第二章 プロローグ
第二章プロローグ
サイド 大川 京太朗
がっちりと掴まれたドアを閉めようとするも、ビクともしない。全力で引っ張ったら『両者の力で』扉が壊れてしまうのは明白だ。これ以上は引っ張れない。
それでも相手が少しでも扉から手を離したら閉められる様にしつつ、シスターを睨む。
「け、警察を呼びますよ。ドアから離れてください」
「落ち着いてください。どうやら誤解が生じてしまっているようです」
「誤解……?」
どこか懇願する様に悲し気な顔をするシスターに、思わずドアを閉める手が緩んだ。
「はい。貴方は女性同士の『愛』についてどう思いますか?」
「え、そりゃあ別に本人同士がいいなら……」
つい答えてしまいそうになって、慌てて口をつぐむ。
いけない。一見まともに視えてしまっても、それで油断させるのが相手の手口に違いない。前に宗教系の詐欺をテレビで紹介していたのを思い出す。
「すみません、本当に急いでいるので。僕この後予定がありますから」
「友愛、性愛、親愛……愛というものにはいくつもの姿があるのです。そして、それは自由でなければなりません」
ちくしょう会話が成立しねぇ!!
なんで僕はスマホを部屋に置いてきてしまったんだ。こういう時こそ公権力を頼るべきだろうに!
今母さん達は出かけているから、警察に電話が出来ない。かといって自分がここを離れて、家の中に侵入されるかもしれないのは絶対に嫌だ。
……いや、待て。僕には誰よりも頼れる味方がいる!
「百合と一口に言っても、友情の延長線上にあるものから、肉欲に溺れたものもあるでしょう。それら全てを、等しく愛する心が今の人類には必要なのです。たとえば、貴方は麗しい少女たちが百合ップルだったらどう思いますか?」
「挟まってイチャイチャしたいですね」
「潰しますよ?」
「ひえっ」
条件反射で答えたらもの凄い形相で睨まれた。
こっわっ。
というか、さっきから思っているのだが……この人、身体能力高すぎないか?
推定ハーフエルフな事から覚醒者なのはわかる。だが、それにしても明らかに自分がパワー負けしていたのだ。
たらりと、額から冷や汗が流れる。
なんでよりにもよって不審者がそんな力持っているんだよ。もっと正義の味方的な人がそういう力をもってくれよ。こんなやべぇ人ではなく!
見た目はもの凄く美人でスタイルもいいのに!!
特におっぱい!!!
「本来の貴方はその様な浅はかな考えではないはず。私には見えるのです、貴方の魂は百合を尊ぶ騎士……いいえ、百合の騎士が乗る白馬のそれであると!」
「なにかキメてらっしゃる……?」
こ、こえぇ。なんかわからんが恐いというか、わけわからんからこそ恐いというか。
だ、だが!この変質者が他でやらかす前に豚箱か精神病院に叩き込む必要がある!誰かが犠牲になってからでは遅い。
……具体的に何がどうなるのか知らんけど!
「今ここに正しき名前を……貴方に洗礼名を授けましょう。白百合の運び手。百合騎士の愛馬、『シルバー・リリィ』!!」
「違います!警察を呼んで!」
「お任せください!」
あえて名前を呼ばず、目的だけ声に出す。目の前の変質者に少しでも個人情報を知らせず、警察が来る事だけを伝えたかった。
自分の背後にレイラを出現させ、彼女に玄関からほど近い電話に向かってもらう。
「くっ、何故ですか『シルバー・リリィ』!裏切るのですか!?」
「人違いですぅ!」
何故か信じられないとばかりに目を見開く不審者に、及び腰になりながらも扉から手を放さない。警察がくればこちらの勝ちだ!
レイラが受話器をとろうとした瞬間、着信音が響く。こんな時に!?
「この場は引き分けですね、シルバー。また会う日まで、貴方の騎手であり百合の守護者!『花園加恋』の名をしかと胸に刻み込んでおいてください!」
「警察にはそう伝えておきます」
「さらば!」
しゅばっと音が付きそうな勢いで駆けだす変質者もとい花園何某。自分より少し遅いか同等ほどの速度で爆走する後ろ姿に、ぎりっと歯を食いしばる。
胸も凄かったけど、シスター服に包まれた尻もすげぇ……!!
それはそうと絶対に通報はしよう。やべぇ人であるのは間違いない。
「主様、申し訳ありません。こちらの電話はどうすれば」
「あ、うん。今でる」
受話器を前におろおろとするレイラに応え、玄関を閉めてしっかりと鍵をかけた後に未だ鳴っている電話をとる。
まったく、どこのどいつだこんな時に。さっさと通話を終わらせて、お巡りさんに相談しないと。
「もしもし、大川ですけど」
『どうも、県庁の東郷です。京太朗君かな?』
「え、東郷さん?」
意外な人物からの電話に、受話器を耳につけたまま眉をひそめる。
『突然で申し訳ないんだけど、この後会えないかな。ちょっと話したい事があってね』
「あー、いやこれから警察に……」
そこまで言いかけて、止める。
よく考えたら、あのでかパイ似非シスターの事を警察に通報したら自分が詳しく事情聴取とかされるかもしれないのか。
今しがた起きた出来事を頭の中で纏めようとするも、あまりに荒唐無稽過ぎる。上手く説明できる気がしないし、下手をすれば悪戯と疑われかねない。
『うちに突然百合を布教しに爆乳エルフ耳シスターが来たんです!すごい怪力で怖かったです!』
……やべぇ。まともに取り合ってもらえる気がしない。同様の通報が他にも多数あれば信じてもらえるかもしれないけど、僕一人だったらまともに扱ってはくれまい。
ミノタウロスの一件で『貸し』はあると思うけど……警察って縦割りで有名だしなぁ。
お巡りさんという職業に敬意は持っているが、信用しているかは別である。
『警察?それはまた、穏やかじゃないね』
「……実はさきほど変な宗教勧誘を受けまして。その事を相談しようかと。けどあまりうまく説明できそうにないというか……」
『宗教勧誘?まさか……』
「何か知っているんですか?」
もしかしてあの不審者、他の所でも既に変な勧誘を?
『……その事も含めて、会って話せないかな。仕事がら警察の知り合いもいる。力になれると思うんだ』
「あー、えっと……」
考える。自分の中で東郷さんはうまい具合に自分が冒険者になるのを両親に説得してくれたし、父さんを自然に職へつけてくれた事もあって恩人と言っていい。僕の知る範囲で、両親以外だと最も頼れる大人でもある。
迷いは、数秒ほど。
「もうすぐ両親が買い物から帰ってくるので、相談してからでもいいですか?二人に話してからという事で……」
とりあえず、親に報告してからの方がいいか。という結論を出した。
不審者が出没したのだから、二人にも警戒を促しておかないと。すぐにはないと思うけど、またやって来るかもしれないし。
その後、東郷さんにも相談したかった。両親もこの人になら相談するのは賛成だと思うし。
さっき本人も言っていたけど、県庁の人なら県警とかとも繋がりがあるのだろう。彼ならスムーズに話を通してくれるはずだ。
『わかった。じゃあご両親から返事を聞けたらまた電話してくれるかな?それともこちらからかけた方がいいかい?』
「あ、いえ。僕の方からかけさせて頂きます。すみませんなんだか」
『いや、いいんだ。こちらこそ突然すまない。では、一端失礼するよ』
「すみません。一応、先に家へやってきた不審者の名前だけお伝えしていいですか?」
『ああ、そうだね。聞いておこう』
「『百合の守護者』を自称する花園加恋って人です。本名かどうかはわかりませんけど」
『え゛』
「あと、容姿はシスター服を着た長身のエルフ、あるいはハーフエルフです。走って逃げていきました。怖かったので追いませんでしたけど」
『そう、か……そうかー……』
何故だろう。電話越しに東郷さんが遠い目をしている気がするのだが、どうしたのだろうか。
力なく『また、電話してくれ』と通話を切った彼に疑問符を浮かべながら、受話器を眺めて首を傾げるのだった。
読んで頂きありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
※作者は同性愛は個々人が好むのなら自由でいいと思います。そういった方々を否定する意図はないのをどうかご了承ください。
花園加恋こと今回の似非シスターがそういった枠組みから外れたやべぇ奴というだけで。




