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第一話 説明

第一話 説明


サイド 大川 京太朗



「た、ただいまぁ……」


 そっと玄関を開けると、すぐにバタバタとスリッパの音が聞こえてくる。


「おかえり京太朗!ちょっとテレビで変な事を言っているんだけど」


 慌てた様子で母さんが喋りかけてくる。こちらに向けられる目は、いつも通りのものだ。


 当然と言えば当然だが、つい安堵の息が出てくる。自分の幻覚ではなく、ちゃんと元の恰好に戻れているようだ。


「どうしたの母さん、変な事って」


「なんだかステータスとか精霊とか大真面目にニュースで言っているのよ。エイプリルフールはもう過ぎたのに」


 現在四月の中旬。UFOだの怪獣だののニュースはとっくに終わっている。


 だからではないが、今回のこれはたぶん。嘘ではない。


「ニュースでって事は、やっぱあれ幻とかじゃないんだ……」


「京太朗も見たの?空に浮かんだ変なの……なにか体に変な所とかない?今からお父さんにも電話してみるつもりだけど……」


「たぶん、大丈夫かな?それよりあの変なお爺さんの事で、なんかわかったことない?」


「それもニュースでやっているんだけど、誰もわからないみたいなのよ」


「そっかぁ……」


 だよなぁ、と思い、天井を見上げる。


 自分に、普段の服装への戻り方を教えた後『落ち着いて話せる場所についたら、お呼びくださいませ』と言って、虚空へと姿を消したあの少女の事を思い出す。


 マジで、この世界はどうなっているのだろう。



*  *  *



 心配してくる母さんに、『とりあえず部屋で休んでる』と伝えた後。着替えるでもなく自室で軽く深呼吸した。


 左右を見回し、窓も閉まっているのを確認しておく。誰かが忍び込んでいる感じはない……と思う。


「あ、あのぉ……出てきてくださーい」


「はーい」


「うぉっ」


 囁く様な小声だったのに、ハッキリとした返事と共にあの銀髪の少女が現れた。


 空中から突然、わざわざ靴を脱いだニーソックス状態で目の前に。


 思わず声を出しながら一歩後ずされば、少女は笑みを浮かべたまま優雅な一礼をした。


「十分ぶりですね、主様。自室にご到着な様ですし、説明を開始しますか?」


「せ、説明?」


「はい。私は何者なのか。なぜ『念じれば元の服装に戻る』と知っていたのか。そもそも現在何が起きているのか。疑問はいくつもあると思います。それを、この身が知る範囲でお答えできればと思います」


 スラスラと語る彼女に、やや気圧される。


 今更この人がただの不審者などと思う程、現実が見えていないわけじゃない。ただ、それはそれとして訳が分からない。


 信用していいのか。それとも何か思惑があるのか。


 とりあえず、『モブ川モブ太郎』『顔面のパーツがほぼT字で構成されている』と友人に呼ばれる僕に、初対面の美少女が無条件で優しくするわけがない。


 警戒はしておこう。いざ裁判になった時の為に、スマホを録音モードにしておく。


「じゃあ、あの。貴女は何者なんですか?」


「はい。私は御身の半身。いいえ、魂の一部が具現化した『守護精霊』にございます」


 ニッコリと笑みを深め、小首まで傾げてきた。


 可愛い……じゃねえ。


「守護精霊?魂?あの、もう少し具体的に……」


「そうですねぇ……では、分かりやすく私の知る範囲でご説明しましょう。ささ、ベッドにお座りください」


「は、はあ」


 紙とペンをお借りしますねと言って、彼女は僕の机から予備のノートとシャーペンを持ってきた。


 ……あれ?なんか今、全然迷いがなかったような。それこそ、元々どこに何があるのか知っているみたいな動きだった気がする。こちらを座るよう誘導したのも、やけに自然だったし。


「では、まず主様の状態から」


「え、あ、はい」


 とっさに頷いてしまう。


 完全に向こうのペースだ。いや、そもそも教えてもらう立場だからこれでいいのか?


 どうしよう。非日常な状況に加え、室内に美少女と二人きりだから全然思考が纏まらない。こっちは物心ついてから授業とか以外で異性とまともに話した事なんてないのに。


「主様は『覚醒者』になりました!」


「はぁ」


「私は主様の『異能』が生んだ守護精霊です!」


「へぇ」


「覚醒者は魔法や怪力。超能力の様な力が使える超人です!」


「ほぉ」


「以上です!!」


「待って?」


 思わず素で問いかけると、少女はまたコテンと首を傾げた。


 可愛いけどそれどころじゃない。


「あの、抽象的というか大雑把というか、全っ然わからないんで、もっと、こう……」


「………精霊は自然に関する魔法が使えます!」


「まほう」


 どうしよう、この子結構バカだぞ。


「ご不明な点がありましたら、『ステータス』をご覧ください」


「……はぁ?」


 ファンタジーな話が続いていた所に、突然ゲームとかでしか聞かない様な言葉に変な声が出た。


 だがそこで母さんがさっき言っていた事を思い出す。



『なんだかステータスとか精霊とか――』



「……え、マジ?」


「はい。テレビゲームなどのアレを想像してください。『魔装』……あの騎士甲冑を消した時と同じように、強く念じてくだされば出現します」


「………ステータス」


 半信半疑ながらそう呟き、ゲームのそれを想いうかべてみる。


 少し恥ずかしいが、それでも心が浮つくのも事実だった。だって、こういうシチュエーションずっと妄想してきたし。


「おぉ!」


 だから、驚きというより歓喜の声が出てくる。


 なにせ、少女の言う通り半透明な画面らしきものが出現したのだから。



*  *  *



大川京太朗 種族:人間・覚醒者


筋力:A 耐久:B 敏捷:B+ 魔力:A 抵抗:B


異能

・魔眼:未来視

・守護精霊

・魔力開放


固有異能

・白銀の林檎



*  *  *



「ほぉぉ……」


 これが良いのか悪いのかわからないが、それでも『ステータス』という目に見える非日常に否応なくテンションが上がる。


「けど、これいったいどういう原理で……?」


「原理と言われましても。それは当たり前の能力ですし。掌を見たいから、手を顔の前にかざすのと同じです」


「そういうものなのか……」


 少女の言葉に話半分な相槌をうちながら、物は試しとステータスを触れてみる。


 するとタッチパネルの様に、触れた項目が反応して説明文の様なものが出現した。


『魔眼:未来視』

 自身、および味方の危機に対して僅か先の未来の光景を幻視する。


『守護精霊』

 自身の魂を僅かに切り離し、魔力で増幅。守護者として顕現させる。


『魔力開放』

 魔力を解き放つ事で、一時的に自身の周囲に魔力の風を発生させる。


『白銀の林檎』

 黄金には届かぬ銀の林檎。神には駄菓子にすぎぬそれも、人にとっては奇跡の具現。不死には足りずともあらゆる病に、毒に、傷に効く。この力を持つものは不老であり、実体化させる事で他者に食させれば一時的にその加護を与える事もできる。


 ………んん?


『自分の魂を僅かに切り離し』


「んんん!?」


「どうなさいました、主様?」


「こ、これ、大丈夫なやつ……?」


「……ああ、守護精霊の項目ですね。魂の切り離しを気にしていらっしゃるのでしたら、ご安心ください。肉の器をもつ貴方がたならばかすり傷も同然です」


「そ、そうなの?」


「はい。『魂』『精神』『肉体』の関係の説明になりますが、肉体が無事なうちは魂が半壊しようが時間さえあれば完治は可能でしょう。この程度であれば、一時間もすれば元通りです」


「は、はぁ……」


 信用、していいんだよな……?とりあえずステータスには、彼女が敵対的な存在じゃない風に書いてあるし。


 ただし、そもそもこのステータスってどこまで信用していいのかという問題があるけど。


「それにしても……この『白銀の林檎』っていったい」


「私にもわかりかねますが、固有異能は総じて強力なものばかりらしいです」


「まあ確かに『不老』とか『あらゆる病に、毒に、傷に効く』とは書いてあるけど」


 書いてある通りならとんでもない力である。具体的には自分を賞品に世界大戦ワンチャンあるんじゃねと思うぐらいには。


 凄い能力があるのは嬉しいが、実感がない上にアニメだったら碌な事にならない能力すぎて素直に喜べねぇ。


 聞きたい事はまだまだあるのだが、多すぎてまとまらない。


 そこでふと、少女の名前を呼ぼうとして気づく。何者かという質問に、結局彼女は『守護精霊です』としか答えていない。


「あの、そう言えば貴女の名前は―――」


「京太朗、今お父さんと電話し……て」


 ノックとほぼ同時に開けられる扉。母さんが電話の子機を手に部屋へと入って来た。


 あ、やばい。


「こ、これは、その、違くて!?」


 違うってなにがだよ!?何言ってんだ僕は!


 わたわたと手を振り回す自分をよそに、母さんが例の少女の方を指さす。


「きょ、京太朗……」


「この人は、えー、っと、その」


「『何もない』ところでノートとペンが浮いて……手品、なの?」


「はい?」


 なにも、ない?


 どういうことだ。冗談かとも思ったが、母さんの動揺具合は本物に見えた。


 互いに困惑する僕と母さんをよそに、少女がノートとペンを机に置いて姿勢を正す。


「今『実体化』しますので、ご安心ください」


「じったいか?」


「はい!」


 ニッコリと笑みを浮かべたまま、少女が母さんに向き直った。次の瞬間。


「へ、ええ!?」


 母さんが驚きの声をあげながら子機を取り落とし大きな音をたてる。


「お初にお目にかかります。私は貴女の御子息、大川京太朗様の守護精霊をしております。どうか今後ともよろしくお願いいたします」


「は、はぁ……?」


 パクパクと口を動かす母さんに、どうしたのかと二人を見比べる自分。


 相変わらずの笑顔を浮かべたまま、少女がこちらに体を向けた。


「ではご家族とお話しがあるようですので、私はさがらせて頂きます。何か御用がありましたらまたお呼びください」


 優雅な一礼の後、少女が消える。今度は明確に、光の粒子となった彼女が自分に流れ込んでくるのが見えた。


「は、消え、ええ?ゆ、幽霊?」


「どういう、こと……?」


 残された二人、奇妙な空気のまましばらく動けなかった。



*  *  *



 あの後、いつもより早く帰って来た父さんと家族三人で病院に行く事になった。


 だが、病院の救急はいっぱいで診察を受ける事はできなかった。診療所も閉じていたり人が押し寄せていたりで、この日は結局家に帰る事に。


 とりあえず部屋で安静にしていなさいと、まだ夜の九時なのに寝る様に強く言われた。


 ただまあ、それで寝られるかというとそんなことはあり得ないわけで。


 ベッドで布団にくるまりながら、スマホを操作する。興奮で眠れないし、そもそも自分や世界に何が起きているのか知りたかった。


 結果、ネットでわかった事は以下の通り。



・世界中で不思議な力に目覚めた人が出現。ただし、百人に一人だったり万人に一人だったりで、その数はよくわかっていない。


・その不思議な力に目覚めた人は『覚醒者』と呼ばれる。『魔法』に関する力を持つ人は、そういったこの状況の知識が何故か頭にあるらしい。


・覚醒者は異能を最低一つ、最大三つ持っている。だが別枠として存在する『固有異能』を持っている人はかなり少ないらしい。


・ステータスの項目は、『筋力』や『耐久』は名前の通り。そして『抵抗』は『魔法をはじめとした異能への抵抗力』だそうな。


・ステータスの平均は不明。なんとなく『C』がそうなのかも?と言われているが、錯綜している。


・守護精霊の異能を持っている人も、固有異能持ちと同じくらい少ないらしい。また、守護精霊は異様なまでに主人?に従順かつ献身的だとか。今の所危害を加えられたケースはないとも。


・また、守護精霊の姿は覚醒者以外には基本的に見えず、触れない。守護精霊側が意図的に姿を現したり触れたりする事は出来る。



 ネットの情報なので全てを鵜呑みにはできないが、それでも貴重な情報である。


 これを信用するなら、自分はかなり恵まれている……のかな?ステータスの平均は『B+』だし、異能は三つ。固有異能も持っている。なんとなくだけど『魔力』?でいいのか。そういう不思議な何かを体内に感じる。


 ただし、やはり色々と警戒した方がいいのだろう。色々が何かはよくわからんけど。


 時刻が午前二時を過ぎた頃になると、流石に瞼が重くなってくる。それに意識を委ねて、スマホを充電器につなげて眠りに落ちた。




読んで頂きありがとうございます。

どうか今後ともよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] この熟練の読者達の自分ヒロインに対する「皆まで言うな作者、わかってる」感が好き
[一言] 「あの後、いつもより早く帰って来た父さんと家族三人で病院に行く事になった。」 この家族、どうして病院に行こうと言う発想になるのか理解できないな。
[良い点] ついに自分ヒロインを出しましたか…。 TS界隈でもかなり業が深い性癖ですが、今のところ自分自身要素が薄いのでボロが出ることを期待してます。
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