第五恒星システム
一応プロットは結末までありますが、エタる可能性は割とあるので過度な期待はせず緩くご覧ください。
ここは第五恒星システム。人類居住域拡大の最前線である。
「第五恒星システムでの労働者、居住者の方は、恒星フレアに注意してください。」
観測基地からのブロードキャスト音声が端末から繰り返し流れてくる。
端末は工務作業員杉田の物だ。
厳密には杉田の勤務する鈴木工務店から貸与されている物だ。
第五恒星システムにおける収入の中央値からすれば対して高価な端末ではないのだが、
杉田の今の給与は高くない。貯蓄もない。
「今日もかよ…さっさと終わらせたいな…」
ダイソンスフィア構築のために公転軌道上に無数に設置された接合部品受け入れ、
射出ターミナルの一つが詳細不明の微小天体と衝突し、その補修業務を鈴木工務店が買って出たのである。
通常、ターミナルの破損は点検ドローンによる自動補修か、廃棄、新設によって対応されるが、
ドローンによる補修が行えず、廃棄のためのブースターも稼働しないため、
ダイソンスフィア建設機構からすると手を加えずに放置するのがコスト的にはベストプラクティスである。
ただしドローンよりも細やかな対応ができ、廃棄、新設するためのコストよりも安い鈴木工務店による申し出がなければのことである。
杉田はフレアのアナウンスを聞き流しながら、簡易シェルターも展開せず作業を続けた。
フレアの頻発により、作業が滞っており、シャトルのエネルギー的に栄養を生成できるのが今日までなのである。
惑星間航行システムの消費エネルギーはそのまま作業コストに反映され、つまり今日終わらずに往復することになれば赤字である。
赤字になれば査定はさがり杉田の給料は今腰につけているねじ回し以下になってしまう。
「オワラセナイト…」
杉田は心を無にし作業に従事した。果たしてこの作業は命を懸けるほどの価値があるものなのだろうか、
などという逡巡を巡らすほどには若くはなかった。
ただ、命を懸ける、というのが杉田にとって適切な表現かは議論があるのだが…。
「やっと終わった」
そうつぶやいたとたん目の前の光景が爆ぜた。
その眼前に広がっていたのは、放熱のためのフィンすらない浮遊物体であった。その後ろでは天球に張り付いた銀河団が歪んで見えていた。
(こんな船調査会社でも持ってないぞ。っていうかどうしてくれんだ俺の給料!!!!)
「どうしてくれんだ俺の給料!!!!」
「なんでこんなとこに人が!こっちに飛んで!」
どこにも通じていないはずの独り言に返事をする声があった。
ちなみに通信システムの送信はオフで実際独り言であったので、返事というのは適切でない。
浮遊物体と声、どちらが何なのか、何もわからなかったが反射的に解体用ハンマー
(通常はアンカービスを止めて板金や部分的な破壊、撤去に使う)を動作させ飛びあがり、
声のあった方向にスラスターを全開にしてターミナルから離れた。
離れながら杉田は浮遊物体をぼーっと眺めていた。そして浮遊物体は、そこに静かにたたずんでいた。
ここは第五恒星システム。人類居住域拡大の最前線、そして非人類との交流の最前線である。