第三章 エピローグ 前
第三章エピローグ 前
サイド 大川 京太朗
家のリビングでぼんやりとテレビを見る。
――学校でダンジョンの氾濫が起きるという、B級映画みたいな『事件』から三日。当然ながら高校は休校中である。再開の目途はたっていない。
色々とあり過ぎて、警察の事情聴取やらカウンセラーの先生との対面やらが昨日ようやく落ち着いた。何だかそういうのに慣れてきた自分がいる。
え、レイラとの反省会はどうしたって?雪音とリーンフォースも混ざって三方向からボコボコのボコにされましたが、何か?終盤はぐうの音しか出ませんでした。
けど最終的に三人に慰めックスしてもらったから僕の勝ちです。なんかレイラが『エルダーリッチの杖』で異界拡張して修行場作るとか言っていたけど、現在の僕には関係ない。
頑張れ、未来の僕。
まあ、それは置いておいて。例の私人逮捕についてはなあなあで済むらしい。前科者にならなくてよかったと思う反面、次からはああいうのは止めとこうと反省する事にした。
そもそもああいうのはキャラじゃないのである。他人の死に本気で悔やんでー、それで自分の人生まで棒に振る様なー、義憤?的なー。もうマジ無理。次からは初手お巡りさんに通報してターンエンド確定、みたいな。
ひと昔前のギャルみたいな口調でそんな事を考えながら、ソファーに体を預けた。
……当然ながら、アレ以降の情報は一般人である僕らには入ってきていない。あのゲートを隠したおっさんがどうなったのか。指紋とかの証拠はちゃんと出たのか。まるっきりだ。相原君も流石にそこまではわからないらしい。
兎にも角にも、生徒は全員自宅待機という事になっている。うちの場合、そういうの関係なく両親とも『絶対に家にいなさい』ときつく言ってきたが。
僕が出歩くとダンジョンが溢れると思っていないよな、あの二人。なんかもう一生家から出さないとばかりな勢いだったけど。時々母さんが気遣う様に『お菓子とかいる?』と聞いてくるし。心配してくれるのは嬉しいが、少し気まずい。
まあ、僕も家の外に出る気はないが。誰に何を言われるかわかったものではないので。
あの日、助けてくれてありがとうという言葉なら幾らでも受け取るとも。だが、それだけで済むとは思えない。それほどに、死に過ぎた。
104人。それが、あの日死亡した人間の数である。昨日、テレビで言っていた。
生徒91名。教員8名。周辺住民5名。確認できているだけで、これだ。負傷者はその三倍とか。
ならばこうも思う人がいるだろう。
『どうして隣の家の子は無事なのに、うちの子は帰ってこないの』
と。そして、その矛先が向けられるべき男は警察預かりであり、手も声も届かない。
であれば……すぐ近くにいる『助けられたはずの誰か』にそれらの目が向きかねないわけだ。
別に、そういう風になってしまう人達を責めるつもりはない。その気持ちは察せられる。ただ、それらを正面から受けてやる義理もないだけで。
目立てば目立つほど、そういう時の対処を間違えればサンドバッグにされるだけ。あいにくと自分はMじゃない。家族に飛び火させるのもまっぴらごめんだ。
火に油を注ぐような事はしたくない。そのうちあの用務員のおっさんの事も大々的にテレビやネットで出るだろうし、悲しみに暮れるご遺族や被害者の怒りはあっちに向くだろう。それまでは下手な事はしたくない。
『では、覚醒修行に詳しい賢者の会教祖、アカツキさんにお話しを聞きたいと思います』
そんな事を考えながら天井を見上げていたら、聞き覚えのある単語が聞こえてきた。
一応画面に視線を戻せば、スキンヘッドのおっさんが黒い着物姿で座っている。お寺のお坊さんみたいだが、新興宗教のトップである。
『よろしくお願いします。早速ですが、三日前に起きた全国十二カ所の中学、高校でのダンジョン氾濫について、どのようにお考えでしょうか』
『そうですね。これらはひとえに、間違った覚醒修行の仕方が問題であると考えます』
神妙な顔で喋るアカツキこと、小山耕助。
『覚醒修行とはきちんと整備された霊地にして、覚醒者の立ち合いのもと行われるべき事です。ダンジョンのゲートを隠すなど言語道断であり、一人でどうにかしようとせず誰かを頼ってほしいですね』
『なるほど。では、どうやったらこういった被害を無くしていけるでしょうか?』
『……残念ながら、ゼロにする事は難しいでしょうね。人は欲望に弱いもの。そして自分なら大丈夫という感情もってしまい易いものです』
欲望と言えば、相原君があの用務員のおっさんは賭け事でかなり借金があるらしいと言っていたな。
隠していたダンジョンに覚醒した後乗り込み、ドロップ品をストアや組合を通さずに売りさばく事でかなりの儲けを出している非合法な組織もいるとか。まあ、そりゃあ欲もでる。
『だからこそ、事が起きてしまった時どの様に対応するべきかが重要になってきますね』
『対応、といいますと避難経路などでしょうか?』
『それもあります。ですがそれ以上に……即応できる覚醒者の確保が重要になると私は考えます』
『それはどういう事でしょうか?』
『モンスターに対抗できるのは覚醒者のみ。だからこそ、覚醒者に守ってもらえるようにしなくてはならないのです。武士というものができた経緯を、ご存じでしょうか?』
『えっと、他の集落等から武力で食料を奪われない様にする為、でしたっけ』
『それも一つの理由ですね。ですがやはりこう言うべきでしょう。農民にとって守ってくれる存在が必要だったと』
あー……なんか話が読めてきた。
『今こそ、その仕組みをもう一度行うべきではないでしょうか?非覚醒者が報酬を出し、それを覚醒者が受け取る代わりに保護を行う。また、ダンジョン氾濫の兆しを察知するのも非覚醒者には難しい。統治そのものを、覚醒者が行っていくべきなのです」
『いやいや。それはあまりにも飛躍が過ぎませんかね?』
当然ながら、他のコメンテイターから苦言が入る。
偶にテレビで見かけるスーツ姿の評論家さんが、呆れた様子で笑いながら言葉を続けた。
『さっきから聞いていれば、なんです?その民主主義を軽んじる内容は。力が強かったら偉いなんて、動物じゃないんですから』
『ただ力の強弱ではありません。必要だからこそ、やるべきなのです』
『報酬ならもともと間引きとかで払っているじゃないですか。それ以上をよこせとか、統治をさせろとか、あまりにも欲張り過ぎじゃないですか』
『命を懸けて戦う行為に、足りる報酬を普段覚醒者は受けているでしょうか?既存の制度に頼るのではなく、臨機応変に――』
『いやいやいや!そもそもね、覚醒者が強いっていうのならさ。モンスターぐらい簡単に倒せるんでしょ。じゃあそこまでの大金いります?いらないでしょ、普通に働く片手間で倒せるんだったら。猟友会とかと同じ扱いでいいじゃないですか』
『そうではありません。その様な己は守られて当然と言う考え自体が間違ったものであり、もっと戦う者に敬意と尊敬を――』
その辺りで、リモコンでテレビの電源を消す。
よくあるあれだ。極端な持論を語る評論家的な人達を集めて、争わせて楽しむ番組。そういうの苦手なので、さっさと見るのをやめておく。
静かになった部屋で、なんとなしにスマホを手に取った。
ネットを暇つぶしに軽く見てまわれば、案の定例の十二の学校でダンジョンの氾濫が起きた事についてもちきりだった。
『十二迷宮災害』
今朝、テレビでそう呼ばれ始めた三日前の出来事。ネット上でもその呼び方で定着したらしく、よく見かける。
全国十二の中学高校で発生したそれにより、死者行方不明者は一万人に上るという。負傷者を含めれば倍以上。これまでもダンジョンの氾濫はあったが、場所が学校という事もあり世間の注目は今まで以上だった。
その中でも特に目立って書かれているのは、二つの事柄だ。
『怪奇!謎の流星が街を破壊!?モンスターとの関係は?』
『勇気ある女子高生。街を守る為にたった二人で孤軍奮闘』
である。
僕らの事は?これでもめっちゃ頑張ったんだが?
いやさぁ。別に取材に来いとは言わないよ?けどさぁ。もっとこう、『あのカッコイイ騎士様の正体は?』とか、『一騎当千の剣士現る!』とか、そういう感じで話題になったりしないものかね。
承認欲求も人並みにあるのである。持て囃してほしい。
え?じゃあ名乗り出ろって?『出る杭は打たれる』って言葉ご存じ?最近は目立って得られるメリットよりデメリットの方が多いからねぇ……。
そんなわけで、僕の名前が出ない範囲で僕の事を褒め称えてもらいたいものである。ついでに『助けてくれてありがと♡』な感じでエッチな写真とか送ってくれるとなお良し!
閑話休題。この二つのやたら目立つ見出しだが、片方はなんとも心当たりがあり過ぎる内容が書かれていた。
『YURYYYなる人ならざる咆哮がどこからともなく聞こえてきた』
『白銀の何かが音速で飛行し、進路上にいたモンスターをビル諸共引き潰した』
『避難中の女学生たちが舐めまわす様な視線をどこかから感じた』
等々。
……うん。確実に自称聖騎士なあの似非シスターだ。間違いない。
ファイアードレイクの時は既に街が壊滅していたから気にならなかったけど、そりゃああの馬鹿力とチャリオットで暴れ回ればビルの一つや二つへし折れる。
それで助けられた命は少なくないだろうが、それはそれとして怪奇現象扱いもやむを得まい。せめて言動だけでも自重してくれ。
で、もう一個。こっちの方は、ぶっちゃけよくわからん。
女子高生の方は未成年という事もあり碌に情報が出てこない。まあ、ネットの特定班があっちこっち騒いでいる様だが。
なんでも、『黄金の鬣の生えた白馬に乗った黒髪の戦乙女と、彼女に守られた妖精の少女が、街を襲う巨獣を討ち取り魔物の軍勢を誘引して住民の避難を助けた』らしい。
目撃情報より巨獣とやらは『ケートス』、馬と魚が混ざった魔物とは『ヒッポカンポス』と判明。『B+』と『B』のモンスターである。自分も同じランクの奴らと戦った経験があるが、街自体が海に飲まれながら戦うとか悪夢としか言いようがない。
色々と謎に包まれた二人組だが、一応だけど一枚だけ彼女らを映した写真があるらしい。
……こういうの、デバガメ精神で良くないとわかっている。本人たちが名乗り出ていないのに、興味本位で踏み入るべきではない。
わかっているけどついつい見てしまう!好奇心を抑えきれない時ってあるよね!?
というわけでスマホをタップ。
映し出された画像は、天を駆ける白馬に乗った少女たち。ただかなり遠くから撮った写真らしく、その顔立ちはよくわからなかった。
空を飛ぶ彼女たちを追う様に、海の様に青い毛並みのヒッポカンポスが海上を駆け水流を操作して食いつかんとしていたる画像。こうして視ているだけで血の気が引きそうだ。
だが、何故そんなにもモンスター達が彼女らを追うのかわからない。誘因系の魔道具でも、ここまでの効果は出ないはずだ。どちらかの固有異能か?
――ふと、白馬の後ろに乗る少女の手元に視線がいった。
なんとなく気になり、画面に触れて拡大する。だがやはりよく見えない。魔眼持ちとは言え、画質を良くする力はないのである。
ただ……なんだろう。
「林檎……?」
朧気な輪郭しか見えないそれは……。
―――『黄金に輝く林檎』に思えてならなかった。
読んで頂きありがとうございます。
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この少し後に『エピローグ 後』を投稿させて頂く予定です。そちらも見て頂ければ幸いです。




