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凡人高校生、バケツヘルムでダンジョンへ  作者: たろっぺ
第四章 未来のために
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第六十七話 思わぬ再会

第六十七話 思わぬ再会


サイド 大川 京太朗



 新しく通う学校も決まり、方々への報告やら何やらも済んだので一息ついた七月の下旬。


 冒険者専門学校に通う事を告げた時の両親や東郷さんの何とも言えない顔に若干の罪悪感を覚えつつ、それはそれとしてダンジョンのお時間である。


 色々あるが、何はともあれ蓄えをしておきたい。レッツ、貯金。お医者さんに復帰OKを貰えたその次の日には冒険者活動を再開した。


 ついでに、『試運転』も。


「おお……」


 思わず感嘆の声が漏れる。


 黒を基調としたフルプレートアーマー。鋭角なそれには白銀の塗装が胸部や兜の一部に施され、どこか機械的な印象を受ける立ち姿。


 至近距離かつ魔眼ゆえに確認できる魔力の流れ。それがこの西洋甲冑が尋常な物ではないと教えてくれる。


 はっきり言おう。



「こういうの好き!」



『恐縮です』


 くぐもった声で返事をするリーンフォース。自室の異界で散々確認し、写真撮影したがそれでもやはりこういうのは凄く良い。


 だがここはダンジョン内。サラマンダーのダンジョンとは言え、警戒は大事だ。


 なにより、今日は『一人足りない』のだから。


「じゃあ、手筈通りに」


「「了解」」


 ごぼごぼとマグマが音をたてる中、リーンフォースを先頭に自分、そして雪音が最後尾に。道路二車線分の幅がありなおかつ壁や天井の遠いダンジョンだが、それでも人が二人剣を振り回すには厳しい。


 リーンフォースはタンク役としてレイラに作られた。装甲も揃った今、その真骨頂を確認させてもらう。


 なお、当の作った人物は家で別の作業中である。相原君に依頼された物を渡した後、冒険者専門学校への編入に向けて色々とやってもらっている。


 なお、相原君が例のゴーレム受領時浮かべた顔と奇声は思い出したくない。イケメンがしちゃいけない顔面になっていた、とだけ言っておこう。


 なにはともあれ、今回はレイラ抜きの探索だ。警戒はいつもより高めるが、編入後ここに来るペースも落ちるだろうから念入りに間引いておきたいので、少し長めに潜る予定である。


 相変わらず異様な熱気に包まれたこのダンジョンは、鎧姿だと正直きつい。だが、一番きついのは雪女である雪音だ。ランク差もありそうそう『事故』は起きないだろうが……。


 そんな事を考えていると、リーンフォースが立ち止まる。よく見れば兜の一部が緑色に小さく発光していた。


『一時方向。魔力反応が二つこちらに接近中。距離、残り十五メートル。推定サラマンダー』


「わかった。雪音」


「はい!」


 新雪の様な白い肌に汗一つ掻かず、雪音がひらりと扇子を動かす。


「『氷牙』!」


 そんな見た目こそいつも通りの彼女だが、やはり魔法の展開速度が少し遅い。作り出された氷の槍が二本、溶岩の中に放たれた。


 通常であれば溶けて終わりのそれだが、しかしそこは両方ともに魔力で編まれた物同士。氷の槍はその威力を減衰させながらも、溶岩を弾いて赤いしぶきを散らせた。


『カカカカッ………!?』


 火打ち石でもぶつけた様な鳴き声をあげながら、氷の槍に追い立てられて溶岩が固まってできた黒い地面に這い出る二体のサラマンダー。片方は右後ろ脚が欠損しているのが見て取れる。


『目標を確認。戦闘を開始します』


 それに対し、ガシャリと踏み込むリーンフォース。猛牛の様な直進に火蜥蜴どももすぐには反応できず、手負いの方の上顎を左腕で掴まれた。


 力任せに振り上げられ、そして鈍器の様に振り下ろされたサラマンダー。当然、その先にはもう一体がいる。


 だが、間一髪で直撃は避けられた。尻尾をかすめながら下にいた個体は回避し、手負いの方のサラマンダーは腰から下を地面に叩きつけられ鈍い音を発する。


 首の骨が折れたのか痙攣して倒れた仲間を横目に、無事な個体がリーンフォース目掛けて跳びかかった。ズラリとならんだ牙が光る。


 尻尾を地面に打ち付ける事でその体躯からは想像もつかない速度を出しながら、牙を彼女に突き立てようとしていた。


 あんな動きもするのかと思いながら見ていれば、リーンフォースは左手を盾の様に構え防御。更にはカウンターとして剥き出しの腹に右手一本で持った剣を突き立てていた。


 あっさりと貫通した刃。左腕に噛みつき前足でひっかいてくるサラマンダーを気にした様子もなく、彼女は剣を捻り斜め上に振り抜く。


 肉も鱗も引き裂かれたサラマンダーから力が抜けていき、ぐったりとして地面に落下。そのまま粒子へと変わっていった。


 痙攣するばかりのもう一体に剣を突き立てて止めをさし、リーンフォースがこちらに振り返る。


『戦闘、終了しました」


「うん、お疲れ。どこか怪我は?」


『自己診断……損傷は皆無です。問題ありません』


「そっか」


 そう言いつつ、噛みつかれたはずの左腕を見る。


 確かにサラマンダーの顎で挟まれたはずのそこには、噛み跡どころかひっかき傷すらない。それに内心で安堵する。リーンフォースが怪我していない事はもちろん、装甲の性能は満足のいくもののようだ。高い金とかなりの労力がかかっているので、言い方は悪いがサラマンダー如きに傷を負わされる様では困る。


 エンプティナイトの鎧をベースに相原君が仕上げたこの甲冑。更にはレイラが魔法で強化を施したのだ。その表面には不可視の薄い膜が存在しており、生半可な攻撃では装甲に届かない。


 ついでに言えば、コアがある心臓部と制御機能がある頭部にはそれぞれ『白銀の林檎』を使った塗料で正面装甲をコーティング。レイラの手によりそこの強度は格段に上昇している……らしい。


 まあぶっちゃけ専門外なのでよくわからんが。レイラが言うのだからそうなのだろう。


「雪音の方も、大丈夫?」


「はい、問題ありません旦那様」


 ニッコリとほほ笑んでくれる彼女に頷いて返し、探索を再開。黒い道をまた進んでいく。


 でこぼことした道が坂道にさしかかった頃、リーンフォースが敵を察知。自然とツヴァイヘンダーを握る手に力が籠められる。


 つい条件反射で前に出そうになるが、自重した。今回はリーンフォースの性能確認がメイン。でしゃばるのはノーだ。今日の自分はフォロー役である。


 左右から勢いよく跳び出すサラマンダー。右が二体左に一体。右の奴らのうち、僕に近い方の個体にリーンフォースが剣を突き出した。


 勢いそのまま空中で標本の様に貫かれたサラマンダー。残り二体のうち、左から出てきた方が着地するなりこちらに向かってくる。


 更に右の一体が火球をリーンフォースに発射。それをレジストしながら、彼女は剣に刺さったままの個体を蹴り飛ばした。打ち出す先には、今しがた炎を吐き出した敵。


 飛んできた仲間を回避するそいつをよそに、リーンフォースが脇を抜けようとした個体を上から踏みつける。


 かなり力が籠められていたのか、大きな音と共にサラマンダーの頭が地面にめり込んだ。


 それを見たからか、残り一体は反転して逃げ出そうとする。


「『氷牢』」


 だが、今更それを許すはずもない。雪音が出した六つの氷柱に囲まれ、サラマンダーの動きが鈍る。


『ガ、ガガ……』


 這うようにその個体が移動を続けようとするが、凍り付きながらのそれは牛の歩みだ。


 踏み潰したサラマンダーに止めをさした後、リーンフォースが逃げようとする個体の尻尾を掴んで引き戻し、踏みつけて二度、三度と逆手に持った剣を突き立て終わらせた。


 やはりというか、『Dランク』ならば圧倒的か。本当に自分はやる事がないな。


「二人ともお疲れ様」


『いいえ。燃料、及び機能に大きな減衰はありません』


「あ、うん」


 そう言うこっちゃないのだが、まあいいか。


「ワタクシもまだまだ疲れておりません。旦那様こそ、水分補給をお忘れなきよう」


「ありがとう、雪音」


「いえ。妻なのですから、もっと頼ってくださいませ」


 ニコニコと氷のコップと氷水を出してくれる雪音。可憐だ。


 兜を外して水を受け取ると、その際に耳元で囁かれる。


「ですが……もしも労ってくださるのなら、帰った後『可愛がって』頂けたら嬉しゅうございます」


 見た目の年齢は僕とそう変わらないのに、一瞬だけ妖艶に微笑んで流し目を送って来た雪音。


 それにドキリとしながら、一気に喉へ流し込んだ氷水で頭を冷やそうとする。ここはダンジョン。ここはダンジョン……!


「ごほぇっ!?」


「旦那様ぁ!?」


 むせた。



*  *   *



 途中ちょっとだけアクシデントはあったものの、探索は無事に終了。午前二時間、午後三時間の計五時間でサラマンダーの魔石が二つ回収できたのは、やや運がいい。


 片方は自分達様にするとして、もう片方は売ってしまおう。今回マジで何もしていないので若干の罪悪感はあるが、その辺を決めるのは自分の役目だし。


 雪音から『ご褒美』をねだられているが……ぶっちゃけ役得である。


 昨日レイラとリーンフォースも交えて四人でいたした時とか、三人に『マイクロビキニバニー』というものを着てもらったが……いやぁ、よかった。本当に。今日はどういう感じがいいか……。


「ぐふっ」


 おっといけない。変な声が出た。まあ他に人はいなさそうなのでセーフである。


 逸る気持ちが行動に出ていたのか、少し雑に着替えを済ませてロッカールームを出た。


 そこで、ストアの中でキョロキョロと周囲を見回す人影に眉をひそめる。なんだあの怪しい人。


「ふぅ……ふぅ……待ちきれなくてこっちに来てしまった。いったいどこだ……どこなんだ……!」


 やや肥満気味な体つきをした、四十前後って年齢の小柄な男性。白衣を着て眼鏡を光らせながら、ダラダラと汗を流しつつさかんに首と目を動かしている。ハッキリ言おう、どう見てもやべー人だ。


 だが、そんな不審者の隣。何故か制服姿の自衛官がいるのだから思わず首を傾げてしまった。


 いったい何なんだと眺めていると、不意に視線があう。不審なおっさんの目が、こちらに固定された気がした。


 見過ぎていたかと気まずい思いをしながら目線を外し早足で去ろうとした、その瞬間。


「い、いたあああああああああああ!?」


「えっ」


 ストア中に響いたんじゃないかと言う程の大音量。受付の人やコンビニの店員さんがギョッとした顔をするのもお構いなしに、白衣の男性がどたどたとこっちに駆けてくる。


 え、僕?


 頭に大量のクエッションマークを浮かべながら、どうしたものかと慌てるが何も浮かばない。これがただの不審なおっさんなら全力で逃げるが、追従する様に自衛官の人までやってきていた。どういう事?


 まさか冒険者専門学校がらみ?あそこ、自衛隊も関わっているらしいし。


 そんな事を考えている間に目の前まで来た男性が、はあはあと息を荒げながら膝に手をついて呼吸を整えだした。


「え、えっと……僕に何かごようでしょうか……」


「はぁ……はぁぁ……ちょ、まっ……ひぃ……はぁ……」


 大丈夫かこの人……。


 自衛官の人に背中をさすられながら今にも吐きそうな男性にちょっと引くが、近くで見たその顔に妙な既視感を覚えた。


 はて、どこかで会った事があるような、やっぱ無いような……?


「み、見つけたよ、君ぃぃ……ずっと探していたんだよぉ……」


「は、はぁ」


 なんかキモイなこの人。


 更に半歩後退するが、一歩詰められた。どうしよう、今からでもダッシュで逃げたい。


「会いたかったぁ!会いたかったぁ!!会いたかったんだよ、君にぃぃぃいい!!!」


「え、ぇぇ……」


 ガシリと肩を掴まれ、咄嗟に助けを求める様に自衛官の方へと視線を向ける。


 おい目ぇそらすな。なんとかしてください貴方の連れでしょたぶん。


「大川京太朗君、だね!?」


「は、はい……」


 じりじりと後退するも、それ以上にぐいぐいくる白衣のおっさん。鼻息がすげぇ。


 ……なんだか身の危険を感じる。いざとなれば殴ろう。ストア内には防犯カメラがあったはずだ。裁判になっても正当防衛でゴリ押せると信じたい。


 それにして、なんで突然鼻息荒くおっさんに詰め寄られなければならないのか。せめてこれが美人な女医さんなら良かったのに。よりにもよってこんな微妙にマッドぽいおっさんに……ん?


 医者っぽいおっさん?


「……もしかして、スケルトンに襲われていた?」


「そうだとも!!私の名は矢島孝太郎、バケモノをケモノに変える男の名さ!」


 微妙に聞き覚えがある言葉に、やっぱりかと内心で頷いた。


 だが同時に謎が深まる。なんであの時のお医者さんが僕に会いに来たんだ?礼を言いに、という雰囲気ではない。そもそもそれなら制服自衛官が同行するのは変だ。


「どうか君に、依頼をさせてほしい!」


「あの、とりあえず離れてもらえると」


「絶対に後悔はさせない!少しだけ、少しだけでいいんだ!ほんのちょびっとでいいから!!」


 待って待って恐い恐い恐い!?


 更に近づいてくるおっさんに、顔を引きつらせながら見えない位置で拳を握る。


 やるしか……ないのか!グッバイ平穏な生活!こんにちは警察検察の皆さん!正当防衛って事でお願いします!


「矢島さん」


「うん?なんだね山崎君」


「それ以上は殴ってでも止めます」


「なんでぇ!?」


 最終警告の後にアッパーカットを決めようかと思った時、自衛官の人がおっさんの襟首を掴んで引きはがす。ありがたいけどもっと早くそうしてほしかった。


 とにかく危機は去った……ただいま平穏な日常。よろしく平和な日々……いや現段階でそこまで平穏とは言えなかったわ。


「何故邪魔をするんだい山崎君。これは人類の未来に関わる重要な話なんだよ?」


「その前に刑務所に入る未来が来ますよ、矢島部長」


「え、それは嫌だな。生きていける気がしない」


「ならご自重下さい」


「むぅ、致し方ない」


 矢島『部長』?大きな病院でそういう役職が……って事ではなさそうだ。


 もしかして医者ではない?じゃあなんで白衣?


「では大川京太朗君。あ、名前呼びしていいかな?」


「は、はぁ。いいですけど」


「では京太朗君。私は防衛装備庁の『魔導装備研究部』で部長を務めている。その上で、君に依頼したい事があるんだ。なに、悪い様にはしないしちゃんと報酬も払うとも」


 防衛装備庁……ってなんぞ。防衛省とかの事か?というか『魔導装備研究部』ってなんだよ。いやなんとなく意味は察するけども。


 そんなこちらの困惑をよそに、彼は厚ぼったい眼鏡を光に反射させながらニヤリと笑った。



「世界を変える手伝いをしてみる気はないか?ケモノ狩りの力について、ね」



 ……なんか意味深に言っているけど、野良猫みたいに首根っこ掴まれたままなんだよなぁ。


 前にテレビで見た肥満体系の猫が飼い主に雑に運ばれている映像を思い出しながら、不敵に笑うおっさんとそれをつまみあげているムキムキなおっさんを見て、自分は遠い目をする事しかできなかった。



 助けて、東郷さん……カモン、頼れる大人……。






読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.相原にゴーレム渡すシーン端折り過ぎじゃない?

A.詳しく書こうとするとR18G表記が必要かなと思ってこうなりました。


Q.前話、京太朗は親孝行できていないというか親不孝者じゃない?

A.京太朗

「弁明のしようもありません。三股をするような息子で、ごめんなさい……!」

 ご両親

「違う、そうじゃない」


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― 新着の感想 ―
[一言] 世界がだんだんとイヤな方向に進みつつありますね。 京太朗は自分にできることに精一杯取り組んでいるけど所詮はちっけぽな高校生(高校なくなったけど)に過ぎないから、世界の趨勢にまるで影響を与える…
[良い点] まさかもう紅蓮に搭載する武装が完成したのか!
[気になる点] また主人公のお国への滅私奉公ですか? リーンフォースだとか、林檎だとか、自分のためにならない赤の他人のために主人公の労働力とスキルを使わせられる展開は、もうほんと●きた。 公権力への犬…
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