閑話 人を食った様な顔
閑話 人を食った様な顔
サイド とあるCIAの青年
「それにしても、本当になんなんでしょうね、あの男は」
「うん?」
車を運転しながら、助手席にいる先輩に声をかける。
高速道路の移動中ならば盗聴の心配も薄い。なにより、この車は我が国の最新技術が詰まっている。
いくらここが同盟国である日本とは言え、そう油断はできないが。なんせこの国は我々みたいな奴らには天国同然である。
「あの有川臨時総理という男ですよ」
「ああ。あの男か」
脳裏に浮かぶのは、有川琉璃雄臨時総理。
四十二歳という若さで大臣の地位についたこの男は、いわゆる親の七光りだった。
祖父が前々官房長官。父親が元内閣総理大臣。政治家一家に産まれたこの男は、恵まれたルックスとコネで選挙を勝ったに過ぎない。
他の議員からしたら話題づくり要員。若手からしたら担ぎやすい神輿。そういう存在『だった』。
「あいつ、こんなにも思いっきりのいい男じゃなかったでしょう」
それが、今や日本どころか世界中が注目する政治家となっている。
世界で初めて、国から依頼する形で民間人をダンジョンに送り込む制度をつくり、運営しているのだ。当たり前の事である。
だが、そもそも何故そんな制度を通す事が出来たのか。
「まさか、うちに『国内の感情操作』を依頼してくるとはな」
含み笑いをする先輩に、眉を顰める。
そう、あの男。あろうことか国内世論を扇動する為に我が国の工作員を頼って来たのである。
当然、詳しい交渉をしたのはペンタゴンのお偉いさんだが……自分達もその話し合いに同席していた。
「だが、こちらのメリットをきちんと提示してきたんだ。無碍にはできんよ。大事な同盟国なんだからな」
有川臨時総理は、我々に冒険者制度の制定を助ける様に言ってきた。
『民間にダンジョンへの対処を依頼する。それは覚醒者の少ない貴国には大変興味深いお話だと思いますが?』
ニコニコと笑いながら、あの男はそう言ってきた。
日本の。それもあんなパッとしない政治家が我が国の事情をいち早く知っていたのは計算外だった。
一万人に一人。この数字は、アメリカの覚醒者の割合を示している。
そして、日本の覚醒者の数は驚くべき事に『百人に一人』。
この差は、地脈の安定度が影響するらしい。オカルトじみた話だが、今やホワイトハウスにシャーマンが軍事顧問として招かれる時代だ。
曰く、地脈に大量の魔力が流れ、なおかつそれが安定しているのが日本という国らしい。対して、アメリカは先住民の神殿を埋め立てたり開発したのが悪影響を出しているとか。
それについて先人たちを責める気はないが、まずい状況だ。先進国で覚醒者が多いとされている国は『日本』と『イギリス』。そして、イギリスと日本では母数となる国民の数が違う。
中国でも覚醒者の不足は叫ばれているらしい。北の某大国はそもそも地脈が荒れ過ぎていて、覚醒者の数が最低クラスとか。
地脈に流れる魔力量の問題でダンジョンの数と危険度も日本やイギリスは高いが……その他の国々だって、十分すぎるほどに国内の土地に抱えている。
更に言えば、モンスターに対抗できるのは実質覚醒者しかいないのだ。モンスターの強さはこの際関係ない。
それに、地脈が安定した土地ほど覚醒者の質も高いと聞く。アメリカの覚醒者はステータスの大半が『D』か『E』。『ニューヨークの獣』やそれを倒した老人が例外なだけだ。
対して、日本の覚醒者達のステータスは平均『C』が大半という。
国家の規模と比べて軍事力……いや、そもそも表向き軍隊を持たないこの国が、質・量ともに覚醒者という点では先頭に立ってしまった。
閑話休題。
つまり、我が祖国アメリカは絶望的なまでに覚醒者が足りていない。
「日本を試験場として民間にダンジョンを任せた場合のテストをする。更に、その中から有能な冒険者をうちでスカウト。都合のいいシステムさ」
タバコに火をつけようとした先輩を睨む。すると彼は『時代は変わったねぇ』と笑いながら素直にしまってくれた。
この国は喫煙者というだけで目立つのだ。勘弁してほしい。
「違和感があります。自分は何度かあの男と会っていますが、あんな顔をする器量はなかった」
「あんな顔って、どんな顔さ」
ふざけた様に返す先輩に、小さく息をのむ。
あの男の。有川琉璃雄の顔を思い出す。
「『人を食った様な顔』、ですかね」
「この国の諺か。彼がこちらを甘く見ているとでも?」
違う。そう言いたいんじゃない。
だが、これを口にしてもいいのだろうか。星条旗に忠誠を誓った者として、仮にも同盟国のトップをこう評しいいのか。
いいや、違う。言霊とやらではないが、口に出して本当にそうなってしまう恐怖心が、舌を重くしている。
――文字通りの意味で、『人を食った様な顔』。そう、思えてしまったのだ。
脳裏に、あの笑顔がこびりつく。無意識に、アクセルを踏む足に力が籠った。
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ステータスのランク
Eランク:普通。語る事がないぐらい普通。
Dランク:常人の限界点。世界記録級のアスリート。
Cランク:熊とか馬とかの領域。人外。
Bランク:小型重機や軽自動車の領域。
Aランク:大型重機にも引けを取らない。
※『+』表記は『そのランク帯で頭一つ抜き出ている』感じです。
平均Cランクの覚醒者一例。
筋力:C 耐久:C 敏捷:C 魔力:C 抵抗:C
熊なみのパワーとタフネス。競走馬なみの足の速さに、猿以上の身軽さ。二言三言の詠唱で手榴弾クラスの魔法を撃ってくる。
当然知能や知識は人並みだし、人間社会にも溶け込める。だって人だから。
なお、『ニューヨークの獣』さん(もう出番がない人)のステータス
マイケル・ブラウン 種族:獣人――狼・覚醒者
筋力:A 耐久:B 敏捷:A+ 魔力:D 抵抗:C+
異能
・自己治癒促進
・痛覚鈍化
警察
「どうしろってんだこんなん」




