表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/186

第六話 ダンジョン氾濫

第六話 ダンジョン氾濫


サイド 大川 京太朗



 世に覚醒者とダンジョンが現れた『神代回帰』から半年と少し。今日も今日とて、真面目に例の公園で皆と訓練をしようと家を出る直前。


 リビングを通りかかった所で、テレビの声が聞こえてきた。


『覚醒者による犯罪をどうすべきなのか。それを今後の社会は考えていくべきですね』


 気になってそちらを見てみれば、真面目な顔をしたスーツ姿のおっさんがそんな事を言っている。


――この半年、世間では覚醒者の凶悪犯罪が取り沙汰される様になっていた。


 有名どころで言えば、以下の三つ。


 アメリカの『ニューヨークの獣』。


 イギリスの『英国のハーメルン事件』。


 中国の『キョンシー事変』。



*  *  *



 まず、アメリカの一件。これは、たった一人の男が『民間人、警察、州兵を合計百二十七人殺害』した大事件である。


 犯人のマイケル・ブラウン二十二歳。彼は刑務所と路地裏を行ったり来たりする、言い方は悪いがどこにでもいる小悪党だったらしい。


 だが『神代回帰』の際に覚醒。『狼の獣人』となる。


 覚醒者の中でも一割から二割ほどしかいないと言われる亜人。まあ、今はそんな事どうでもいい。


 問題は、彼がその力で強盗を始めた事が切っ掛けだった。犯行の動機はただの遊ぶ金欲しさ。


 そして、その際に彼は住民を殺害した。銃で抵抗しようとした男性を、その爪で引き裂いたのである。


 本人も動揺したのか、その時は取る物も取らずに逃走。だが、二件目以降は殺人もいとわぬ凶悪な手口で犯行を繰り返し、被害数は二十七件。うち死者は六人、負傷者八人に上った。


 これを重く見た警察も全力の捜査を行い追い詰めるも、彼は武力での抵抗を行う。


 その結果が、この未曽有の殺害数であった。なお、この数字は全て『素手によるもの』である事を、忘れてはならない。



*  *  *



 イギリスの一件は、とある農場で暮らす三十代の男が『三カ月もの間二十四人の少女を誘拐、監禁』していた事件である。


 犯人のチャールズ・ジョンソン。彼は農家の次男坊としてうまれ、前科もなく物静かな普通の男だったらしい。


 だがこの人物もまた覚醒。更には広範囲に影響を及ぼす強力な催眠系の固有異能を有しており、同時に空間魔法の使い手でもあった。


 この力に頭のタガが外れてしまったのかどうかは不明だが、彼は複数の街から数人ずつ十二歳から十六歳までの少女を誘拐。農場の隅にある掘っ立て小屋に監禁した。


 この掘っ立て小屋。なんと空間魔法によって内部を拡大。内側の広さはちょっとしたお屋敷ほどもあったとか。更には人避けの結界も張られており、家族や警察もその犯行に気づく事は出来なかった。



*  *  *



 三つめの事件。あいにくとこちらは詳しい情報がわからない。犯人も動機も不明。


 ただ、五千人を超える死者を生み出し、『操った』大事件とだけ世界中に伝えられている。その規模の大きさから、推定個人の犯行だろうに『事変』と言われるほどだ。


 中国西部で一斉に死者が動き出す怪事件が発生。その死体の顔には不思議な札が張られており、奇妙な動きで周囲の人間を襲っていたという。


 映画とかでよく見るキョンシーのそれだったそうだが、当時襲われた人達からすればとんでもない恐怖だった事だろう。キョンシーらは数を増やしながら北京に進軍し、襲撃を行った。



*  *  *



 この三件以外にもいくつもの事件は発生しており、覚醒者の危険性は強く訴えられていた。


 アメリカの軍事評論家曰く、『覚醒者は人型の戦術兵器である』そうだ。


 マイケル・ブラウンは拳銃やライフル弾ではまともに傷を負わせる事もできず、かといって重火器を持ち出そうにも、その素早さと小回りで民間人の中に飛び込まれ撃つ事ができなかった。


 チャールズ・ジョンソンやキョンシー事変の犯人についてはその発生を政府機関がまともに感知する事ができず、チャールズに至っては警察が彼の存在を知ったのは『捕縛後』である。なんせ、催眠と空間操作の合わせ技などまともな手段で対抗する術はない。


 この危険性から、アメリカやイギリスでは覚醒者の排斥運動が起き中国では覚醒者の登録と監視を厳しく義務付ける事になったという。


 それ以外にも、世界各国で覚醒者の扱いについて頭を悩ませていた。日本でも、ようやくではあるが来月から覚醒者は最寄りの市役所に登録を行う事となっている。



『しかし、覚醒者の力が必要なのも事実ではないでしょうか?』



 先ほどのスーツの男性に反論した、これまたスーツの男性。ネームプレートから、どこかの大学教授らしい。


 そう、彼の様に覚醒者の有用性を訴える人もいる。と、言うのも。



 先の三件。解決には全て覚醒者が関わっている。



 マイケル・ブラウンは州兵の包囲を突破するも、通りがかった元海兵隊という覚醒者の老人に殴り倒された。


 チャールズ・ジョンソンは『自称ホームズの生まれ変わり』な十二歳の少女に犯行を暴かれ、蹴りとステッキで捕縛された。


 中国の一件でも、決めてとなったのは覚醒者の軍人らしい。これもまた、情報が全然出てこなくてよくわからないが。


 覚醒者を止めるには覚醒者が一番有効。そういう風潮が出てきていた。


『だからですね。覚醒者の名前と住所。そして持っている能力の明確な届け出が――』


『それはプライバシーの侵害に繋がるんじゃないんですか?そもそもあの法案は人権の――』


 テレビでは議論が続いていく。


 こういったもの以外にも、『覚醒者になろう』的な番組を最近よく見る。霊山やお寺で修行して覚醒しようというらしい。


 魚山君やレイラ曰く、わりと有効だそうだ。地脈が安定し、なおかつ霊的な力を持つ場所で心身を鍛える事は覚醒に繋がるとか。ただし、早くても十年ぐらいの修行が必要らしい。


 ……霊的に強い力を持った食べ物を口にするとか、覚醒者やモンスターの魔力を強く浴びて覚醒する場合もあるらしいけど。あんまり話題にしたくない。特に前者。


「行ってきまーす」


 そんな事をつらつらと考えていたら、いつの間にか五分ぐらい経ってしまっていた。まだ時間には余裕があるけど、人を待たせるのはあんまり好きじゃない。


「ちょっと京太朗」


「え?」


 だが、リビングの扉に手をかけた途端母さんに呼び止められた。


「ここ数カ月週末は遊びに出かけてばかりだけど、勉強はちゃんとしてるの?もうすぐ十一月だけど、受験勉強は?」


「あ、あー……」


 頬に冷や汗を流して視線を逸らす。


 正直、『ごもっとも』としか言えない。訓練を始めて特に成績は下がっていないが、上がってもいない。中学二年生のこの時期と考えると、もう受験を考えて取り組む必要があるだろう。


 なんなら、自慢じゃないが僕の成績は平々凡々。部活を止めた奴らが真面目に勉強しだしたら、相対的にテストとかの順位は下がるかもしれない。なんだかんだ受験というのは競争だ。


 うちはそういうのあんまり厳しい家じゃないけど、それはそれ。流石に母さんも不安になってきたらしい。なんなら待ってくれていた方かもしれない。


 父さんは我関せずとテレビの音量を少し上げている。これは間違いなく援護射撃はないな。


「それは、はい。前向きに検討したいと申しますか」


「近所の木村さんからいい塾があるって聞いたから、そこに行ってみない?大学ほどじゃないけど、それでも高校受験って失敗すると後に響くわよ?」


「……塾の紹介、よろしくお願いします」


 少し考えて、こちらが折れた。どう考えても母さんが正しい。


 パタパタとスリッパを鳴らして塾のパンフレットを部屋に取りに行った母さんを見送り、スマホで二人に今日は行けないと連絡しようとした。


 まあ……正直戦闘訓練とか役に立つとも思えないし、飽きてきたから丁度いいよな、と。レイラの『ご褒美』は……べ、勉強方面を頑張るから貰えないかとお願いしよう。鍛錬でなく勉学だって自分の為になる事だし。


 いや、別にそういう努力しなくてもさせてくれる気はするけど、そこまで行くと自分はどこまでも堕落する気が――。


『速報です!街にモンスターが現れました!!』


「――は?」


 間の抜けた声を出したのは、父さんだったか僕だったか。


 スマホから顔を上げてテレビを見る。そこでは先ほどのスタジオから別の場所へとカメラが切り変わっており、焦った様子の女性キャスターが画面端から渡された紙に目を通していた。


『東京で謎の異常現象が発生しています!モンスターと呼ばれる存在が暴れており非常に危険です。以下の住民の方々は最寄りの避難先に避難するか、頑丈な屋内に留まってください』


 そうしてキャスターが東京の地名らしきものを口にしていくが、耳を通り過ぎていく。


 モンスターが街に?は?


 ポカンと突っ立っている間に、また画面が切り替わる。


『ご覧ください!黒い膜の様なものが街を覆っていきます!そしてその下では謎の生物が暴れております!』


 ヘリからの映像だろうか。上空から東京の街並みが映し出された。


 正直、東京には小学校の頃に一回修学旅行でいっただけで、地理なんて全くわからない。


 だけど……きっと、あの街に詳しい人が見ても見慣れた光景ではないと思う。


 燃えていた。そして、その中を人々が逃げまどっている。その背中を、『オーク』の槍が貫いていた。


 豚頭の鬼だけではない。ワイバーンに、トラックほどもある巨大な蛇。ゴブリンや妖精みたいなの。


 現実ではまず目にしない、そんな怪物たち。そいつらが街を襲っているのだ。


『あの黒い膜は徐々に範囲を広げているようです!あの中に入った建物や道路が姿を変えており、まるで中世の様な……また、その空間になると化け物がどこからともなく姿を現しています!』


 モンスターは、普通の人には見えないんじゃ……いや、今はそんな事、考えている場合じゃない。


 画面から目が離せない。人が頭をかち割られて倒れる姿が。空に連れ去られ地面に叩きつけられる姿が。頭から丸のみにされる人や、生きたまま燃やされる人達の姿が。


「京太朗、この塾なんだけどね?先生が優しい人らしくって……」


「母さん、あれ」


「え?………は?」


 扉を開けてきた母さんにそう言ってテレビを指さすと、彼女もまた固まった。その手からバサリとパンフレットが落ちていく。


 それを無意識に視線で追って、手の中のスマホで止まった。そうだ、あの二人。


 慌ててスマホを操作する。


『今どこにいる』


『家出る所。悪いけどちょっと遅れるかも』


『出てすぐだわ。信号待ち中』


『今すぐテレビ見ろ。今日は中止。家にこもってろ』


 そう入力するのが精一杯だった。


『この周辺に、新宿近辺に住んでいる人達はすぐに逃げてください!モンスターが来ます!急いで逃げてください!』


 カメラに唾を飛ばす勢いで、リポーターがマイクに怒鳴る。直後、そのカメラが大きく揺れた。母さんが『あぁ』と声をもらす。


 画面から一瞬だけ聞こえた悲鳴。そして、何も映らなくなる。


 いやな静寂が数秒だけ続いて、画面が女性キャスターのそれへと戻った。


『え、えっと。中継が繋がらなくなって……あ、え……?』


 また新しい紙が渡され、キャスターが困惑を顕わにする。


『ひ、避難を続けてください!該当する地区の人達は荷物を持たず、出来るだけ軽装で避難を行ってください。車は極力使わず、警察や消防の指示に従って――』


 それから、彼女がひたすらに避難を訴えるのを聞いている事しかできなかった。


 訳が分からない。理解が追い付いてくれない。それでも、なんとなくわかった事もある。



「ダンジョンが、広がった……」



 ダンジョンに近づかなければ安全なんて事、なかった。


 絶対に安全な場所なんて、この世になかったのだ。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.亜人ってなんぞ

A.一部の覚醒者は『エルフ』『ドワーフ』『獣人:ビースト』などに種族が変わっていたりします。ただ、数が少ないので今は主人公の視点だと近くにいないからあんまり描写される事はありませんが。


Q.ハーメルンって街の名前で重要なのは笛吹き男の部分じゃん。

A.彼の犯行が明確に露見するまでは『街で次々と少女が行方不明になっている』とだけ各地で報道されるだけだったので、マスコミが事件自体をそういう風に呼び始めた……という設定です。


Q.展開遅くない?

A.作中はダンジョンやら冒険者やら黎明期なので……ここからテンポが上がる予定です。すみません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これただ単純にモンスターが溢れ出すんでなくて、モンスターの領域が溢れ出してるのか
この作品の世界には異世界ものや現代にダンジョンが出現する系の作品が存在しなかった、若しくは知らなかったんですね。 そうでないならダンジョンを封鎖したらモンスターがあふれ出てくる(いわゆるスタンピード…
[一言] >通りがかった元海兵隊という覚醒者の老人に殴り倒された。 読みてぇ~!!w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ