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凡人高校生、バケツヘルムでダンジョンへ  作者: たろっぺ
第四章 未来のために
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第六十五話 冒険者専門学校

第六十五話 冒険者専門学校


サイド 大川 京太朗



「これって、たしか有川大臣が作ったっていう……」


「そうだ。全国に五カ所作られた覚醒者用の学校。そこに興味はないだろうか?」


「はぁ……」


 まあ、確かに覚醒者バレした結果変な事を押し付けられたり迫害される事はない環境だろうけども。


 パンフレットをもう一度見下ろしてから少しだけ胡乱気な視線を向けると、彼は苦笑を浮かべて肩をすくめた。


「うん。警戒する気持ちはわかるよ。だから、この学校の『恐い所』を先に紹介しよう」


「……恐い所、ですか?」


「ああ。その辺りを説明しないなんて騙し討ち、嫌いだからね」


 ……まあ、東郷さんだし聞くだけ聞くか。


 正直裏がありそうというか、怪しい勧誘じみてはいる。だが色々と恩の有る東郷さんだし、信用できる人でもある。話も聞かないというのは失礼だ。


 ……なんかこういう思考って宗教勧誘に嵌る人みたいだな。


「まず。最初にこれが一番重要だから言っておこう。これらの学校の敷地にはダンジョンが入っている。要はストアの代わりに校舎がある感じだね」


「……はぁ?」


 思わず顔が引きつった。正気か?


 そんな自分に東郷さんが『だよねー』と頷いてくる。


「気持ちはわかるよ。こんなもの、生徒達を壁にしているのと同じだからね」


「……えっと。もしかしてですけど、生徒にはそのダンジョンに潜る義務とかが?」


「義務ではないが、推奨はするだろうね。あるいは誘導する様な仕組みを用意するか」


 ですよねー。


「ちなみにですが、ランクは?」


「『Dランク』だそうだ。基本的に不人気なダンジョンが選ばれたようだね」


「なるほど……」


 流石に『Cランク』やそれ以上はぶっこんでこなかったか。それなら大概の覚醒者なら余裕をもって対処できる。


 というか不人気ダンジョンって。無理にでも間引きをさせる気か?


 ペラペラとパンフレットをめくりながら、彼の言葉に耳を傾ける。


「学校から半径『一キロ』は避難区域で人が立ち寄らないし、アクセスも悪い。校内の清掃をはじめとした雑事はゴーレムが行うが、不便な点は多いだろう」


「はぁ……ん?」


 言い間違いだろうか。半径一キロ?二キロではなく?


「あの。半径の所なんですが」


「ああ。それはね、この学校が試験的な物も兼ねているからなんだ。聞いた事があるかな?アメリカで始まった覚醒者にダンジョン周辺で暮らしてもらうって取り組み」


「はい。それにより避難区域の縮小を図るとか」


「それを日本でも始めようって話さ。日本国内での土地の値段は『神代回帰』以降上昇し続けている。その改善の一つ……って所かな」


「まあ、それは納得ですが」


 極端な話。ダンジョン周辺から人が避難しないといけないのは氾濫時の危険度ゆえにである。


 例えば、少し前にあったスケルトンのダンジョンが氾濫した一件。あの時は住民や通りがかりの覚醒者達がすぐに対処したが、非覚醒者は逃げる事しかできなかった。なんなら、初期段階では危険の察知すらできていなかったのを覚えている。


 覚醒者ばかりの場所なら氾濫の第二段階。外にモンスターが出始めた段階で気づけるし、対応も開始できる。ランク次第では即座に間引きを行って拡大を防ぐ事も可能だ。


 だから『Dランク』程度なら覚醒者が学校規模でも集まればどうとでもなるというのは、事実であると思う。


 ただし、なんか肉壁にされている感じがして嫌だが。


「更にこれは、一部の心のない人達が覚醒者の隔離を求めた結果でもある」


「どうせ避難で人がいない土地があるから、一石二鳥とばかりに放り込めと」


「そういう事だね」


 これもまあ、理解はできる。


 非覚醒者からしたら覚醒者は異能で何をしでかすかわからない……本当に、未知の存在である。そんな存在が隣にいてほしくないという所だろう。


 で、覚醒者側も、『自分が何をしても抵抗の手段がない。なんなら司法に頼るという事すらできないかもしれない相手』というのが近くにいるのは……魔がさす可能性がある。


 本来なら悪事など仕出かさない人が、『できるから』という理由で手を染める可能性があるのだ。


 それらを解消する手段として、物理的に距離をとるのは悪い話ではない。


 なんか気にくわないだけで。覚醒者が一方的に配慮しろと?


「ま。単純にまとまった土地をすぐに用意できるのがダンジョン周辺だったという、お金の問題もあったんだがね」


「せ、世知辛いですね」


「国庫も無限とは程遠いから」


 まるで他人事の様に肩をすくめて、東郷さんは仕切り直す様にコーヒーを飲んだ。


「試験的というのは避難区域だけじゃなくってね。カリキュラムの方もさ」


「そう言えば、冒険者専門学校って書いてましたね」


「ああ。だが、そんな名前なのに教える側の『専門家』がいないんだ」


 そりゃ、そうですねとしか言いようがない。


 世にダンジョンが出来て二年と三カ月。冒険者制度が出来てまだ一年ちょっと。


 これで専門家を名乗れるほどの熟練者などうまれるはずがない。そもそも、何をもって専門家とするかの、基準すら出来ているのかという話だ。


「一応。予定されている内容は一般の授業は省くと『素手の格闘技』『武器を用いた格闘技』『閉所での戦闘方法』『罠などの警戒』『遭難時の野営』とかだね。覚醒者同士の模擬戦もあるとか。自衛隊や既存の専門家が集まって、レクチャーをする予定だよ」


「自衛隊や専門家が……」


 それは……ちょっと魅力的である。


 この前自分の技量不足を痛感したばかり。レイラから『ある方法』を提案されているが、手数は多いに越した事はない。


 それに自衛隊式の罠警戒や閉所での移動方法とか、普通に暮らしていたら直々に教えてもらう機会などないものである。それこそ入隊しない限り。


「ただし、当然ながらこれらは『既存』のものだ。覚醒者やダンジョン。モンスターに適した物とは限らない」


「つまり、そういう意味でも『試験的』と」


「そういう事さ。入学した生徒達の様子を見てブラッシュアップをしていく必要がある。逆を言えば、初期の生徒は間違った知識や技能を教えられる可能性があるという事さ」


 少し前に、熊井君が言っていた。既存の武術は覚醒者に『合わない』と。


 重機に匹敵する膂力を想定した武術はないし、メジャーどころは基本的に対人戦を想定したものばかり。


 武術全般において、新たなる形が求められている時代でもある。彼はそう言っていた。


「大人達の肉壁として集められ、正しいかどうかもわからない知識を教えられる隔離された場所。それがこの冒険者専門学校さ」


「なんというか……東郷さん。お勧めする気、ないですよね?」


「まあね。上司から『知り合いの覚醒者で学生がいたら紹介してくれ』と言われたから話しただけだし」


 さらっとそう言って、彼はまたコーヒーを口に含んで唇を湿らせた。


「本音を言おう。こういう学校が必要だと理性ではわかっている。だが、感情が納得していない」


 こちらが持つパンフレットを睨みながら、彼は続けた。


「上司への義理は果たした。それは脇において、別の学校について話をさせてほしい」


「は、はあ」


 一瞬漏れ出た本気の嫌悪感。東郷さんのそれにビビりながら、いつもの笑みに戻った彼が差し出した複数の冊子に視線を向けた。


「あいにくと君の学力を私は知らないものでね。とりあえず今の家から通える物。もしくは近くに学生が住めるアパートのある所を県内だけだがピックアップさせてもらった」


「お、おぉぅ……」


 偶に名前を聞いた事がある。というか中三の時に軽くだけど調べた事のある学校のパンフレットが並んでいる。


「この場で一つ一つ説明していってもいいが、親御さんに相談してからの方がいいね。なんなら、こんな部外者の男を無視して決めても構わない。君が選択すべき事なのだから」


 そこまで言って、彼は細いフレームの眼鏡の奥で瞳に憂いをうかべた。


「でも。絶対に安易な選択はしないでくれ。私は君の人生がより豊かなものになる事を祈っている」


「東郷さん……」


「……なんて。家族でもない中年がこんな事を言っても、気味の悪いだけだね。忘れてくれ」


 彼はそう言って苦笑を浮かべると、『冒険者専門学校』のパンフレットと伝票をひょいっと持っていく。


 鞄とそれらを手に、東郷さんがこちらに微笑んだ。


「改めて、君が無事でよかった。先週の一件。誰がなんと言おうと、京太朗君は多くの命を救ったんだ。ありがとう」


「い、いえ。そんな。僕なんて失敗ばかりで……」


「おいおい。謙遜も過ぎれば嫌われてしまうよ?これは人生の先輩からのアドバイスさ」


「あ、ありがとうございます」


 軽く頭に裏拳をしてから、彼は会計に向かってしまう。その背中にお辞儀をし、並べられたパンフレットに視線を戻した。


 ……どうした、もんかなぁ。


 東郷さんの話を聞いて、これからの自分の『進路』というやつに悩む。


 前に相原君の家で語った様に、僕は無難な道を進むつもりである。すぐに自分の将来を決めるつもりはなく、なんなら大学に入ってから就きたい職を探そうかとさえ、考えているぐらいだ。


 だからこうしてどうしたいかと聞かれると……正直困る。次にこういう選択が必要になるのは、高三だと思っていたからなぁ。


 とりあえず、親と友達にも話を聞くか。こういうのは一人で悩んでも碌な事にはならない。


「どうぞ。東郷さんからです。お代はもう頂いておりますので、ごゆっくり」


「あ、え、どうも……いただきます」


 そして、マスターが持ってきた巨大パフェ。こっちもどうしたものか。けど、なんかもう慣れてきた自分がいる。もしかして東郷さん僕の年齢をマイナス五歳ぐらいで考えていたりしないよね?


 ……とりあえず、食べるか。


 普段使わないのにこの短時間で酷使した脳みそを労う為、スプーンを手にとるのだった。



*  *   *



サイド 東郷 美代吉――本名:西園寺 康夫



「ふぅー……」


 例の喫茶店から暫く離れたパーキングエリア。そこに停めた車の中で、紫煙を吐き出す。


 なんともまあ、本当に嫌な大人になったものだ。



『冒険者専門学校』



 北海道、栃木、静岡、兵庫、熊本。この五県で作られた学校という名の、『箱』。


 本来なら来年四月の開校を目指していたものを、『十二迷宮災害』の被害を鑑みて大幅に前倒しし、今年の夏休み明けの時期からの開始を決定。


 その『箱』に覚醒者の子供達を入れる事は国家として急務である。そうしなくては今後の日本に未来はない。


 土地も仕事も金も人も足りない今。それを解決する手段として冒険者専門学校は必要不可欠だ。ついでに、いわゆる『民意』というものも関わっている。


 だが――これは外道のそれだ。


 若者を肉壁として誘導するそれが、正義と呼べるものか。多種多様なはずの未来を『冒険者』、あるいはそれに関わるものに絞らせる事が、大人のする事か。


 ……よそう。これ以上は口に出すどころか考える権利すら私にはないし、その時間もない。


 自分で選んだ道だ。自分でやると決めた事だ。ならば、迷うな。咎なら受けよう。贖罪もしよう。地獄に落ちる事など、とうに確定している。だが、今ではない。


 京太朗君の性格と、彼の周囲の人間。そして成績を考えれば十中八九『冒険者専門学校』を選ぶ。ああいう匂わせ方をすれば、食いつきもいいだろう。その上で、これまで築いた信頼の損失は最低限に留めたはず。


 ならば今考えるべきは彼ら若者への贖罪の仕方と――あの学校の、不審な点の見直しだ。


 普通に考えて、いくら民衆の本音が『他者を犠牲にしてでも己の幸福と平穏』だとしても、倫理的に『子供でダンジョンを囲う』など多くの反対意見が出るはずだ。当然ながら外国の勢力もここぞとばかりに妨害や引き抜きに動くだろう。


 だが、それが驚くほど少ない。むしろアメリカのCIAは協力する様な動きさえ見せている。マスコミの誘導や他国の介入防止など特に。


 有川大臣が前に爆弾を放り込んだ事で恨まれて、警戒されているはずだ。笑顔で握手しながら裏でナイフを突き立て合うのはこの業界でも政治でも日常茶飯事だが、それにしてもおかしい。


 一応、冒険者専門学校で得られたデータをアメリカに流すという見返りを用意しているから。という理由は調べていたらでてきた。


 このダンジョン黎明期。少しでも『ああしたらこうなった』というデータが欲しいのはどこも同じだ。情報は黄金に勝る。


 特に覚醒者の若者が関わるデータの収集は厄介だ。専用の学校など、下手をすれば学生運動を通り越して内乱レベルの事件が発生しかねない。そのリスクを他国に背負わせられるなら、どこの国だって多少の支援は惜しまないとも。


 だが……何かが引っかかる。工作員とて人だ。完全無欠に理屈だけで動けるだろうか?そういう訓練。そういう人員。そういう仮面。それらは無論あるだろう。


 それでも、有川大臣が投げた情報のせいで仲間を失った者もいるはず。死地に追いやられた者も少なくない。だというのに、その張本人が提案した学校の為にここまでCIAは動くのか?


 これもまた、あいつに向けるのと同じいちゃもんじみた疑惑に過ぎない。要はただの勘だ。公安として働いてきた経験からくる、勘。


 ……もう一度、あの学校の開設に関わった者達を洗ってみるか。


「健康診断、どうなるかなぁ」


 これでも表向きは県庁職員。福利厚生として医者に診てもらう機会があるわけだが。


 今度受ける時は煙草以外にもお言葉を頂きそうだ。睡眠時間を削らないと、二足の草鞋に加えて個人的な調査など不可能である。


 吸い殻をポケットから出した携帯灰皿にねじ込んで、シートに背中を預けながら灰色の天井を見上げる。


「禁煙、するかぁ」


 この案件に片が付くまで、だがね。


 心の中でそう言い聞かせるように呟いて。懐のライターを、軽く撫でた。








読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.冒険者専門学校に通う場合、タイトルは『凡人専門学校生、バケツヘルムでダンジョンへ』に変わるの?

A.本気で悩みましたが、変わりません。

 メタ的な理由としてはゴロが悪いから。作中的には『専門学校』と銘打っているのに専門家がいないしそもそも専門家の定義ができていない関係上、学歴的には普通の学校扱いになるからという事で、どうかお願いします。

 作中世界の未来ならちゃんとした専門学校になるかも?日本が残っていれば。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 覚醒者を便利アイテムとして使い過ぎだね。 暴動や内乱はもっと起こりまくって良いと思う。日本の覚醒者はお行儀が良すぎる。 宗教団体の方は小山氏の私的な目的のための組織でしか無いけど、何だ…
[一言] 覚醒者を隔離した結果覚醒者の居ない街中で氾濫が起きるんですね あとダンジョンに愛されてる京太郎くんをダンジョンの近くに置いておくと頻繁に氾濫するぞぉ 何なら成長もする、来年はC,再来年はB…
[一言] ここまで誘導されて、それでも想像の斜め上な選択肢を選べばすごいんだけど……流されるかなあ。 重要選択肢すぎてハラハラする。
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