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凡人高校生、バケツヘルムでダンジョンへ  作者: たろっぺ
第四章 未来のために
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第七十話 模擬戦

第七十話 模擬戦


サイド アルトゥール・サントス



『では、戦闘開始前に模擬戦のルールを再確認します』


 聞こえてきたアナウンスに、意識が現実へと引き戻された。


『大川さんとサントスさんのペイントブレードは相手の胴体、あるいは頭部に当てれば一撃で死亡判定。手足の場合は二度同じ部位に当たった場合、死亡判定です』


「わかりました」


「は、い……」


 どうにか言葉を捻りだす。


 落ち着け、これは模擬戦だ。死ぬような事はない。四方をコンクリートの壁に囲まれ天井だけがぽっかりと空き青空が見える演習場。そう、『演習場』なのだ。


 ヘルムの下で大きく深呼吸をしてから、手に持ったペイントブレードを握り直す。見た目こそスポーツチャンバラの剣を赤いペンキで塗りたくったみたいだが、芯に木材が仕込まれており振った風圧でへし折れる事はない。


 だが、なんとも頼りない武器だ。だからこそ、安心できる。いかにアレ……いいや、『彼』でもこれでこちらを殺す事はできない。


『ジュリアさん、パウルさん、エミリアさんのペイント弾は体のどこかに五発命中すれば死亡判定です。よろしいでしょうか』


「問題ない」


「……ええ、構わないわ」


「……はい」


 どうやらジュリア達も持ち直したらしい。エミリアだけがいつも通りだが、そう言えばあいつは彼の姿を視ていなかったな。


 それはある意味幸運だ。変に気負わずに済む。


『皆、冷静にいこう。大丈夫、死にはしない』


 振り返らず、英語で仲間たちに伝える。短くハッキリとした返事を聞きながら、視線は眼前の対戦相手からそらさない。


 正直、勝つ事はできないだろう。


 ここで勝利し自分達の有用性を確かなものにする予定だったが、彼が相手なら無様な戦いをしないだけでも十分すぎる。矢島は変人だが、視る目は確かな男だ。勝ち負けだけで評価を下す人間ではない。


 胸を借りる、だったか。日本の言葉にそんなのがあった気がする。


 前向きに考えれば、自分達があの時からどれだけ強くなったかを確かめるいい機会だ。全力で、いく!


『では、カウントを開始します。十、九、八』


 自分とパウルが前衛となり、ジュリアとエミリアが後衛で構える。


 自分以外の三人の武装は、模擬戦用に作られたガスガンだ。ジュリアはスナイパーライフル。パウルは大盾とサブマシンガン。エミリアは軽機関銃。


 いかに覚醒者と言えど、銃弾よりも速くは動けない。ペイント弾でも、その初速は時速300キロを超える。


 十分に勝機はあるはずだ。


『三、二、一、ゼロ。模擬戦開始』


 最初に動いたのは、ジュリアだった。


 かなりの早撃ちだが、彼我の距離は二十メートルほど。彼女ならまず外さない。


 事実、弾はオオカワの頭めがけて飛んでいった。だが、首を傾けるだけで避けられる。


 その避け方に顔が引きつるが、まだこちらの攻撃は終わっていない。自分とパウロの間から、エミリアが軽機関銃を撃ち放った。


 全弾吐き切るつもりで放たれた弾丸に、流石にオオカワも回避に専念するようだ。大きく弧を描くように、放たれるペイント弾を避け続けている。


 その速度は本来なら目で追う事も不可能だが――今は違う。


――ピッ。


 電子音と共に、カメラの情報をAIが教えてくれる。彼の位置も移動先も、丸裸だ。


 矢島が口癖の様に毎日叫んでいる『バケモノをケモノに』という言葉。その成果の一端が、こうして現れていた。


 機関銃が弾切れを起こした直後、オオカワが猛スピードで直進してくる。それを迎え撃つために、自分とパウルが前に出た。


 ジュリアが放った弾を横に軽くよけ、減速せずに突っ込んできた彼にパウルが立ちはだかる。


「ぬうううううううう……!」


 両者の盾が衝突。車の衝突事故の様な轟音が響いた。


 パウル自身の体重は百キロ以上。そしてこの『金剛』は七十キロを超える。それほどの重量でありながら、彼の足はずりずりと押し込まれていた。


 各関節が異音を放ち、モーターはけたたましい唸り声をあげる。あの硬直は二秒ともつまい。


 だが、動きは止められた!


「っ……!」


 オオカワの左手側から、剣を手に斬りかかる。今ならあの頭に……!


「なっ」


『パウルさん、死亡判定です』


 だが、自分の剣はパウルの背に直撃した。


 直前にオオカワが盾をひき、バランスを崩したパウルが剣の進路上に出て来てしまったのだ。


 ありえない!『全力で』押し合っていたのなら、こうも素早く身を引くなどできないはずだ!まさか、あれだけの突進をしながら、加減を――!?


 こちらの驚愕をよそに、突然オオカワが盾を放り投げた。


「きゃっ!?」


 聞こえてきたジュリアの悲鳴。視界の端で彼が投げた盾が彼女の足元に衝突したのが見えた。


 狙撃体勢を崩された彼女に、オオカワが迫る。速い、追いつけない!


「任せて」


 だが、仲間はもう一人いる。


 リロードを終えたエミリアが斜めの位置取りで機関銃をオオカワに向けたのだ。


 彼の背を追いかけようとしていたが、巻き込まれまいと足を止めようとして――その手元を確認しすぐに走り出した。


「避けろ、エミリア!」


「え、なっ」


『エミリアさん、死亡判定です』


 連続して響く乾いた音。それはオオカワが持っている『サブマシンガン』から吐き出されたものだった。


 いつのまにパウロの銃を……いいや今はジュリアを!


 だが、自分がたどり着く頃には彼女の頭に赤い線がひかれ、無慈悲にもアナウンスが死亡判定を告げてくる。


『ジュリアさん、死亡判定です』


「そんな……」


 何が起きたのかわからないという彼女を背に、オオカワがこちらを振り返る。


 なんだこれは……どうなっている。


 戦闘速度が違い過ぎる。行動も思考もついていかない。あまりにも素早すぎる動きに、判断に、本当に同じ時間を生きている生物なのかという疑問を抱く。


 勝てる勝てないとか、自分達の価値を証明するとかの問題ではない。そもそも、勝負の土台にすら立てていない。


 足元から、自分達の『今まで』が崩れていくような感覚を覚えた。


「お、おおおお!」


 それはもう、ただの自棄だった。


 真正面から剣を手に斬りかかる。もうこちらに勝機はない。相手の反応速度を上回れる武器を持ったメンバーは全員倒され、自分の速度では奴を捉えきれない。


 だが、だがせめて一撃だけでも!手足の一つもとらねば、俺達は!!


 愚直に突進するこちらに、彼がとった行動は。


「なっ」


 後ろに、跳躍した。


 そして放たれるサブマシンガン。瞬く間に自分の全身が赤く染まり、外れた弾が足元や背後を汚す。


『サントスさん、死亡判定です。模擬戦は終了。勝者は大川さんです』


「お疲れ様でした。ありがとうございました」


 汚れたモニターの端。微かに無事な部分で、オオカワがお辞儀をするのが見える。その姿は当然ながら一切の汚れがなく、それどころか疲労の色すら見えない。


 ああ……自分達は、負けたのか。何も出来ず、何もさせてもらえず。


「お疲れ、様でした」


 そう口にするのが、やっとだった。



*  *   *



サイド 山崎二曹



 大川とテスターたちがそれぞれ控室に戻らせた後、先の戦いを録画したモニターを前に学者たちが静まり返っていた。


 気持ちは、わかる。自分も自衛隊内での覚醒者の戦闘能力をみるテストの際に、同じような気分を味わった。


 練り上げた技術が無意味なものだと知らしめられる虚無感。こんなものにどうやっても勝てないという絶望感。ならば自分の価値とは何かと疑問を抱く自己嫌悪。


 理不尽に、一方的に。正しく『おとぎ話の英雄』が、覚醒者という存在なのだ。


「ふむふむ。なるほどなるほど」


 ただし、ここに周囲とはまったく異なる反応をする男が一人。


「一回の衝突で重装型のパウロ君の機体が中破している。しかも、京太朗君はこちらのオーダー通り手加減してくれた状態で。となれば、やはり近接戦は最初から度外視した方がいいかな?だが最低限近距離でも戦えないと装着者の生存率に関わるね。そこの所どう思う、山崎君」


「はっ。自分も同じ意見です」


「だよねー。ここは後で本人たちにレポートを書いてもらって、それから装甲の軽量化と遠距離戦の事を……あー、けどダンジョンってあまり開けた場所がないらしいしなぁ。いっそサブアームで」


「あの、矢島部長……」


「うん?どうしたんだい?」


 ぶつぶつと画面を見ながら呟き、口元に気色の悪い笑みさえ浮かべている矢島部長に研究員が恐る恐る声をかける。


「ぶ、部長はこの結果をどうとも思わないんですか?あんな、あんなの……」


「なぁにを言っているんだね君は。悔しいに決まっているだろう?最初から『勝てない』と知っていたとしてもね」


「それは……」


「ちゃんと私は言ったはずだよ?今の『金剛』では装着者がハリウッド映画に出てくるヒーローでも上位の覚醒者には万に一つも勝てないと」


 もちろん、『親愛なる隣人』とかが出てくるシリーズは除いてね。と、彼は付け加えて肩をすくめてみせた。


「これで完成なわけがない。アレは試作機だ。ケモノ狩りの今を彼に知ってもらいたかったが、完成品を出せるとは言っていないしね」


「ですが、まさかここまで一方的に……前回、『Cランク』覚醒者相手の時は」


「ランクが一つ違えば大人と子供さ。それにあの時は相手が碌に実戦経験のない、それも事前に装着者が手の内を知っている状態だっただろう?あんなのは当たり前さ」


 矢島部長が眼鏡の位置を直し、笑みを深める。


「ダンジョンの間引き作業では対象のモンスターの手の内を知っている場合が多い。だがダンジョンの氾濫では、場合によっては未知の敵と遭遇する場合がある。大抵そういうのほど強力な相手のものさ。なんせ今回来てもらった彼は、そういう戦いばかりをしているからね」


 ……確かに。


 大川京太朗。十五歳。今年の四月から冒険者活動を開始。四度のダンジョン氾濫に巻き込まれ、うち二つは『Bランクダンジョン』。ミノタウロス、ファイアードレイクと戦闘。それを討伐。不思議な事に彼の目撃情報は少ないのに、彼に助けられた人間はあまりにも多い。


 正直言って、資料に書かれている内容と実際顔を合わせた感想は真逆のものだった。


 どんな『良くも悪くも』英雄然とした人間か。あるいは捻くれてしまった魔王かと思えば……これまた、『良くも悪くも普通の少年』だったのだから。


 しかしその戦う姿は、あまりにも実戦慣れし過ぎている。太刀筋や足運び。銃の撃ち方は素人に毛が生えた程度だった。だが、立ち回りが違う。


 自分より速い銃撃を回避に専念する事でしのぎ、弾切れを狙って一息に距離を詰める。そして力の押し付け合いに持ち込むと見せかけて敵の同士討ちを誘発し、盾を投げる事で狙撃の牽制と注意を逸らす。


 その間に敵から銃を奪いスナイパーに接近。機関銃持ちが隙を見せた所に牽制。たぶん倒せたのは運だろうが、少しの間黙らせれば十分。機関銃持ちを止めている間にスナイパーを近接戦で切り伏せ、機関銃持ちもその後にあの距離なら簡単に仕留められるだろう。


 そして最後。普通に斬り合っても勝てただろうに、万が一を想定して敵の射程距離外からの攻撃に徹した。


 はっきり言おう。これらは全て、素人でも考えつく浅知恵だ。『後から見るなら』穴だらけの行動ばかり。だが、それを実際に戦闘中できる素人など、そうはいない。状況と敵の動きで、いくら事前に考えた動きも取れなくなってしまう。ほとんどアドリブだ。


 彼が咄嗟の判断でそれだけの事が出来る、天性の武人とは思えない。経験からくるある種の慣れだ。銃そのものは知らずとも、戦いそのものに慣れ親しんでいる。


 ……悔しいな。


 あんな普通の少年が、『戦士』としての力をつけてしまった。そうさせたのは、自分達大人の不手際だ。何よりも、戦士であるべき己の不甲斐なさにこそ腹が立つ。


「さあ諸君!気落ちしている時間はないぞ!すぐに!早く!金剛を実戦で使える物にブラッシュアップするんだ!京太朗君のおかげで問題点が多くわかった。まずはそれの整理!」


「は、はい!」


 慌てて再起動する研究員達を前に、矢島部長はスキップでもしそうな足取りで退室していく。


 それについて行けば、彼がメモ帳に次々とアイデアを書き込んでいるのが見えた。


 この人は自分達にとって……『戦う覚悟をしたのに、戦う力のない者達』にとっての希望なのだ。


 武器をくれ。防具をくれ。戦う為の体をくれ。何も出来ず、覚醒者となった仲間たちが危険なダンジョンに突撃していくのも。民間人が命を懸ける姿を見るのももうたくさんだ。


 この人の身を護る事が、自分の仕事である。だがそれ以上に……自分の様な自衛隊員にとって、命を捨ててでも守る価値がある。


 防衛大臣を始め一部の人間しか矢島部長の有用性を認めていない。あるいは、邪魔者とさえ考えている。


 前の様な事にはさせない。自分だけが倒れ、この人を危険に晒すなど……。


「ぬっふっふ。これで更に人類の英知は深まる……!やはり闘争こそが人の歴史を変えるのだ。ケモノ狩りの力でもって、また人は文化の針を進める……!私の作った物が人類を人類足らしめるのだ……!」


 ……それはそうと、自衛隊員としてこいつがやらかしたら後ろから蹴ろう。


 この日本に、いいや世界にブレーキを踏まない科学者が必要なのは理解しているが、ブレーキが壊れていてもいいのとは別である。


「矢島部長」


「なんだい山崎君」


「犯罪者にはならないでくださいね」


「突然なにぃ!?」




*  *    *



サイド 大川 京太朗



 鉄砲撃つの気持ちよかったなぁ……。


 依頼にあった模擬戦を終え、ほくほく顔で借り受けたパソコンで報告書とやらを書いていく。


 ぶっちゃけこういうの書くの初めてだな。なんか新鮮である。


 四苦八苦しながらこれでいいのかと例文というか、形式文とかと見比べ、書き方を教えてくれた職員さんに提出した頃。


 矢島さんが山崎さんを連れて部屋に入って来た。


「京太朗君!!今日はありがとう、おかげでいいぃデータが取れたよ!!」


「恐縮です」


 喜色満面とでも言えばいいのか、両手を広げて笑う彼に小さく頭をさげる。


「ただ、その……途中相手の銃を勝手に使ってしまったんですが、大丈夫でしょうか……」


 報告書を書いている途中でそんな不安が頭をよぎったのだ。


 エミリアさんへの礼儀として全力は出せないにしても、本気で勝ちにいった。だがその際につい相手の武器を奪って使ってしまったのだが……。


 音からして火薬ではなくガスガンだと思う。だが、かなりスピードのあるやつだったから十八歳以上じゃないと使えない物だったかもしれない。ついでに弾もBB弾ではなくペイント弾だったし。


 そう不安に思っていると、矢島さんが大きく肩をすくめた。


「そんな事かね。安心したまえ、その辺の事はちゃんと顧問弁護士に相談して問題ない様にしてある」


「そうなんですか?というか顧問弁護士とかいるんですね……」


「勿論だとも!この魔導装備研究部は設立当初から『憲法違反だ』とか『非科学的な研究は税金の無駄』だの批判の的にされたあげく裁判沙汰になったのも一度や二度ではないからね!」


「自信満々に言っていいんですか、それ……」


「はっはっは!今では裁判官とも顔なじみさ!」


 報告書を見てくれている職員さんや山崎さんが凄い微妙な顔していますよ、矢島さん。


 聞かなかった事にしよう……なんかあったら『ぼくみせいねんだからわかりません!』で通そう、そうしよう。


「なんにせよ、今日は本当にありがとう京太朗君。金剛の改善点を洗い出そうにも、ちょうどいい相手がいなくてね。自衛隊の上位覚醒者は中々手すきの者がいないし」


「あはは……やっぱり自衛隊の覚醒者の人達って大変なんですね」


「そりゃあもう!『神代回帰』直後は二千人いた自衛隊所属の覚醒者も四百人以上が民間や海外に流れてしまったし、国内のダン――」


「矢島部長」


「おっと」


 山崎さんがじろりと睨みつけると、矢島さんがそっと目を逸らす。


「あー、うん。京太朗君、突然難聴になっていたりしない?」


「すみません十秒前から今日の晩御飯について考えていた為、お話を聞いていませんでした」


「そうかそうか!後でお土産に自衛隊印のレトルトカレーをあげよう!」


「ありがとうございます」


 聞かなかった事にしよう。パートツー……もしやこの人、口が滅茶苦茶軽い?


 長く付き合っていくには勘弁な特徴だが、今は好都合かもしれない。


「そう言えば、あの金剛ってあとどれぐらいで配備されるんですか?」


「うーん……残念だが、まだまだ遠いねぇ。これは言ってもいい事だから喋っちゃうけど、実はあれ、物凄い欠陥を抱えているんだ」


「欠陥、ですか?」


「そう。なんと戦闘に耐えうる稼働時間がね……およそ五分しかないんだ」


「あぁ……」


 それは……実戦投入できんわ。


「燃料もそうなんだが、パーツ……特に関節部の損耗が激しくてね。燃料の方はさっきも言った通り五分ほどで切れてしまうし、部品の交換も十回も戦闘をしたら絶対にやらないとダメかも……」


「それは、その……頑張ってください」


「うん、頑張る……魔力を帯びた霊薬とか、その辺がネックでねぇ……」


 二人して遠い目をする。


 ただでさえ補給の難しいダンジョン。燃料や弾薬はアイテム袋にでも入れて行くとしても、部品の交換や燃料補給の最中にモンスターから攻撃されたら大惨事だ。


 ダンジョンは出入り口の関係上三人から五人程度しか纏まって行動できないし、そんな少人数で補給中の味方をカバーしながらっていうのは……。


「部品と言えば、やっぱりそういうのも自前で作っているんですか?それとも外注で?」


「おや、随分グイグイくるじゃないか京太朗君。そんなに興味を持ってくれたのかね」


「そりゃあもう!これでもロボットアニメとか好きですからね。人が乗るタイプのも良いですが、ああいうパワードスーツもかなり好きです。特に特撮系のはもう本当に」


 山崎さんの視線が鋭くなっている気がするが、嘘は言っていない。


 元々ロボットもののアニメやゲームは好きだ。最近はやっていないが、プラモを買い漁っていた時期もあった。パワードスーツを着て戦うニチアサの番組も昔は見ていたし、ネットでそういうのの二次創作を読む事は今もある。


 ただ、その趣味が今回『いい方便』にもなっているだけで。


「そうかねそうかね!私も実は人型ロボットを作る為にこの職についた口でね!」


「わかります……こういうカスタマイズした機体を作って乗りたいって、考えますよね……」


「勿論だとも!ただまあ、今は難しいがね!」


「ですよねー。だからこそ金剛みたいなパワードスーツ、滅茶苦茶ロマンがあって好きですよ」


「うんうん!わかってくれるか!まあ、設計図を描いたりはうちでしているが、パーツの発注はよそに出しているね。『桜井自動車』という所さ」



―――引き出せた。



 できるだけ表情に出ないまま、会話を続ける。


「桜井自動車って、あの有名な?」


「そうだよ。元々自衛隊とも関り深い所でね。最近はダンジョン関係にも力を入れているらしいから、色々とお願いしているのさ。そこの部長さんもこういう話が好きな人でね!偶に一杯飲みながら人型ロボットについて語り合っているよ」


「へー……」


 なるほど。やはり、この仕事を受けて良かった。


 冒険者専門学校。名前が専門学校なのに学歴としては普通の高校扱いされるそこだが、やはりカリキュラム的に未来の道を狭めざるをおえないだろう。


 だが、こと日本には『学歴』以外にも将来に大きな影響をもつ物がある。


「はー……パワードスーツの製造所とか、きっとロマンの塊なんだろうなぁ」


「はっはっは!私も見学させてもらった事があるが、ああやって大きな機械が動くさまはそれだけで胸が躍ったよ。おっと、流石に工場の中までは見せられないからね?」


「わかっていますって」


 笑いながら、また少し鋭くなった山崎さんの視線に内心でビビる。


 どうか警戒しないでほしい。どっかの企業や外国に金剛の情報を売ったりはしないから。


 僕が欲しいのは、別のもの。


「けど桜井自動車ですか。さっきダンジョン関係にも力を入れ始めたっておしゃっていましたが、どんな事を?」



 学歴に並ぶ将来に大きく関わるもの。それは――『職歴』。



 大川京太朗、高校一年生。実は冒険者以外にバイトとかの経験はほぼなく、社会人経験と呼べる物は皆無の男。


 申し訳ないが、ちょっとばかし『コネづくり』にご協力ください。防衛装備庁魔導装備研究部部長の、矢島さん。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。

少し後に、閑話を一つ投稿させて頂きます。そちらも見て頂ければ幸いです。


Q.自衛隊ってペイント弾持ってたっけ?

A.模擬戦用の武器は基本的に魔導装備研究部の自作です。細かい事は気にしないでいただけると幸いです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] うーむ、「『殺す気できて』とかイキっておいてねぇどんな気持ち? どんな気持ち?」と煽る予定だったモノですら、煽り横断幕を背中に隠して「その、なんだ、どんまい?」と辿々しく慰めるレベル……つ…
[一言] 科学者のブレーキは助手席座ってる人が踏める構造が一番 京太郎君を認識できる山崎さんは優秀なんだね 助けられても認識できない人ばかりなのに
[一言] 他の方から水道橋重工の名が出てますが、近々ではツバメインダストリ製のアーカックスが熱いです! 金剛はロボットライド社のスケルトニクスに装甲着けた方がイメージ近そうかな? ただ、どちらもサイズ…
感想一覧
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