第五十七話 メンタル
第五十七話 メンタル
サイド 大川 京太朗
『アメリカで現地覚醒者による非合法な実験が行われている事が発覚し、警察が突入するも謎の儀式が――』
『有川ダンジョン対策大臣が提出した覚醒者の雇用促進に対する法案が、職業選択の自由に反するとして――』
『中国で発生した第二次キョンシー事変により北京は完全封鎖状態になっているものの、政府機能は上海に移し――』
『桜井重工が冒険者の専属雇用とドロップ品の専門販売について新たな部門を作る事を発表し、これは一企業が過剰な武力を有する事に繋がるのではないかと危惧が――』
『インドで今までのカーストは間違っていたと、貧困層の覚醒者達が自分達をクシャトリヤであると宣言し大規模なデモ活動を――』
『フランスでダンジョンの大規模な氾濫が発生しています。これにより十七人の邦人が行方不明となっている事に茂島官房長官が会見を――』
『有川ダンジョン対策大臣がダンジョンのゲートを隠匿し、覚醒修行をする行為は極めて危険であり、実刑も含めた罰則が必要であると国会に――』
『影山デジタル大臣がダンジョンのゲートを隠匿した場合の危険性をネット上で広く認知させるため、インフルエンサーへの協力を―――』
『賢者の会教祖の小山耕助氏が覚醒者の遺伝性について述べ、これからの時代は覚醒者を貴族とした専制君主制に変えるべきだという発言に批判の声が――』
世間では何やらとんでもない事が発生している中、我が家でも大事件が発生していた。
「あ、ああ、あ、わた、わたしは、しゅごせいれ、い。ご、ごごご、ごーれむ、かい、ぞう」
「レイラぁあああああああああ!?」
レイラが壊れた。
* * *
と、いうわけでダンジョンに来た。
……いや、ツッコミどころは多いけども、これが本人の希望なのである。
レイラ曰く、大量に渡された相原君と魚山君から渡された『資料の山』。真面目な性格の彼女は真剣にそれらに目を通していき、彼らが望むゴーレムについて考えていた。
が、常人に変態の思考を理解する事など不可能。もしも無理にでも理解しようとすれば、精神に異常をきたす。
レイラが守護精霊だからコレで済んだが、普通の人ならそのまま性癖もろとも精神を歪められていた事だろう。
僕は彼らの性癖が綴られた要望書を『エロボンの書』と名付け一時的ながら厳重に封印。レイラに気分転換を提案したのだが……。
なんか、『戦闘行為により思考をリセットしたい』と言われてダンジョンを目指す事に。
まあ、この前の診察で冒険者に復帰してもOKって言われたらしいんだけど。貯金もしておきたいし。
どうにも、最近はきな臭いニュースが多い。ダンジョンだのモンスターだの分かり易い厄ネタが出現し、そのうえ覚醒者関連でごたごたも起きているから、当たり前と言えば当たり前だが。
そういう事もあり、何度目かになるか貯金をしなくてはと思う様になったわけだ……なんか、『自分禁酒八回成功したプロだから』っていう駄目な大人みたいだな。これでも高校生にしてはかなりの額貯金しているはずなのだが。
貯金言えば、相原君が『円だけじゃなくってドルと金塊にも換えておけよ、念のため。できるなら海外の銀行も考えとけ』と言っていたな。流石に早々円が紙切れになる事はないと思うが、それでも後で父さんにその辺の事を聞いてみるか。
とにもかくにも、電車に揺られ四つほど地元から離れた駅を目指していた。
駅から降りた先、山だらけのそこは『エンプティナイト』のダンジョンがある街に似ているが、しかしダンジョンストアの賑わいは明らかに異なる。
駅から離れる程人気のない田畑が続き、やがて整備もされず雑草が伸び放題な荒れ地が目立つようになっていく。
ダンジョンの発生により、避難が命令された区域。それを横目に、ガラガラの駐車場が目立つストアにやってきた。
今回のダンジョンは、東郷さんが『急ぎじゃないから時間がある時に行ってほしいな』と依頼してきたものだ。珍しく泊まりではなく、日帰りで行ける場所でもある。
ランクは『C』。民間では最高ランクのダンジョンであり、ドロップ品の平均売値が高いランクなのだが……ここは不人気とされていた。まあ、少し調べたらその理由も納得したけど。
とにもかくにも、ロッカールームで準備を終えて受付を通りダンジョンへ。
ゲートを通った先。そこは、星空だけが照らす夜の山の中だった。
通称、『鬼ヶ山』。京都のあの山とは違うが、それでも異様な空気のあるダンジョンである。
「レイラ、雪音」
「はい!」
「ここに」
やけに元気な返事をするレイラと、彼女を心配気に見ながら返事をする雪音。自分も防弾チョッキ姿のリーンフォースをアイテム袋から出しながら、レイラの方に視線を向ける。
「もう一度聞くけど、大丈夫なんだね?」
「はい!問題ありません。守護精霊として私の存在意義を再確認させて頂ければあの要望書通りの物を製作しても機能不全を起こす事はもうありません!」
逆に読んだだけで機能不全とやらを起こしたアレはなんなの?邪神が書いた魔導書か何かなの?
蒼と金のオッドアイをキラキラとさせるレイラの圧力に、兜の下で顔が引きつる。ちょっと怖い。
「そ、そっか。とりあえず大丈夫そうならいいんだ」
「はい!お任せください!」
むんと、両腕を胸の横で構え左右から乳を圧迫するその姿勢。なるほど、いつものレイラだ。
おっぱいに視線が奪われかけるも、ここはダンジョンだと意識を戻す。ツヴァイヘンダーを抜剣し、周囲を見回す。
事前情報では道幅は日や場所によって変わるらしいが、とりあえず自分達が出た所は一車線半ほどか。一人なら問題なく剣を振るえるが、リーンフォースの事も考えたら少し狭い。
「リーンフォース。先頭を任せる。その後ろに僕がつくから、二人はいつも通りに」
「「了解」」
「はい!」
……ちなみに、一番レイラの元気な様子に安心したのは自分である。あの本のせいで触手が生えたりお腹周りがふくよかになったりしなくてよかった。どうかそのままの君でいてほしい。
やっぱボンッキュボンが大正義だよ。巨乳くびれ巨尻こそが至上である。まあちっぱいを気にする女の子や引き締まってツンとした小尻も悪くないが、自分は大艦巨砲主義である。
性癖は自由でいい。脇や臍にしか興奮できない人も世の中にはいるのだ。法律に反していなければ、誰にも裁く権利などない。だが洗脳はNGである。
閑話休題。探索に集中しよう。
鬱蒼とした木々が生えるこのダンジョンは通常のソレと違い、区画や部屋と呼べるものがない。代わりに、この人に踏み固められた様な道以外を行くと十中八九迷うとされている。
そういう類の魔法が使われているのか、はたまたクレタのダンジョンの様に短い間隔でダンジョンの構造物が移動しているのかは定かではないし、確かめようとも思わない。
リーンフォースの数歩分後ろで、ツヴァイヘンダーを槍の様に構えて周囲を警戒しながら進む。
すると、二分ほど経った所でリーンフォースが立ち止まった。
「前方。動体反応二、こちらに向け歩行中。距離三百メートル。事前情報によりサイズ、行動から『鬼』と推測」
『鬼』
このダンジョンに出現する『Cランクモンスター』。赤黒い肌にでっぷりとした腹。しかし四肢は筋骨隆々であり、膂力だけなら同ランク帯でも最上位とされている。
その特徴的な二本角や癖の強い頭髪と体型は『オーガ』に似ており、その戦い方も酷似した部分がある……らしい。
「向こうがこちらに気づいた様子は?」
「確認できず。ペースを変えず、こちらに歩行中」
「わかった。先制攻撃をしかける。レイラ、雪音。狙えると思ったら撃って」
「了解!」
「お任せを」
「リーンフォース。僕らは防御優先で行こう」
「了解」
市のホームページにあるダンジョン情報では『鬼は魔法による攻撃が弱点』らしいが、はたして……。
残り約百メートルの距離になると、山の起伏で視えなかった相手の姿が夜の様なこのダンジョンでもハッキリと見える様になる。
事前に調べた通りの姿をした、三メートルほどの巨体を持つ鬼が二体。あちらも自分達を視認したのか、咆哮を轟かせて走ってくる。
『ブオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛――ッ!!』
ここまで地響きが聞こてくる足音。まさかりと金棒を掲げ、人の頭など一口で食らってしまいそうな大口を視認し本能的に恐怖を覚える。だが、自分の真後ろからは至極落ち着いた、頼もしくも涼やかな二人の声音が聞こえてきた。
「『氷牢』」
「『アクアカーテン』」
六つの氷柱が奴らの周囲に突き立ち、更には水のカーテンが覆い隠す。
雪音の妖術にレイラが改造したタクトで放った合わせ技。鬼たちの巨体が瞬く間に凍り付き、巨大な氷像へと変える。
『ガ、ア゛ア゛………!?』
それでも死なないのは、流石の頑強さか。体表の氷を打ち砕き、強引に四肢を動かす鬼たち。しかし赤黒い体には霜がまとわりつき、動きは明らかに鈍い。よく見れば関節部が特に凍り付いている事がわかる。
「『氷牙』」
「『エアハンマー』」
凍ってなお動く鬼たちだが、そんなものは無意味だと言わんばかりに氷の槍と不可視の槌がその身を穿った。片や顔面を槍で貫かれ、片や凍り付いた胸を打ち砕かれたのだ。
絶命する二体の鬼が粒子になっていくのを見てから、レイラを振り返る。
彼女が持っているタクト。その装飾は前とは違っていた。かつては赤い魔石が柄頭に付けられていただけだったのに、今はそこに『白銀の林檎』の樹液で作られた琥珀があるのみ。
代わりとばかりに、風車を彷彿とさせる『鍔』が取り付けられていた。
赤・青・黄・緑の四色がそれぞれの羽を彩り、ガラスの様な光沢を見せている。これこそ、四属性の魔石を備えたレイラの新しい武器だ。
戦闘の幅が大きく広がると言っていたが、なるほど。あのタクトではそこまで火力はでないと言っていたが、雪音の補助としてその力を発揮すると。
「二人ともお疲れ。ここからも頼んだ」
「「はい!」」
「リーンフォースも引き続きお願い」
「了解」
リーンフォースと共に警戒しながら鬼たちがいた場所に向かうが、そこには溶けかけの氷があるだけ。ドロップはない。
奴らのドロップは『鬼の角』と呼ばれる、名前の通り鬼の片角だ。魔法薬の材料にしたり召喚魔法の触媒にしたりするらしいが、どちらも自分にはどうしようもない。売るにしても、需要が少ないから大した額にはならないが。
それでも確か五万円はするので欲しくはあるが……そこがこのダンジョンの間引きが滞っている原因だろうな。同じ『Cランク』でもそう遠くない位置にエンプティナイトのダンジョンみたいに稼ぎがいい所もあるのだ。誰だってこっちよりあっちのダンジョンに通う。
それに、このダンジョンにはもう二種のモンスターが出るのだがそれらは中々に厄介だ。倒し方が明確な鬼はともかく、それらは普通の冒険者がこのダンジョンを避けるのに十分な理由になるだろう。
ぶっちゃけ、自分も東郷さんが振ってきた話じゃなければスルーしていたし。驚くほど『割に合わない』。今回はダンジョン内のモンスターを種類問わず五十も削れば三十万の報酬が出るが、そうでなければ、なぁ……。
周囲を警戒しながら更に前進。森の影は増していき、夜の様に暗いダンジョンの中は更にその闇を深めていった。
読んで頂きありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.作中世界だと英国はEU離脱してないの?
A.英国
「してます。してなかったらEUの国々を守る『義務』が発生していたじゃないですか。嫌ですよ、おんぶに抱っこを強制されるのは。今は『ご近所さん』として貸しを作ってるだけです。難民がこっちこられても困りますし。代わりに色々貰いますが」
エロボンの書
触れた際に0/1d2のS●Nチェック。読んだ場合は1d5/1d10のS●Nチェックが入ります。この判定で発狂した場合、偏愛|(触手)か偏愛(ふくよか)のどちらかになります。
読了後、芸術|(触手)と芸術(ふくよか)の技能をそれぞれ『60』の技能値で収得してください。
レイラは守護精霊なので無事でしたが、常人にはマジで呪いの書なので注意しましょう。




