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凡人高校生、バケツヘルムでダンジョンへ  作者: たろっぺ
最終章 新たなる神代で
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最終章 エピローグ 後

最終章 エピローグ 後



サイド 郡 凛



「よっと」


 荷物をいれた段ボールを玄関の方に運んで、自分の部屋を眺める。


 我ながら物の少ない部屋だったが、今は完全に何もない。引っ越すのだから当然だが。


「凛ちゃん、おやつにしよ~」


「おお、サンキュー胡桃!」


 あれから一カ月。私達は寮から出る事になった。


「おー、美味しそう!頂きます!」


「頂きます」


 手洗ってからリビングにいけば、胡桃がわざわざ持って来てくれた水筒の紅茶と紙皿に乗ったクッキーを手に取る。


 うん、やっぱり胡桃の手作りは美味しい。


「……凛ちゃん」


「ん~?」


「私、このままでいいのかな」


 クッキーに舌鼓を打っていると、胡桃がふとそんな事を言い出した。


 どうしたのかと視線を向ければ、彼女は不安気に己の腕をさすっている。


「私の異能を巡って、たくさん酷い事が起きた。それなのに、何もしないでいていいのかな……」


「……確かに、ナイトメアが起こした氾濫で亡くなった人はいるよ。ロキの一件でも傷ついた人はたくさんいる」


 紅茶の入ったカップを置き、胡桃の眼を真っすぐと見る。


「でも、それは胡桃だけのせいじゃないと思う。だって胡桃は未成年で、そのうえ攫われていたんだから」


「けど」


「うん。それじゃ納得できないっていうのは、わかってる」


 だって、自分も同じだから。


 もっとできる事があったんじゃないか。何かしておけばよかったんじゃないか。そう思い自責の念にかられる事はある。


 けれどそれを赤城さんや、事情聴取にきた東郷さんって警察の人に言ったらどちらからも『子供が気にする事じゃない』と、労わりと優しさを帯びた目で言われたものだ。


 それが嬉しくって、けど同時に悔しくって。


 何かしたいって、思うんだ。


「だから、これから変わっていこう。二人で」


「凛ちゃん……」


「せっかく赤城さんの所でお世話になるって話なんだからさ。うじうじしてても何にもならないよ」


 そう。胡桃の異能について、一部の人達が気づいてしまっている。


 だからその保護を赤城さんがしてくれると、彼女の方から言ってきてくれた。


 正直疑ってしまうけど、それを見抜かれて笑いながら『それでいい。疑いなさい』と言われてしまったのは少し恥ずかしい思い出だ。


 この引っ越し作業も、赤城さんの持っている家の一つに向かう為のものである。


「悔しいなら、後悔があるのなら。そして、今は何もさせてもらえないのなら。変わるしかないよ」


「……うん」


 少しだけしんみりとした空気になる。無理もない。胡桃は、ナイトメアにご両親を殺されているのだから。立ち直るにも時間が必要だ。


 それでも……きっと今は、立ち止まる時じゃない。這ってでも進まないといけない時はある。


 守られるだけの子供でいたくない。自分達の身は守れるぐらいになって、そしてその先に。助けてくれた人達みたいに、誰かを助けられるぐらいになりたい。


 なれないはずがない。力だけはあるんだ。あとは、心と技量さえ鍛えられればいい。それが一番大変かもしれないけど……やってみなくっちゃ、可能性はゼロなんだ。


───プルルル。


「ん?」


 部屋に備え付けられている電話が鳴り、何だろうと出てみる。電話の向こうにいたのは寮母さんだったのだが、彼女の言葉に思わず耳を疑った。


「はい?ビキニアーマーの人が美咲ちゃんをお姫様抱っこして会いに来た?」



* *    *



 とりあえず一階まで降りてくると、そこには本当にビキニアーマーを着た女性が立っていた。


 顔立ちは兜を被っているせいでわからないが、体つきは何というか……生々しいエッチさがある。そちらの気はないはずなのに、ついつい見てしまう。


「凛ちゃん?」


 おっといけない。警戒心をもたなければならないと意気込んだばかりなのに。


 というか、この人。


「駄騎士さん?」


「YES!!駄目じゃない騎士こと駄騎士です!!」


 大きく頷きサムズアップをする女性。まさか人気動画投稿者の彼女が会いに来るとは、予想外だった。


 そして、彼女の後ろに隠れる様にして一人の少女が立っている。


「美咲ちゃん……」


 金谷美咲ちゃん。『賢者の会』に捕らわれていた、私達の友達。


 咄嗟になんと声をかけていいかわからずにいると、彼女が駄騎士さんに優しく背を押されて前に出てきた。


「その、ごめ」


「ごめん!!」


 いつの間にか隣にきていた胡桃が、大きく頭をさげる。


「謝ってすむ事じゃないってわかってる。けど、謝らせて。美咲ちゃんとおじさんとおばさんがあの人達に狙われたのは、私のせいなの。私が、本当は狙われていて」


「ま、待って胡桃!」


 慌てて美咲ちゃんが駆け寄ってきて、胡桃の肩を掴む。


「違うの!あたしは謝りにきたの!」


「え、え?」


「病室で酷い事を言っちゃったってずっと後悔してた。だから、それを謝ろうと思って。けど勇気が出なくって……」


「そんな感じで寮の前でうじうじしていたので、連れてきました!!」


 兜で表情がわからないが、恐らくドヤ顔を浮かべていると思しき駄騎士さんが胸を張る。


「美咲ちゃん……」


「二人とも本当にごめん。それと、大丈夫だった?あんた達だって大変だったって、病院で赤城さんって人から聞いたよ?」


 心配そうに私達を見つめる彼女の顔は、自分達が知る美咲ちゃんそのままで。


 その事に、気づけば胡桃と美咲ちゃんを纏めて抱きしめていた。


「ちょ、凛ちゃん駄目だよこんな所で!?」


「り、凛!?どうしたの!?何があったの!?」


「うんうん……ただ、こうしたかったんだ」


 単純だなぁ、私。


 こうしているだけで、何でもできそうな気になってくる。痛い思いをしたのも、苦しい思いをしたのも忘れて、どこまでだって行ける。そんな気がするんだ。


 一人じゃない。それが、心から実感できる。


「おっほん!」


 わざとらし咳払いが聞こえてきて、慌てて駄騎士さんの方に向き直った。


「し、失礼しました」


「いえいえ。元より先ぶれも無しに来たのはこちらですから。ですが、どうか私の要件も聞いて頂きたい」


 駄騎士さんが唐突に片膝をつき、私に手を差し出してくる。


「『ゴールデンギター』さん。我が騎士団の行進曲を貴女にお願いしたい」


「……はい?」


「知り合いが貴女の事を『ゴールデンギター』さんと呼んだのが聞こえましてね。少々調べさせてもらいました」


 ど、どこからかわからないけど身バレしてる……!


 そう言えばシルバーさんもナチュラルに私の事を『ゴールデンギター』って呼んでいたし、どういう事?やだ、私のネットセキュリティ、低すぎ……?


「騎士団と言えば行進曲!行進曲と言えば騎士団!是非我が騎士団のために歌って頂きたい!具体的に言うとコラボよろしくお願いします!!」


「えっと、すみません。お受けできません」


「なんとぉ!?」


 心底驚いたとばかりに駄騎士さんが仰け反る。


「なぜにホワァイ!?私超大人気投稿者、駄目じゃない騎士こと駄騎士ですよ!?」


「あ、いえ。駄騎士さんに不満があるわけじゃなくって、私の方の問題なんです」


「ゥワッツ?」


 ……どうでもいいけど、この人英語苦手なのかな。


「実は私、声に魔力が乗ってしまう異能を持っていまして。歌を歌うと聞いた人に思わぬ影響が出てしまうんです」


「それは……」


 背後で、胡桃が不安そうにしているのがわかった。


 そっと後ろ手に彼女の手を握り、親指で手の甲を撫でる。


 あの後、しっかり話した。私は恨んでなんかいないって。むしろ助けてもらって感謝しているんだって。


「では、歌い手はもうやめてしまったので?」


「いいえ」


 力強く首を横に振る。


 私は生きている。だったら、諦める理由なんてない。


「この力を制御してみせます。それまでは『ゴールデンギター』は封印ですけど、それでも。私は必ず歌手になってみせます」


 それが私の夢だから。


 最初は、家族や胡桃との繋がりのために歌っていた。それが今もないとは言わない。


 けど、それだけじゃない。なりたいんだ。歌手に。


 シルバーさんみたいに、私の歌を応援してくれる人がいるって知ったから。


「なるほど。そういう事でしたか」


「はい、ですから」


「では!その特訓私もお手伝い致しましょう!!」


「へ?」


 なんて?


「実は某大企業からCMを依頼されましてね。その伝手で異能の訓練ができる場所を知っているのです。そこで異能の制御術を学びましょう!」


「いや、あの」


「私もいずれはハリウッドの銀幕にて世界一の大女優な騎士になる所存!そこに貴女の歌も並べましょう!!」


 どうしよう、何を言っているのかわからない。


「ま、待ってください!実は今から桜井自動車の赤城部長って人とお会いする約束で」


「おお、それはなんたる偶然でしょうか!私の伝手もその赤城萌恵部長なのです!共に参りましょう!!」


「そんなことあるぅ?」


「凛ちゃんキャラ崩れてるよ!?」


「さあさあさあ!いざゆかんハリウッド!!」


 異様に高いテンションのビキニアーマーを着た不審者を前に、流石に大人を頼る事にした。


 具体的に言うと額に青筋を浮かべた寮母さんに道を譲った。


「ちょっといいでしょうか?」


「おや、なんですかなご婦人。……あ、すみません五月蠅くし過ぎまして。これはですね、あの」


 ……うん。もう暫くは、子供のままでもいいかもしれない。


 三人でそう笑い合って、引っ越しの準備を続けるのだった。



*   *     *



サイド 大川 京太朗



「お前ら大概にせぇよ?」


 三馬鹿を正座させながら、眉間に指をあて頭痛を堪える。


「僕はさ。セカンドの外装を整えるために来たんだよ」


「ああ」


「なんでお前らの性癖博覧会になってんの?」


 場所は相原君の事務所。その机の上には、馬鹿どもが提案し無駄に高い画力で描いた形容しがたい何かの絵が複数おかれていた。


「いや、違うんだよ京太朗」


 キリと効果音がつきそうな顔で相原君が口を開く。


「どうせなら美しい機体を作りたい。そう思うのは自然な事だ」


「然様。ただ機能性を追求するだけでは二流。一流は見た目もあってこそ」


「美と力の融合。それを友人にプレゼントしたいと思うのは決して間違っていないはずだ」


 右から残念イケメン、触手メガネ、ゴリラがそんな事を述べる。


 無造作に置いてある紙の一枚をつまみ上げ奴らに見せた。


「で、この絵は?」


「「「ふくよか蛸混ぜマッスルマスターDX」」」


「どこからツッコんでいいかわからねぇ」


 なに、この……なに?


 パンパンに膨らんだ胴体に、マッスルな顔とふくよかな顔が二つ生えている。そのうえ腕が四本生えておりこちらも肉肉しいのと筋肉の両パターン。で、下半身は蛸みたいな触手と。


 ……控えめに言って化け物では?


「いやだわ奥さん。ツッコむだなんて」


「昼間から脳内が真っピンクですわ奥さん」


「とんでもねぇお変態ですわね奥さん」


「よし、全員歯を食いしばれ」


 唸れ僕の右拳!!!


「「「うわらばっ!?」」」


 悪は滅びた。


「というか、依頼するのはあくまで鎧部分だけだから。内部のデザインまではこっちで決めるから」


「つまり、今回も爆乳美女にすると?」


「……そ、そこはまだ未定だから!!」


 何やらレイラが『人工子宮をいつか手に入れるのならトラブルに備え複数機あった方がいいですね』と言っていたが、僕は知らない。無実である。


 守護精霊は主の一部?ちょっと何のことかわからねぇや。魔法の事はさっぱりなので。


「変態」


「助平」


「巨乳フェチ」


「うっせぇバーカ!バーカ!!」


 三馬鹿に捨て台詞を吐き部屋を出る。お前らなんてもう知らない!


「走って転ぶなよー」


「知らない人についていかないように」


「転んでも泣くなよー」


「幼児か!?」


 Uターンしてツッコム。ちくしょう、わかりやすいボケしやがって!



*  *    *



 馬鹿どもと話した日の午後。電車に揺られてついた先は、少し寂れた街だった。


 ゴーストタウンとなった場所をバスで抜けて、たどり着いた建物で着替えを済ませて受付に。


 そこで冒険者免許を提示して、中に。そこには、白いゲートが存在していた。


 魔装を纏い、そのゲートを潜る。一瞬だけ感じる異界に入った時特有の違和感。その後、松明に照らされた石造りの床に足をつけた。


「皆、出て来てくれ」


 レイラが、雪音が、リーンフォースが現れ自分もツヴァイヘンダーを抜く。


「今日もよろしく頼む」


「お任せくださいまし!」


『了解』


「はい、行きましょう」


 いつも通りになった、ダンジョン探索。


 二年と半年前には考えられなかった日常を、今日も生きていく。


 バケツみたいな形をした兜の調子を確かめて、ダンジョンの中を歩き出した。





ここまで読んで頂きありがとうございました。

皆さまのおかげで今作も無事に完結まで行く事ができました。感想、評価、ブックマークは創作意欲の良い燃料になってくれました。

改めて、ここまでお付き合い頂き本当にありがとうございました。


本日から新しく、『ナー部劇風異世界で』を連載させて頂く予定ですので、そちらも見て頂けたら幸いです。


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― 新着の感想 ―
つや姫を加えて百合トリオ米の常食も辞さない所存。
[良い点] 良かったです。ありがとうございます!
[一言] 6日遅れで完結お疲れ様でした 大変楽しませていただきました 過去作次作も読みたいと思います
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