さくらんぼの季節
春の終わりから初夏にかけて、山形県は特別な季節を迎える。それは、甘く瑞々しいさくらんぼが実る季節だ。
小さな町の片隅で暮らす少年、大樹は、毎年この季節が待ち遠しかった。大樹の家はさくらんぼ農家で、彼の一家は毎年、手間ひまかけて育てたさくらんぼを収穫し、市場や観光客に販売していた。
その年、大樹が初めてさくらんぼの収穫を手伝うことになった。
まだ10歳の大樹にとって、これは大きな責任だった。慎重に枝を揺らし、瑞々しい赤い実を手に取る。それはまるで宝石のように美しかった。
収穫期間中、大樹は毎日早起きをして、両親や祖父母と共に畑で働いた。
疲れても、さくらんぼの木の下で一息つき、直接木から摘んださくらんぼを口にすると、その甘さが全ての疲れを癒してくれた。
それは、まさに夏の味だった。
さくらんぼ収穫の季節は短い。あっという間に終わりを迎えてしまう。
しかし、その短い期間は、大樹にとって忘れられない思い出となった。手間隙かけて育てられたさくらんぼの味、それを人々に届ける喜び、そして何よりも家族と共に働いた充実感、それらは大樹の心に深く刻まれ、彼の大切な宝物となった。
それから数年後、大樹は家業を継ぎ、自分自身のさくらんぼ農園を持つことになった。そして毎年、さくらんぼが実る季節が来ると、彼はその初めての収穫の日々を思い出す。
その甘い記憶と共に、新たなさくらんぼの実が、夏の風に揺れる。