人はこの地下を約30分歩き続け、目の前の光景はますます荒廃していたが、林凡の心の中には疑念が暗流のように渦巻いていた。
「連盟の記録には、こんな場所は一切記されていない。」林凡は低く言い、不安が滲み出ていた。
「記録に残されていないものは多い。」寒風は彼の背後に立ち、穏やかな口調でそう言ったが、目にはこの廃墟に対する奇妙な親しみが宿っていた。彼の足取りは一切迷いなく、まるで進むべき道を知っているかのようだった。
「ここに見覚えがあるのか?」林凡が試しに尋ねた。
「ただ、こういった環境には慣れているだけだ。」寒風は淡々と答え、詳しくは説明しなかった。
通路の突き当りに重厚な金属の扉が現れ、その表面には古代のシンボルのような複雑な模様が刻まれていた。林凡は扉の横にある制御ボタンを押してみたが、何の反応もなく、システムは既に機能していないようだった。
「任せてくれ。」寒風はバックパックから携帯用のツールを取り出し、手早く制御パネルを解体して自分の機器に接続した。
「システムの解読までできるのか?」林凡は眉をひそめ、寒風の専門的な能力がますます気になっていた。
「連盟以外の場所では、生き残るための必須スキルさ。」寒風は操作を続けながら、説明を省いたままそう言った。彼の指は画面上で素早く動き、2分も経たないうちに扉は低い音を立ててゆっくりと開いた。
扉の向こうには広大な実験室が広がり、壊れた機器や散らばった書類で溢れていた。薄暗い光の中でも、床の汚れや壁に色あせた標語がかすかに見えた。「科学は未来を創り、秩序は平和を守る。」
林凡は実験室に足を踏み入れ、目を迅速に周囲に走らせた。一列に並んだガラス容器が目に入り、それぞれの容器にはかつて何らかの生物が収められていたようだったが、今は空の跡だけが残っていた。
「これらの容器……」林凡の不安がさらに強まり、手を伸ばして容器の表面に触れると、冷たい感触が彼を震えさせた。
「ここはかつて、ある重要なプロジェクトの核心だった。」寒風は淡々と言い、目に一瞬の異様な光を浮かべた。「だが、今ではただの歴史の残骸だ。」
林凡はさらに手がかりを探そうとした。散らばった書類をめくると、そこには人体実験の詳細データが記録されていた。彼は指先で記述に触れ、読み進めるたびに心が冷たくなるのを感じた。
「この人たちは……志願者だったのか?」林凡は顔を上げ、疑念と拒絶の感情が滲んだ声で尋ねた。
「志願者だったのかもしれないし、囚人だったのかもしれない。あるいは、データの中に消えたただの名前かもな。」寒風の曖昧な答えは核心を突いていた。
林凡は読み続け、ついに「コードネーム:新秩序」と記されたファイルを発見した。そこには人間の意識構造を改変し、反抗意識を消して完全に支配者の意志に従わせるという埋め込み技術が詳細に述べられていた。
「こんな技術……狂っている!」林凡はファイルを握りしめ、怒りの炎が瞳に宿った。「連盟がこんな研究を許すはずがない!」
「連盟は決して許可しないが、完全に制止もしない。」寒風は冷笑し、実験室の隅を指差した。「こうした場所の存在理由は、責任追及を避けるためにあるんだ。」
林凡は言葉を失った。ファイルを見つめながら、深い絶望を感じた。忠実な調査員として、彼はずっと連盟の理念を信じてきたが、今ではその信念が偽りの空虚な殻に過ぎないのではと疑い始めていた。
林凡が思索に沈んでいたその時、実験室のメインモニターが突然点灯し、警告メッセージが高速で点滅し始めた。「不正なアクセスが検出されました。清掃プログラムが間もなく開始されます。」
「まずい、見つかった!」林凡は武器を引き抜き、周囲を警戒して見回した。
寒風は冷静に機器を閉じ、「早く立ち去った方がいい。ここの清掃プログラムは容赦しない。」と平然と告げた。
「清掃プログラム?」林凡が問いかけたが、すぐに答えがやってきた――壁の機械アームが突如起動し、鋭い切断工具が冷たい光を放ちながら二人の位置へと向かってきた。
「走れ!」寒風は躊躇なく叫び、先に出口に向かって駆け出した。
二人は全力で走り、背後からは耳障りな警報音と迫りくる機械アームが追いかけてきた。林凡は金属が床を叩くたびに、その振動がまるで死神の足音のように感じられた。彼らは一瞬一瞬の差で、実験室の出口をかろうじて通過することができた。
再び安全な通路に立った時、林凡は息を切らして壁にもたれかかり、胸中には解決されていない問いが渦巻いていた。
「一体、これは何なんだ……?」彼は自分に問いかけ、茫然と遠くを見つめた。
寒風は答えず、ただ静かに傍らに立ち、意味深な微笑を浮かべたあと、振り返って歩き始めた。
通路の先には、さらに深い闇と未知が待ち受けているかのようだった。