第五十五話 工房
第五十五話 工房
サイド 大川 京太朗
「まあ上がってくれよ。そっちの二人もな」
「お邪魔しまーす」
「しまーす」
「……お邪魔します」
「邪魔すんなら帰れ。特にゴリラ」
「てめぇの顔面でドラミングしてやろうか」
「まあまあまあまあ」
無駄に火花を散らす変態どもを宥め、そう言えばと持っていた紙袋を相原君に差し出す。
「これ、つまらない物ですが」
「え。いやいいのにわざわざ」
「いやぁ、それでも一応」
「まあ、突き返すのも失礼だし受け取るけど。悪いな」
「いえいえ」
なんか緊張する。
学校とかなら別にそんな事ないのだが、それでも『Aグループのイケメンの家』に行く事なんて、この先の人生で絶対にないと思っていたからな。住む世界の違う人間だし。
こっちの変態二名とは違う、勝ち組感満載のイケメンの私服姿には警戒心と緊張が背筋を駆け巡ってしょうがない。
「あら、健介。お友達?」
玄関を上がってすぐにあった二階への階段に通されようとした所で、廊下の方から女性の声が聞こえてきた。
お姉さんだろうか?二十前半か中盤って感じの女性が、リビングらしき所のドアから出てくる所だった。
容姿はなんというか……失礼な物言いをすると『エロ漫画に出てくる美人人妻』的な?糸目の垂れ目が特徴的な美人さんで、スタイルもかなりいい。
目元以外はどことなく相原君と似ている。遺伝子ってすげぇ。
「ああ、母さん。こいつらは学校の友達」
パードゥン?
KAASANN?新手の暗号だろうか。それとも可亜さんだろうか。まさか母親という意味の母さんという意味ではあるまい。
「あらぁ。そういうのは先に言ってよ。どうも。健介の母です。いつも息子がお世話になっております」
「ちょ、母さんそういうのやめてくれよ」
可愛らしい笑みを浮かべてお辞儀をしてくる可亜さん。
……うん。OK。現実を受け止めよう。
「こちらこそあいは……健介君には良くしてもらっています」
きっとエルフだな!もしくはハーフエルフ!!
そう自分に結論付けて、お辞儀をしかえす。え?相原君の耳はエルフの血が入っている様に見えないって?きっとお父さんの血が濃かったんだよ。もしくは隔世遺伝。
「もう、おもてなしの準備していないわよ?ちょっとお菓子を買いに……」
「いいって。そういうのは俺がもう買って来てあるから。それより、今日は父さんと久々にデートなんだろ?わざわざ待ち合わせまでしているんだから、行ってやれって」
はえー、随分とラブラブなんだな。
こんな美人な奥さんを捕まえるとか、どんなイケメンだよ。やっぱそっちも相原君みたいな奴なんだろうか?
そう思っていたら、開いたままのリビングに家族写真らしき物が写真立てに飾っているのに気づいた。
失礼かもしれないが、それを凝視して――。
「で、でもぉ」
「いいからいいから。こっちも親がいたらはしゃぎづらいし」
「……うーん。なら、家の事はお願いね?皆もくつろいでいってね?」
「は、はい」
慌ててまたお辞儀をし、またチラリと写真を見て視線を逸らす。
今にもスキップしそうな、童女の様に浮かれた様子で玄関から出ていく相原君のお母さん。ばっちりお洒落して、本当に恋する乙女の様だ。
……写真立てには、中学生の頃と思しき相原君と、今と変わらずお美しいお袋さん。そして、その……。
ちょっと。本当にちょっと薄目な頭髪に、体脂肪率についてお医者さんから確実に怒られているだろうなって体型の、愛嬌があると言えなくもなくはない顔立ちをした中年男性の姿が映っていた。
「……相原君にそっくりだねぇ」
「うん?まあよく似ているって言われるな。でも目つきは父親似らしいぞ」
「そっかー」
遺伝子ってすげぇなぁ……。
* * *
DNAが性癖にまで影響する事を知った後、二階の彼の部屋に通される。
整理整頓がされ落ち着いた様子の部屋だが、異質かつ目立つ物が二つ。ダンジョンのゲートに似た扉が二つ、壁に並んで設置されているのだ。
「まあ、社交辞令とか前振り抜きで『仕事』の話をするんなら、まずはこっちだな」
彼がそう言って、右側の扉を開ける。
「ここが俺の『工房』だ。入口は狭いが、中の広さは保証するぜ?」
どこか悪戯っぽく笑う彼に促されて扉を潜った先。異界に入る時特有に違和感を覚えた後、視界が一気に開けた。
「おお……」
思わずそんな声が漏れ出るのもしょうがないと思う。
近代的に作られた床と壁。天井の照明から照らされた通路は明るく、窓ガラス越しに作業場の光景が見下ろせた。
音こそ聞こえてこないが、ちょっとした体育館ほどの広さの場所で人型の生物が作業をしている。
『コボルト』
灰色の毛皮で覆われた二足歩行の犬めいたモンスターだ。それだけだとファンシーな姿を想像してしまうが、顔立ちはハイエナとかに近い。
そんなモンスター……いいや。恐らく『召喚獣』が、ハンマーで鉄を打ち、炉の調子を見ながら鉄くずを入れている。
水槽に剣と思しき物を入れて軽く蒸気を上げる姿に、思わず視線が釘付けになった。隣では魚山君と熊井君も小声で『すげぇ』と言いながら目を輝かせている。
当たり前だ。なんだこの男子高校生特攻みたいな空間。
「あれは俺が召喚魔法で出したモンスターでな。鉄の扱いには慣れている奴らだから、ああして使っているんだ」
相原君が隣に立ち、工場の奥の方を指さした。
「出来上がった武器や防具はあっちの部屋で保管して、販売したりいずれできる俺のハーレム騎士団の装備にする予定でいる。俺自身が作った注文品は、また別の所に保管するがな」
「はえー……」
ツッコミどころもあるが、そこはスルーした。今は実際に剣や鎧が作られる様に圧倒されるばかりである。
「現代文明様様だぜ。流石に最新の工法とかは難しいが、剣や鎧の作り方なんてスマホで簡単に調べられる。魔法ありならこうして再現できるぐらいにな」
「いや、それでも凄い。魔法の知識だけじゃなく、ここまでの異界を作ろうと思ったら術式の配列にかなりセンスがいるはずだ」
伊達メガネの位置を直しながら、魚山君が何やら魔力の流れを目で追っているらしい。自分にはよくわからんが、魔法使いとしてはそうなのだろう。
「……けどよぉ。鍛冶師って色々免許とか必要なんじゃないか?それに一年の間に作れる武器の数も決まっているって聞いたけどよぉ」
「それは普通の鍛冶師の話だろう?冒険者免許を持っている場合は違うぜ?」
仏頂面の熊井君に、相原君がニヤリと笑う。
「国もとにかく魔力の籠った武器や防具が欲しいからな。俺の工房、卸し先は半分以上国の機関だぜ?」
「ぬぅ……」
「ま、四分の一は企業で、残りはさっきも言った通りハーレム騎士団用だがな」
「……一応聴くけど、ハーレム騎士団って」
「もちろん、俺の『ふくよかバブバブランド』のキャスト達でもあるな」
「あ、はい」
そんな気はしてた。
「はんっ!自分の女に戦わせてお前は安全な場所で踏ん反り返ってるてか!?かっこわりぃ~」
「やめてくれ熊井君。その言葉は僕にも効く」
「あ、すまん……いやお前は違うだろ」
「むしろ魔法使い的には『逆になんで下がらないの』案件だからなお前」
流れ弾でダメージを食らった所に何故か魚山君が肩パンしてくるんだけど。なに?虐め?
「まあ、そこの非モテゴリラの僻みは置いておいて。こっちに応接室も作ってあっから来てくれ」
「あ、うん」
そうして通路を進んですぐに、事務所っぽい所についた。中は革のソファーが対面する様に置かれ、その間に木製の机も置いてありなんか本当にどっかの会社みたいだ。
やべぇ、なんかさっきとは別の緊張をしてきた。こういう場所はあまり経験がない。
「あらあらまあまあ!よく来てくれたねあんた達!旦那が世話になってるねぇ!」
促されてソファーに座った所で、随分とふくよかな雪女……たしか、ミチルさんがお菓子とお茶を載せたお盆を手にやってきた。
机にそれらを置くと、彼女は秘書の様に相原君の斜め後ろに立つ。たぶん、『様に』じゃなく本当に秘書なのだろう。
「それで?電話では自作ゴーレムに着せる鎧を作ってくれって話だったよな」
「うん。一応『Cランクダンジョン』でエンプティナイトからドロップした分で一式揃えられたから、それをベースにお願いしたい」
そう言って、レイラが作ってくれた簡易的な設計図と要望書を渡す。
「エンプティナイトの素材をベースに内側はオークの皮をなめしたやつ……そんで細部は……はーん。随分と腕のいい魔道具師を抱えているみたいだな」
「いやぁ」
そう褒められると照れる。まあ?僕の?嫁の一人なんで?
かぁーっ!やっぱ照れるわー!そんなスーパー美少女独占しちゃって、なんかごめんねって感じだわー!
……いや、こいつらの性癖的には特になんもないのか。安心した様な、自慢できなくてガッカリな様な。
だが、そうだった。僕とてリーンフォースもいれれば美少女三人を嫁にしている超絶リア充。偶に聞く『ハーレム王の悲哀』的なものもなく円満に過ごしている自分こそ、真の勝ち組……!ハーレム王を超えたハーレム帝王……!
臆する必要はない。依頼人として堂々と胸を張ろう。
「んじゃあ、どんぶり勘定だけどかかる費用はこんぐらいだな」
「はい……」
それはそれとして『金額』というボディブローに背は丸まるのだが。
うわぁ……これゼロがいくつあんだよ。電話した時に聞いていなかったらこの場で白目向いていた自信あるわ。
しかも、このゼロがぱっと見で7個も並んでいる値段でも良心的な部類だとネットで調べた相場からわかってしまう。人によっては『需要が高い』という事で更に滅茶苦茶な額を要求するらしいし。
「ろ、ローンでお願いします……」
「マジかよ京太朗。こんなでかすぎる買い物すんの……?」
「高校生として流石にどうかと思う」
左右で友人二名がドン引きしているが、こっちにだって事情がある。
「だって、いつまたドラゴンに襲われるかわかんないし……」
「「あー……」」
いや、流石にもうないと思うよ?ほら、運って『+−0』になるって言うし?ミノタウロスやらファイアードレイクやらに襲われて、もうかなりの不運に遭遇したわけじゃん。と言う事はもう絶対にそんな化け物とは遭遇しないって。
いつかは自衛隊があんな化け物どもも簡単に駆除してくれる時代が来ると信じているが、それでも今は、ね?
前回は運よく花園さんが助けてくれたが、次は誰かが……僕の大切な人の誰かが死ぬかもしれない。
三度も氾濫に巻き込まれれば、死生観だって変わってくる。まず死なない。これが大事なのだ。金はあの世に持って行けない。六文銭は知らんけど。
「……契約書を書くのはまだ早いぜ、京太朗」
「相原君?」
ソファーで無駄に長い足を組んでいた彼が、真剣な面持ちで両足をつけ顔を近づけてきた。
「お前のゴーレム。ちょっと見せてくれ。元々採寸で見る必要があったが、この要望書で『確かめなきゃならない』事がでてきた」
「え、ああ、わかった」
いったいどうしたのか。何か不備でもあったのか?
一抹の不安を抱きながら、アイテム袋からリーンフォースを取り出す。今日の彼女は軍服のみで、ヘルメットや防弾チョッキ。そしてスパルトイの剣は装備していない。
直立不動となる彼女に、相原君の眼が更に細められる。まるで剃刀の様な鋭さだ。
「……京太朗」
「あ、はい」
「本当にこのゴーレムはお前が……お前の守護精霊が作ったんだな?」
「そうだけど……」
「そう、か……」
彼はそう言ってソファーに背を預けながら天井を見上げて大きく息を吐いて、そのまま黙り込んでしまった。
え、なに。怖いんだけど。部屋に流れる奇妙な沈黙の中、冷や汗が流れる。まさか……『白銀の林檎』がばれた?
いやいや。流石にそれはないはず。こんな一発でばれるなんて……確かに異界はその所有者にとって魔力の流れとか有利に動かせるらしいが、それでもこんな簡単に知られるわけがない。
ない……はずなのだが。
それならこの、異様なまでの『圧力』はなんだ。まるで迫りくる巨大な岩を前にしたような圧迫感。本能が危険を訴えてくる。
そして、もう一つ。いいや二つか。
自分の両サイドに座る、熊井君と魚山君。彼らもまた、無言で奇妙な空気を出していた。特に魚山君は相原君に匹敵するプレッシャーを放っており、相原君が迫りくる巨岩なら彼は底の見えない海面を覗いている様な不安感を与えてくる。なんにせよ、生物として根源的な恐怖心が駆り立てられていた。
……林檎がばれたとして、どうする。どうすればいい。口封じ?そんな事できるか!なら口止めを頼むか?それしかない気がする。
だらだらと汗を流す自分に、相原君がゆっくりと視線を向けてくる。
「――取引をしよう」
「とりひき?」
え、なに?脅迫?
見損なったぞ相原君!!君は頭がアレなだけで意外といい奴だと思っていたのに、本当はただの変態だったんだな!!
「さっきの鎧。材料持ち込みだし無料でいい。代わりに俺の望む最っっっっ高『エロゴーレム』を作ってくれ……!」
「あ、はい」
そんな気はしていた。
一話でこの話を済ませようと思ったのですが、思ったより長引いて明日にも続かせて頂きます。変態が多いと文字量が……!
読んで頂きありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.ネットで見ただけで鍛冶できんの?
A.当然無理です。技術や知識が必要な異能は、最低限それに関する情報が覚醒時に流れ込んできます。ですので、相原も基礎的な鍛冶技術は見についています。
そこにネットで得た中世以降の鍛冶技術や、講習で聞いた現代の鍛冶師さんの話を総合して今の工房を作り武器を量産している感じですね。
Q.相原の母親ってエルフの血入っているの?
A.純血の人間ですが、覚醒者ではあります。近接型脳筋ビルドの『Bランク』覚醒者です。見た目は素です。なお、本編には関係ありませんが医師免許もち。普段は近所のクリニックで外科を中心に診療していたりします。
Q.どうしてそんな美人が推定禿げデブなおっさんと……。
A.性癖ですね。ちなみにアプローチを仕掛けたのは奥さん側です。高校時代からの付き合いのようで、隣の席になった瞬間彼女のハートが撃ちぬかれたそうです。旦那さんの体型は今と大差なく、変化は髪と肌ツヤぐらいですね。
Q.性癖って遺伝するの?
A.作者にもわかりません。




